今年のサローネのポイントは2か所だと思いました。ひとつは Fabbrica del Vapore 。そこで実施されているLow Cost Design とAutoproduzione a Milano 。後者はエンツォ・マリの35年以上前のアイデアがベースになっています。今後、 Fabbrica del Vapore がFabLabのミラノの拠点になっていくことが時代の方向を指しています。
もう一つがDomus and Audi です。ここに FabLabトリノのオープンワークショップがあり、FabLab はエンツォ・マリの発想がやっと実現しつつあるという説明があります。すなわち、これがFabLab を巡るイタリアのコンテクストなのです。さらに、オープンソースを利用して実現したアイデアの数々をテーマにした展示が2階にあり、たとえばオランダの Droog Design が素材の再生社会システムを提案しています。ランブラーテではなくクレリチ宮という市の中心にある格式のある建物で、このようなイベントが開催されていることに今年のサローネの意味を見るのです。保守的なイタリアが、こうして外のトレンドと折り合いをつけ始めている、と。

上の写真のテーブルにあるのは3Dプリンターの原理を使って料理のレシピをフレキシブルに提供しようという提案です。スペイン人のデザイナーたちがシェフとコラボしながら進行中です。

まだまだ未完成ながら、とにかくプロトを出して多くの人からフィードバックを受けてアイデアを発展させていく姿勢が基本であり、デザインとはすべてのプロセスをカバーしていることがよく分かる事例です。

上はミラノ大学で行われているBMWのMINIに対する「非カーデザイナー」の提案です。これまでも「非カーデザイナー」のプロジェクトはいろいろとありましたが、この展示を見ていると、もうクルマのことはカーデザイナーの専有物じゃないという時代性をより強く感じます。EVへの潮流に加え日常性重視やオープンソースが当然視されていく現象を、この展示は物語っています。そのような気分のなかで、サムスンはよくその空気をとらえていると思います。

サムスンの軽妙なスペースをみていて、日本企業は「空気を読む」のが大好きなわりに、外国での空気にはあまり関心がないんだなということに気が付きます。しかも、日本企業はどうも展示イメージが「固い」。建築家を登用することがはやっているようですが、アーティストに任すともう少しイメージを軽めに出せるのではないかと思います。隈研吾が語っているような背景が建築家の周囲にあるにせよ、建築家はアーティストになりきれないでしょう。
隈:そう。ある若手の場合でいうと、有力なギャラリーが既に付いていて、彼をアーティストとして積極的に売り込んでいます。つまり、建築家を「建築のデザイン技能を持つ人」として扱わずに、一 種、アーティスト的な存在としてパッケージングして、早めに換金してしまおうとする仕組みです。
建築家の方も、そういうパッケージに乗れば、建築を設計するなんていうダサいことに関わるより、手っ取り早くお金が入ることに気づいてきた。僕は、そういう新世代の建築家をひそかに「パビリオン系」と呼んでいるんだけど。
街中で雑談をしている女性たちはもちろんファッション系「サクラ」ですが、このような「空気のつくり方」を日本企業も習得すると良いでしょう。

以上のような流れをじょじょに感じつつつ、一歩一歩前に歩を進めているのが千葉工大の山崎和彦教授の研究室です。2年前から10人程度の学生と一緒にデザイナーズブロックに出展し作品を販売しています。そして、今年は会場でワークショップも行いました。場所はカフェです。事前にワークショップのやり方が書かれたマニュアルを用意し、普通の場所で実施します。

ワークショップといえばポストイットや数々の材料をそろえて参加者をのせることが抜群にうまいファシリテーターがやるもの・・・という壁を取り払おうとしています。あの陶酔的なムードに至らないと敗北感を抱くことを排除しています。今回は個人個人が動物との経験談を書き出し、それを話し合うことで、体験の共通点と相違点をピックアップし、その共通点から動物のカタチをデザインするに至ります。

上の写真は学生の作品で、はがき大の板をレーザーカットして作ります。しかもオープンソース時代にあわせデザインパターンを用意し、デザインが苦手な人でもモディファイしていき実現が楽にできるようになっています。

有名ブランドの有名デザイナーの新作を追うだけなく、サローネの時期に集合知の生かし方を世界から集まった人たちが話し合う・・・そういう風景の変化がこれからもっと広がっていくでしょう。
昨年、ミラノ東北のランブラーテ地区を「イタリアデザインの出口というより、外国デザインの入口である」と書きました。今、そのランブラーテの地下鉄の駅を外に出ようとすると階段の手前に下のようなイラストが壁に貼られています。

「あっ、やったな!」と思わず感嘆の声がでました。もともと工場や倉庫などが多かったのがロフト感覚あふれるゾーンに変わりつつある、そのムードにイケアのブランドイメージがばっちりと合うのです。オランダや北欧群のデザインが溢れ、イケアがポリシーとして押し出す「公平感」がこの地域の文脈と嵌ります。イケアがトルトーナではなくー数年前にトルトーナで出展したことがありますがー、このゾーンで新作発表の展示を行うことが如何に戦略的であるかが見えます。

