メトロクスものがたり の記事

Date:08/11/21

アンティークをメインとするメトロポリタンギャラリー以外にも、20世紀半ばのアメリカンデザイン家具を中心として扱う米国モダニカ社の「モダニカ札幌」というポジションもありました。日本のモダニカは東京が中心で、名古屋、福岡、そして札幌は下坪さんの会社が運営するという協力関係が形成されました。メトロポリタンギャラリーで開催した「‘60年代の室内」という展示会に、雑誌編集者などと共に、モダニカ関係者が訪問してくれたのが契機です。そして、ここでイームズのシェルチェアがヒットします。札幌のお店で4万円の椅子が毎日一脚は売れたのです。

米国のモダニカが新聞に広告を出し米国全土からシェルチェアを買い集め、5桁にのぼる在庫を倉庫に積み上げ、それを大々的に米国、英国、日本で売り出しました。従来のアンティークショップより、モダニカは1-2割高い価格でした。しかし、アンティークショップでは2-3脚が販売ロットだったのに対し、モダニカは100脚をいっぺんにすぐ用意できたのです。日本で評判となったのは、もう一つの幸運があります。雑誌『ブルータス』がイームズの特集を組んだのです。これがイームズブームに火をつけました。

その頃、パントンチェアがヴィンテージものとして6-7万円したのですから、4万円のシェルチェアは割安な価格です。しかし、シェルチェアブームには別の意味もあります。それまで、イームズの椅子は建築家やデザイナーが買うアイテムでした。それが20代の普通の女性も買うようになってきました。それまで彼女たちがデザインという時、雑貨、それも花柄のファンシーな商品がメインでした。その彼女たちがインテリアの椅子に目が向くようになったのは大きな変化です。70-80年代に「自立しはじめた女性」が、90年代になって余裕がではじめてきたという時代背景とも関係があるでしょう。

Date:08/11/19

買い付けの仕事は孤独です。倉庫にモノをおさめたら、ホテルでその日の経費計算をしないといけません。アンティークの世界は領収書もきちんとしていないこともあり、数字を忘れる前にノートしておかないといけないのです。そして次の日も朝早く6時頃には出発しないといけません。パブで酒を飲んで暇つぶしする時間はないのです。こういう生活が4週間、土日なく続きます。

ぼくは、この禁欲的な出張の話を聞いて、映画でみるスパイの孤独な旅を思い起こし、思わず「かっこいいですねぇ」と言ってしまいました。下坪さんの出張で感心したのは、この禁欲性だけではありません。そのような生活が続くので出張の日当が貯まっていきます。そのお金は自分の向学のためにデザイン関係の書籍を買い集めることにしたのです。

この会社は結局5年勤めました。前回書いたように、下坪さんの扱いたいデザインははっきりしていました。自分の道を歩いていくタイミングがきたということです。1993年に独立します。メトロポリタンギャラリーの誕生です。都会的でギャラリーのような余裕のある空間を、との思いがこの名前にこめられています。

「1996年頃、ぼくが下坪さんから初めてコンタクトをうけたとき、ジョエ・コロンボが好きで、この商品を扱いたいと言ってましたけど、初めてのジョエ・コロンボの製品は、どこで何を買ったのですか?」と尋ねると、パリで買ったスパイダーだったとのことです。3万円です。今も事務所のデスクに置いて使っています。その次にコンフォルトのエルダも買い、プラスチック製品の解説ではバイブル的存在の L’UTOPIE DU TOUT PLASTIQUE 1960-1973 もパリで入手します。じょじょに準備が進んでいったわけです。ただ、ダイレクトに、この路線にきたわけでもありません。

Date:08/11/17

およそ1年間、イデーで仕事しました。常連のお客さんからオファーをもらい、イデーを退職したのです。婦人服デザイナーで自分のお店で販売を手がけている女性が、旦那さんと一緒にアンティーク家具の店をはじめるので、そこで働いてくれないかというのです。旦那さんは商社の駐在員として米国西海岸で生活したことがあり、その頃に見ていたインテリアデザインに興味があったようです。

こうして西海岸や英国に毎年2回ほど出張する生活がはじまります。最初の2年は、オーナーと一緒でしたが、その後は一人です。アールデコや1930年代の家具がメインでした。クロームや黒のモノトーン、高級感のあるマホガニー系の赤茶色が、時代のムードとあっていたのでしょう。こうしたデザインあるいはいわゆる猫足の椅子などが扱い商品の主流でした。ただ、下坪さん自身の趣味ではありません。1950-60年代のデザインに興味がある彼にとって、これらのラインは重過ぎます。

アンティークの買い付けは気力勝負でもあります。約1か月、トラベラーズチェックをもって、各地を巡ります。小型トラックやワゴンタイプのレンタカーでショップカタログと地図を片手に、一軒一軒掘り出し物を探していきます。店だけでなく倉庫にも入り込み、埃だらけになりながら、棚の上や下に目をやります。「いいものは、店主も忘れかけたような棚のてっぺんか下に隠れてある」というのが学んだことです。

購入するとクルマに積み込み、宿泊先のホテルや契約先倉庫に運びいれます。丁寧に家具や照明器具を写真で撮影しながら分解していくのです。そして、それらを運送中の破損がないよう梱包していきます。そのため下坪さんは、今も名品の数々の構造を熟知しています。ピエール・ポランと話している時、下坪さんはザヌーゾのチェアの構造をすぐさま説明し、ポランに「あなたは、なんでも知っているんだね!」と大いに驚かれたこともあります。

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