メトロクスものがたり の記事

Date:08/11/14

下坪さんは、中学と高校ではバスケット部で活躍します。シューターでした。本人の表現によれば「まあ、まあ、上手かったほうでは」とのことです。高校の頃の趣味に、今の仕事に通じる芽がみられます。お父さんのもっていたロンジンなどの古い腕時計に興味をもち、「使い込んだ古いものの味にしびれた」と言います。彼が社会人になって今の基盤を作る最初の仕事が、アンティーク家具ですから、この古い腕時計に対する目覚めは重要なポイントだったと思えます。

彼の実家は札幌から2時間ほど離れた街です。高校生になると、電車に乗って札幌に洋服を買いに行くのが楽しみの一つになります。雑誌では『ポパイ』『ホットドッグプレス』『メンズクラブ』『ブルータス』などを読みます。特に本を読むタイプではなく、小説などほとんど手にしないといいます。漫画も読みません。しかし、現在、その彼のオフィスに膨大な各国言語のデザイン書籍があります。そのあたりの変化は20代になってからです。彼は本に頼ることなく、自分の頭でよく考える人だったのです。

高校を卒業し、デサイン専門学校でインテリアデザインを勉強しました。雑誌でみた空間デザイナーをカッコいいと惹かれたのです。この学校に通うようになり、あらためて幼少の頃に日常にみていた原色系、黄色、オレンジ、グリーンといったカラーが好きだったことを再認識したようです。

デザイナーにはなろうと思わなかったといいます。デザイナーをやるには、もっと才能が必要だと自覚していました。ぼくは、この言葉を聞いたとき、下坪さんがその頃に狙っていたデザインのレベルが分かるような気がしました。最上レベルのデザインが自分の手から実現できないなら、自分は裏に回ろうと思ったのではないかと思います。その通り、彼は卒業後、イデーの札幌店に入ります。当時デザイン家具を扱う会社としてはイデーが一番新鮮でした。札幌店は4-5人の店員規模だったようで、彼も一店員からスタートします。

Date:08/11/12

小さな頃、下坪さんの趣味はコレクションでした。ミニカーです。トミカ(現タカラトミー)から出ていたミニカーをショーケースに埋めていくことが最上の喜びでした。セメント施工の会社をやっていたお父さんがお客さんに集金に行く際、彼はお父さんのお供。そして、その帰りにいつもプレゼントがあったのです。

いわゆるスーパーカー世代です。でもミニカーはスーパーカーより普通のクーペなどが中心でした。クルマそのものへの関心もさることながら、「ショーケースのなかに何かが欠けている」ということが気になって仕方がなかったのです。このあたりに、下坪さんの「完全」に対する情熱がみえます。

しかしながら、家にこもりっきりの子ではありません。小学校3-4年生の頃、そろばん塾の帰りがてら、町内にあった街灯を片端から石を投げて壊したことがあります。木の電柱で電球も低かったのでしょう。それにしてもたいした命中率です。しかし、下坪さんは翌日、お母さんに電柱に縄でしばられ、2時間ほど泣きっぱなしだったそうです。通り行く人やクルマが皆、足をとめていくわけですから、かなり厳しいお仕置きです。

下坪さんのお姉さんは1歳年上です。背も高く運動も勉強もでき、いつも弟として悔しい思いをしていました。そのお姉さんが中学1年のとき、下坪さんが小学校6年生のとき、二人で喧嘩して弟は彼女を投げ飛ばした。このときの解放感と爽快感は忘れがたいといいます。街灯を壊したことといい、その頃の腕白ぶりがほほえましいです。とにかく、学校では工作が好きで、モノ作りが大好き。でも少年野球では投手。バランスの良さが窺えます。

Date:08/11/12

「90年代のなかば、ぼくにプラスチックの本を送ってきて、こういうインパクトの強いプラスチックの製品を扱っていきたいとおっしゃってましたが、原イメージとして、つまり幼少の頃に接したどんなデザインが記憶に残っているのですか?」

ぼくが下坪さん(メトロクス社長)にこう質問したのが、「メトロクスものがたり」を書こうと思う契機になりました。この10月、二人でイタリア各地を旅したのですが、レストランで夕食をとりながら、クルマでボローニャからフィレンツェへの高速道路を運転しながら、ホテルのバーで酒を飲みながら・・・結果的にほぼ1週間、毎日、ぼくが質問をしながら、多くの記憶を辿ってもらうことになりました。

ぼく自身は「ミッドセンチュリー」という言葉が好きではないので、「モダンデザイン」という表現をつかいますが、1990年以降の日本におけるモダンデザインを下坪さんの個人的なヒストリーを元にビジネス面から語っていこうと思います。きっとそれによって、メトロクスというブランドの歴史や意味が伝えられるのではないか。そう考えたのです。

冒頭の質問に戻ると、196?年生まれの下坪さんは、こう答えました。「台所のテーブルにかかっていたビニールのテーブルクロスやタッパーウェア、あるいはグラスですかね。こういうものの原色系、黄色、オレンジ、グリーンといったカラーがとても印象に残っていますね。でも、こういうのを改めて意識したのは、高校からデザイン専門学校に通っていた時代の、洋服のモノトーンに嫌気がさしたからかもしれないんですよ」

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