メトロクスものがたり の記事

Date:08/12/12

(10)で紹介したピエール・ポランのプチデスクは、日本市場用として2003年に再生しました。自宅で仕事をする、居間や寝室の一角を書斎コーナーとして使う、さまざまな目的でこのデスクが出荷されていきます。毎月決まった数が売れるメトロクスの定番商品です。このような正統的なデザインが安定した評価をうるようになって、我々もとても嬉しいです。そのため、2006年、このプチデスクと同じシリーズの商品をF061サイドボードとして復刻させました。

2008年初め、フランスの家具メーカーであるリーン・ロゼが、プチ・デスクと同等の製品を発表しました。メトロクスはプチデスクを欧州で販売しないので、欧州はフリーであったわけです。脚の部分が若干違いますが、基本的には1950年代のポランのデザインの復刻版です。つまり、名前は違いますが、プチ・デスクと同じデザインです。我々が価値を発掘し2003年に市場に投入したデザインを、フランス大手メーカーが5年後に欧州市場で発表したのです。この知らせをポランから直接受けたとき、「やった!」と思いました。正直言うと、我々の手で欧州市場開拓できなかったのは悔しいですが、我々の目が彼らの先をいっていたことは喜んでしかるべきだと考えました。

過去に埋もれて見えなくなっているデザインを発見し、今の市場にマッチする素材を選びリデザイン。そこから量産化のルートを作り、世に再評価を問うわけですが、このプチ・デスクの例は、その一つです。プチ・デスクは下坪さんがパリの蚤の市でみつけた宝でした。ただ、いつもネタが蚤の市やアンティークショップあるいはデザイン書籍に眠っているわけではありません。それは多くの人の目に触れる場所であることもあります。

2007年、バウハウス最後の巨匠といわれたマックス・ビルの1930年代のアートポスターを再生しました。これは、どこかにひっそりと眠っていたものではなく、2006年、ミラノの大聖堂の横の王宮で開催されたマックス・ビルの回顧展にあったのです。ここに展示されている作品に感銘をうけ、その後、今は亡きマックス・ビルの著作権者探しをしたというわけです。

一つ誤解されないよう言葉を加えておいたほうが良いでしょう。メトロクスは過去のデザインを上のものとみなし、現在のデザインを低くみているわけでは決してありません。すべては同等です。しかしながら、今だけの流行のデザインには目を惑わされず、これがデザインヒストリーを作っていくだけの価値があるかどうか、そういう目と頭でデザインをみています。

今回がこのシリーズ最終回ですが、下坪さんのインタビューを番外編で近々掲載します。

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Date:08/12/11

下坪さん自身は、ヨーロッパデザインとジャパンデザインを同時に取り扱うことを、経営上の課題のためだけでなく、自分の趣味の変遷としても自然な流れとして受け入れてきました。1990年代の年齢20代から30代、彼は特に日本の伝統工芸に興味があったわけではないのですが、年齢が増すと共にだんだんと日本の手仕事の美しさにも惹かれていきます。かといってヨーロッパのデザインへの興味を喪失したわけではありません。40代の今も、ヨーロッパデザインの新しい企画に夢中です。

が、お客さんの目にはそう映らなかったようです。ジョエ・コロンボのような個性的なヨーロッパデザインに圧倒的に強いメトロクス。これがメトロクスのブランドです。今も他社では扱わないような希少性のあるデザインを扱って欲しいという依頼や、他では得にくいデザイン情報に関する質問を多くいただきます。それでも、日本のデザインや工芸品を扱うようになって、何かヨーロッパの味が薄まったのではないか、そういう印象をもたれた方達もいたようです。メトロクスは、大いなる反省をしなければいけないことになります。お客さんに分かりやすいイメージをもてるよう、ちゃんと二つ、つまりヨーロッパのデザインと日本の伝統工芸を明確に分けることが大事でした。

それではじめたのが、n-crafs@metrocs (エヌ・クラフツ)です。メトロクスと言う白地のキッチリ感のあるロゴはヨーロッパデザインを中心とし、エヌ・クラフツは紫色の柔らかいロゴで日本のクラフトものを扱う。こういう仕分けを目で分かるようにしました。サイトも二つが混ざらないよう、メトロクスのトップページではエヌ・クラフツに出会わずヨーロッパデザインを中心に楽しめ、エヌ・クラフツのトップページに飛べば、日本の優れた工芸品に100%浸ることができる。そういう工夫を施しました。

デザインの著作権がきれた作品を狙い、ヒット品と同じ商品を作るというビジネスがあります。名品を復刻するリプロダクションという表現に、それと似た印象をもたれることが全くないわけではありません。しかし、メトロクス自身が企画するリプロダクションで扱うデザインは、名品ではありますが、必ずしも「かつてのヒット作」ではありません。かつては注目されなかった価値を見出し、それを今の市場で再生することにメトロクスの強みがあります。

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Date:08/12/10

1998年、池袋セゾン美術館で「柳宗理のデザイン展」が開催されます。柳宗理は1915年生まれで、民藝運動のリーダだった柳宗悦の長男で、いうまでもなく既に工業デザインの第一人者ですが、この展覧会を境に柳宗理の再評価が高まります。その後、2000年代に入り代表作のバタフライスツールがよく売れるようになります。このあたりから、日本のデザインあるいは民芸品が見直されるという流れになっていったのですが、こういうトレンドを見ながらメトロクスが選んだ道は、バタフライスツールを追随して売ることではありません。

1990年代前半の猫足ブーム時代にヨーロッパのモダンな家具に目覚め、1990年代半ば、特にイームズブームの最中にイタリアデザインの準備をはじめた。流行りの通りにショップを並べる同業者とは一線を画し、新橋に店舗を構える。これが下坪さんのやり方です。インタビューしたデザイナーの面々の選び方も、一番光があたっている場所を避けているのが分かります。

経営面での大きな両輪作り。国内デザインの隆盛。この二つの背景をもってメトロクスがスポットライトをあてたのは、1911年生まれで現役の渡辺力さんです。1954年、清家清が設計した邸宅に渡辺さんはスツールをデザインしました。メトロクスはこれを「ソリッドスツール」と名付け、量産品として作りはじめました。2005年のことです。

2006年には日本の伝統工芸である切子展を行い、同じ年に1960年の長大作さんの作品、パーシモンチェアとマッシュルームベーステーブルを復刻させます。このようにして、ヨーロッパの輸入品やロイヤリティ生産、自社製デザイン品と国内有名デザイナーの名品という枠組みを作ることができました。しかし、そこに一つの落とし穴がありました。

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