2012年は「経験」がキーワードになる

今週、『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?』が日経BPストアソニーリーダーストアから電子書籍として発売になりました。今月はリクルートの雑誌『ワークス』の現地化特集の冒頭でもインタビューが取り上げられ、来月はテレビ番組でも紹介されます。ローカリゼーションマップの考え方がじょじょに浸透しているのを、こうした目に見えるカタチで確認できるのは嬉しいです。前著『ヨーロッパの目 日本の目』でローカリゼーションの重要性を一般の人に向けて語り始めてちょうど3年になりますが、まったくのゼロからスタートしたプロジェクトとして悪くない進捗であると思っています。

最近では文化人はビジネスのことを知らないだろうからと、ビジネスについて薀蓄を傾けてくる人もいて苦笑いです。ビジネスへの文化理解の適用を語っているその趣旨を分かってくれていないことへの苦笑いと、ぼく自身が著作と講演でやっている人間-文化人ーであると思われていることへの苦笑いです。ぼくが工場のなかに入り込んで技術供与の商談をしたり、弁護士と一緒にタフな契約交渉をしていることを幸いながら(笑)ご存じないようです。

ローカリゼーションマップの活動を通じてつくづく思うのは、大企業の名刺で仕事をしていないがゆえに分かってきたことがぼくのベースになっているということです。ぼくが大企業にいたのはもう20年以上前の昔話になりますが、思うに年齢や経験の量だけでなく、その立場ゆえに見えないことが多かったと今更ながらに感じます。いわゆるグローバル企業でたくさんの違った国籍の人と日常的に協業して得る経験で見えてくることは、その企業文化やそのレベルのビジネス文化について素養ができることを意味するにーあえて言えばー過ぎないのです。サプライチェーンの末端に伸びる小さな細胞がグローバルビジネスを支えているにも関わらず、多国籍企業の従業員は思いのほか、末端の細胞事情を理解するのが不得意であるとの矛盾を抱えています。大企業の従業員がマーケットを実感として把握しにくいのは、こういう背景にも原因があります。

大企業の名前で契約をする場合には浮上してこない個々の文化のプライドや拘りが、小さな企業の名前で契約する場合には覆い隠すのができないほどに露骨に出てきます。日本人なんか嫌いだと人種差別の目でみるビジネスマンの振る舞いにこそ、そのビジネスマンの住む世界の特徴が見えてくるのです。これらを体験してきたことが、実はぼくの宝です。ローカリゼーションマップの考え方のエッセンスには、嫌なシーンをたくさん味わってきたがゆえの反省が込められているともいえます。イタリアはドイツではなく英国ではないがゆえに、日本文化やその製品への評価が芳しくない。だからこそクールジャパンに浮かれないロジックをイタリアで生活するぼくは見いだせるわけです。

人はたいしたものではなく、自分の経験してきたことでしか視点を獲得しづらいものです。読書はそれを補いますが、補えない部分がはっきり分かるという意味で読書の有用性を語るのが正確でしょう。しかしながら、「自分は経験がない」との弁解で歩を止めるのはできません。とするならば、経験しないことを経験したことと同等の位置に格上げする方法を編み出さないといけません。大企業にいて見えない部分をどう見るか?逆に中小企業にいて見えない部分をどう見るか?

人ではなくモノのローカリゼーション期待度を観察して異文化の特徴を把握するのは、その一方法です。人を見るなというのではなく、人を見ることだけでビジネスを前進させる異文化理解・判断は難易度が高いため、敷居の低いセッティングを考えようとの提案です。一般的な話に落とし込むなら、汎用性の高い土俵を自らつくる知恵が経験不足を補完します。もう一つの方法は、ほっぽっておいても垢のように堆積する個々の経験の純度を如何に高めるか?に鍵があります。純度を高めるとは、一つの経験をいつでも取り出しやすいようなアーカイブにすることでもあります。さらにAの経験とBの経験の絆の作り方パターンをマスターすると、アーカイブはより活用しやすくなります。これがマスターできないと、自分の経験の「孤独感」に悩まされます。

2011年も残りわずかです。「『新しい発想』と『自分の言葉』を同義と考えてみる」で書いたことの発展系を考えているところです。来年の中心的テーマになってくるはずです。どういうカタチで世に問うていくか? 今、着々と準備を進めていますからお楽しみに!

 

 

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Category イノベーティブ思考, ローカリゼーションマップ | Author 安西 洋之