このメッセージがあるギャラリーの壁に貼ってありました。この近くでイケアは商品を展示しているわけです。このギャラリーの向かいでは英国のRCAの学生たちがコンセプチュアルな作品を多く出しています。時間や経済的な価値の見直しをテーマにした展示があるなか、中庭では「ミラノでお金を作る」というパフォーマンスまでしています。

もちろんイケアは周辺で展示される作品を事前に知って展示場所を決めたわけではないでしょうが、抜群のロケーションです。その次に、ぼくが気になったのは、analogiaproject です。ロンドンで活動する2人のイタリア人の作品です。構造を釣り糸ですべて不可視にしてウールでカタチを作っています。近くでみると縦横ななめに細かく張り巡らされた糸が見えますが、これは「究極のミニマリズム」ではないかと思いました。そして「究極のミニマリズム」とは近寄りがたい存在のことである! 笑。

アイデアと存在感で光っているのは、オランダの Studio Smeerolie です。プレゼントされた花を自分の都合の良い時に受け取れるサービスです。しかも、花を飾っておく物理的システムがあります。花の循環システムとその可視化が実現されていることになります。

デザイナーはメディア、文化、心理学、デザインなどを勉強してきた女性です。人や社会にとって不足している部分をみつけ、新しいシステムを作ってゆきたいと語ります。サービスデザインをやる人には、こういう明るさが欲しいなと思いました。

今日も最後に日本人デザイナーの紹介をしておきましょう。福定良佑さんです。プロダクトデザイナーで家具などをデザインしているなかで、個人的な思いを表現したくなったそうです。そこで家具のカタチをしたお菓子を作りました。ポルトガル人とのコラボです。カステラはポルトガル生まれだと思っていたら、ポルトガル人の知恵に基づいた日本のお菓子だと知ったところに発想のスタートがあったとのことです。遊び心のあることをやっているデザイナーの笑顔はいいです。

サローネの若手デビューの場として1997年からスタートしたサテリテが15周年を迎えました。そこで過去の入賞者が招待され「その後のデザイン」ブースを構えています。15年前からサテリテを見学してきたぼくには、この15年のサテリテの「変貌の結果」が本当に良いものなのか?という疑問が頭をよぎりました。最初の頃、そこはロックンローラーの世界だった。学生か卒業したばかりの若手たちが、「ガレージでアイデアをカタチにしてきました」というムードが強く、「製品化したいんならしてみたら?でも、それにはちゃんとコンセプトを理解してよね!」と言うとあまりにエラソーですが、そういう感じがなきにしもあらずでした。自分で商品化の筋書きを書くのではなく、「アイデアを出すから、あとは考えてちょうだい!」という場でした。

今のサテリテを端的にシンボライズしているのは、この上の写真にあるインド人デザイナーのブースでしょう。自らの笑顔の写真を大きく出しているところなど、ロックンローラーの世界とは縁遠いです。良いデザインであるとぼくも思ったのですが・・・とにかく、「ここまで製品化検討をパッケージで考えました」という隙のなさが良くも悪くも目につきます。ファブリカ・デル・ヴァポーレでマエストロクラスのデザイナーも均等スペースー合計200!-でアイデア発表しているAutoproduzione a Milano(↓) となんとも対照的です。

プロトタイプで小さく細かく勝負していこうという時代に、サテリテに出ているデザイナーは商機を見出すことに焦るあまり、自らの強みである「自由奔放な発想」を切り捨てているように見えてしまうのです。その意味で、ベルギーで世界の集合知を生かす試みを1997年から行っているaddictlab.com に好感がもてます。↓の彼です。


また、自分のアイデンティティを形作っている親族が死んだことをきっかけに、その家にあった記憶をリデザインすることが自分がデザイナーになるきっかけであったと語るポルトガル人の女性の世界に「らしさ」を思います。ぼくは最近の「共感が重要」と叫ぶ姿をあまり好みませんがーそんなことに今ごろ気づくな!と言いたいー、彼女と話していると「共感」とは何であるかをよく心得ていると思います。
サテリテを後にしてサローネのコンテンポラリーデザインを見に行きました。CASAMANIAは大物家具とは一定の距離をおきライフスタイルを提案して伸びているメーカーです。ここに、茨木千香子さんの作品があります。

昨年、ランブラーテの倉庫で開催されたデザイナーズ・ブロックの一角で偶然にみかけた彼女の本棚が気になってこのブログで紹介しました(↓)。そのデザインが、このようにして大手メーカーのブースで紹介されているのを見ると、やはりうれしいです。この作品は見ての通り、デザインのロジックそのものが記憶に残ります。
