Date:12/5/6

セント・マーティンズ大学について語ろう(2)」からの続きです。この回では、何をイノベーションとみるか?ということを考えてみましょう。ファッションイラストレーターの師事した先生は、時代ごとのファッションのパターンを教えます。そのシルエットパターンは丸、四角、弓状などに分類され、たとえばJAZZ AGE と呼ばれた1920年代、四角が主流でした。映画『グレイト・ギャツビー』に出てくる登場人物たちをイメージすれば「ああ」と納得するでしょう。すべて下にすっと流れ落ちるようなスタイルで、アクセサリーも長く垂れます。

横に広がるのではなく、縦の動きです。スカートの裾のところでやや広がるのも特徴ですが(上の右端)、およそ縦を基本とします。それが1950年代のファッションでは、腰を細く絞りスカートが半円状になります。そう、丸の時代です。そして、モデルの立ち方はX字のように組み、手もダンサーのように横に伸びます。

しかし、1960年代になると丸から四角に変換します。モデルも手を腰にあてたり脚の片方を曲げたりすることが多くなります。

こうしたシルエットの特徴の変遷を単純化したスケッチに落とし込む。パターンを身につけるのです。卒業生のファッションイラストレーターは「ファッションを勉強すれば、何年代はどういうデザイナーが活躍して、その代表作を諳んじ描くこともできます。しかし、それをシンプルなカタチで体系だって説明できるように教育された人は少ないのでは?」と語ります。

ヨーロッパ近代とは、ものごとに境界線をひいて分類をすることにはじまったとぼくは理解しています。そこで肝心なことは、分類わけしてそこに当て嵌めて満足するのではなく、どうしても嵌らないことをどう問題として見えるカタチで目の前にそのまま提示しておくか、いわば付箋を張り付けておくことではないかと思います。

パターンを学ぶとは、本当の解決すべき問題点や革新的な方向を見極めることです。ですから、セント・マーティンズの教育に沿っていえば、それぞれの時代のパターンに入りきれなかったデザインにイノベーティブの芽をみることです。その芽がどう転換を創っていったかを学べば、学生は今、何に流されないようにすべきか、何処に自分のアンカーを下すと良いのかが分かってきます。エッジを効かすポイントが見えるのです。

2010年にパリのグラン・パレで開催されたモネ回顧展の感想を書いたことがあります。

「既にどこかの美術館や本でみた作品だから・・・」と思うと間違えます。既にみたことのある作品に近い、しかし微妙に異なる作品が複数ならんだ時、「あっ!モネが狙っていたのは、これだったのか!」と動的に把握できます。ある作品を凝視して自分の想像力で、その作品がより大きい存在になる・・・しかし、それは他の有名な作品とは面で繋がらない。そこにちょうどはまる面を構成するさほど有名ではない作品が挟まると、とてもダイナミックな世界が展開する。こういう経験の連続を、この回顧展で得ることができました。

ファッションイラストレーターはセント・マーティンズで、この回顧展のキュレーターの「企み」のしかたを学んだのではないか?と想像しました。次は、彼女のスケッチブックを紹介しましょう。

Date:12/5/5

 

セント・マーティンズ大学について語ろう(1)」の続きです。大学はどんなところなんでしょう。ファッションイラストレーターの会話を続けます。

「決まったカリキュラムがあるわけじゃなく、また、先生が『この指とまれ!』と声をかけるまでもなく、学生が独自に先生にアポをとって『面倒見てくれ』と頼んで受けいられるかどうかなんです。そして期末にアウトプットを出せばいいんです。とっても自由です。でも、アメリカから来た学生たちには評判が悪く、『高い授業料を払っているのに、教育がシステム化されていない』ってブーイングするんですね。私なんかからすると、『何言ってるの?』って感じ」

ここでミラノ工科大学のマスターに留学していた学生の意見が頭によみがえりました。「フィンランドのアアルト大学にもいたことがあるんですが、あそこはすごくきめ細かでした。正直言って、このポリテクニコのカリキュラムは配慮が届いているとはいえず、結果的に能力のある卒業生が有名になっているという感が強いですね」と語ったのです。この学生の工科大学へのネガティブな評価ポイントが、まさしくセント・マーティンズ大学の「売り」であると、ファッションイラストレーターが指摘するわけです。「リサーチ」という言葉の指す範囲や重点の置き方にも言及します。

「米国ではリサーチというと、市場リサーチやユーザーリサーチに重きが置かれがちなんですが、セント・マーティンズで繰り返し言われたリサーチの重要性というのは、あまりそういう対象ではないんですね。それは街を歩く人の姿も熱心に見ますが、木々の落ち葉や道に落ちてる紙の燃えカスだったりをスケッチブックに貼りつけ、そのスケッチブックを充実させていくことなんです。スケッチブックにきれいに絵を描いていくことじゃないんです」

エッジのきいたコンセプトを生み出すに、自らがエクストリーム・ユーザーの立場を強化するよう鍛えることかな?とも思います。たとえば米国でエクストリーム・ユーザーとの接触が重要とされるのは、どうしても市場リサーチに傾きがちであることへの反対方向への動きと言ってよいのではないかと、ここから想像できます。話を聞く限り、セント・マーティンズで教えられる「リサーチ」は、リアルやヴァーチャルにかかわらず、周辺事象を極めて内省的に眺めることではないかと思えます。

そのファッションの学生たちが、こう言うそうです。「プロダクトデザインの連中って頭いいよね。哲学や歴史の本もたくさん読んでいるし、私たちとは違う人たちよね」と。そういえば、かつて、セント・マーティンズで勉強したプロダクトデザイナーが「教養のない人はデザイナーの資格ないですよね」とぼくに話していました。しかし、そのプロダクトデザイナーがテキスタイルやファッションの人たちの表現の方向を見ているのですから、面白いものです。

ファッションイラストレーターが、こう続けます。「エッジのきいたデザインというと、たとえば、ミラノでいえばコルソ・コモ10で売っているようなファッションを指すのですが、そうしたデザインにでているコンセプトというのは、私たちが見ると、ああ、これは誰のアート作品をみて作ったな、ってわかるわけですよ。ガウディの建築に影響を受けたとか。そして、マスレイヤーに下がっていくにつれて、そのスタイルだけがトレンドのシンボルとして継承されていくんです」 ということは、コンセプトの素への接近力こそが「実力をつける」ことの中身になります。

ぼく自身、新しく、かつ歴史に残るコンセプトは米国ではなく欧州で生まれやすい・・という確信からヨーロッパを活動のベースにする決意をしたので、このあたりの説明はよく分かります。次回は、セントマーティンズで何を基盤としておさえ、何を革新とするか、をどのように教えるのかという事例を紹介します。

 

Date:12/5/5

「同じモノを目の前に、プロダクト、グラフィック、ファッションのデザイナーが素描するとするでしょう。そうすると、かなりそれぞれのフィールドの違いが出てくるんですよね。プロダクトでは輪郭線がはっきりするけれど、ファッションではぼやける部分を残すんです。基本、動きのある人体を相手にしているんから、どうしてもはっきりしないラインは『はっきりしない』と表現するしかない習慣が強いわけですよ。もちろん、そういうことがプロダクトのデザイナーには許されないので、何でも(私からみると)無理に『はっきり』させる傾向があると思いますね」と目の前のファッションイラストレーターが語ります。ヨーロッパのファッション雑誌にイラストを描いている彼女は、ファッションの世界とプロダクトのそれを分ける、もう一つのヒントを提示してくれます。

「私たちは、できるできないかは別にして、アイデアをどんどん出していくトレーニングを受けてきましたが、プロダクトは構造や生産性を最初から考えながらアイデアを出すように道案内されてきていますよね。それは対象が違うから当然の帰結ですが・・・」と続けますが、この話しを聞きながら、ぼくはあるエピソードを思い出します。

子供が3-4歳のころ、子供の身体に合わせた服を母親と子供で一緒に紙で作るというワークショップがありました。イタリア人のママたちは、自分のイメージする立体を最初に考えると、それをベースに平面に置き換えることなしに、紙細工をはじめます。つまり、スムーズなカーブを折り目できれいに実現することに頭を悩まして作業が止まるのではなく、ややヘンテコなカーブであろうと、まずは自分のイメージに近いカタチにしあげるーとすると、折り目ではなく2枚の紙をホチキスで無粋につなぐようなことが多くなるー。それは張りぼて的ではありますが、自分のイメージを直線的に表現しようとする意思が強く見え、結果的に「ディテールはさておき、欲しいイメージが分かる」ことになります。これがディテールで手が止まりがちな、日本のママとちょっと違うところなんではないかと想像しました。

言うまでもなく、プロのファッションデザイナーやイラストレーターとど素人を比較するのは恐れ多いのですが、どうもファッションフィールドの人たちとプロダクトデザイナーの間にある差も相似の関係ではないかという印象をもちます。数々の厳しい制約条件のあるところでコンセプトアイデアを練っていくのが仕事で、ファッションの人たちも制約条件のなかで作業するわけですが、条件の質の違いが両者の発想の枠組みを規定しており、特にプロダクトデザインのイノベーションを考えたときファッション領域にネタがありそうです。そういうわけで、これからテキスタイルやファッションの話題も、このブログのエントリーに入れていこうと思います。

で、冒頭の女性が卒業したロンドンにあるセント・マーティンズ大学で何を学んだか?から紹介していきます。ジョン・ガリア―ノ、アレキサンダー・マックイーン、ステラ・マッカートニーのような卒業生の名前が綺羅星のごとく並び、ファッションビジネスを思いのままに操っている(ようにみえる)LVMHの主要ポストは、同大学の出身者によって占められています。彼女によれば、「新しいコンセプトは、セント・マーティンズ大学かベルギーのアントワープ大学の出身者から生まれていることが多く、フランスやイタリアのファッション教育は一時代古く見えてしまう」そうです。「RCAは?」と聞くと、「あそこのファッションは品が良いんだけど、ビジネスでセント・マーティンズほどの勢いはない」との言葉が返ってきます。

それでは、セント・マーティンズの教育を知らないわけにはいかなくなります。次回は、この大学について書きます。
+1: セントマーティンズの正式名称はCentral Saint Marins College of Artで現在はロンドン芸術大学University of the Arts Londonという大学機関の中の、ひとつのカレッジ。一般的にはCSMと略す。