『ヨーロッパの目 日本の目』 の記事

Date:10/12/7

のっけから本音で書きますが、パリのグランパレで開催中のモネ回顧展は抜群に面白いです。一人のアーティストの人生の作品をこうやって展示すると、最高の知的刺激を提供できると証明するモデルといえるでしょう。かなり大袈裟な表現ですが、それだけの興奮を与えてくれる展覧会でした。「既にどこかの美術館や本でみた作品だから・・・」と思うと間違えます。既にみたことのある作品に近い、しかし微妙に異なる作品が複数ならんだ時、「あっ!モネが狙っていたのは、これだったのか!」と動的に把握できます。ある作品を凝視して自分の想像力で、その作品がより大きい存在になる・・・しかし、それは他の有名な作品とは面で繋がらない。そこにちょうどはまる面を構成するさほど有名ではない作品が挟まると、とてもダイナミックな世界が展開する。こういう経験の連続を、この回顧展で得ることができました。

ある世界(観)を理解するには一定以上の圧倒的なインプットが必要であると思いますが、量もさることながら、面を形成する重要なポイントの選び方がエッセンスとしてあるのだと痛感しました。人の構想とは連続的なインプットによって作られ、それらは本人にとって必ずしも明確である必要はないのです。明確とは記憶に鮮明に残っているという意味で使っており、即ち、鮮明な記憶で構想が成立するのではないということです。しかしながら、どこかの分岐のしるしはきちっとおさえておかないといけない。それが「面を形成する重要なポイントの選び方」だと思います。モネは日本の浮世絵などを250点以上コレクションしていたそうですが、それが、二次元表現や同一素材を多角的にみる決定的な契機となったかどうか。影響を受けたでしょうが、モネがそう考えた方向性は他の種類の経験との複合と統合によって意識したのだと想像します。それが自ずと見えてくるようになっているのが、この展覧会の凄さです。「あなたにとっての一冊の本は?」という馬鹿馬鹿しい質問には、モネは絶対無視したであろうと思います。

モネや同時代の画家たちがかように日本美術にヒントを得ていたとすると、村上隆はモネがそのようにヒントにする元ネタを揺り動かすことによって、西洋美術史に自分の居場所を「作り出した」アーティストであるといえます。新奇なサブカルネタでハイアートに持ち込むという説明のしかたもあるでしょうが、ベルサイユ宮の展覧会を見ながら、これはベルサイユ宮の文脈の評価をあげるために開催されたイベントだと考えました。宗教の時代であり、国家権力の時代であれ、美術はその時代のコンテクストに嵌るように作品を作ることを要請され続けてきた。その時々、特に20世紀後半以降の西洋においてアーティストが決定権をもつスペースは広がったかもしれません。しかし、それは社会のストラクチャー自身の変化であり、アートだけが特権をもったとも言いがたいでしょう。この村上隆の展覧会は、この「アートだけが特権をもったとも言いがたい」ということがよく表現されています。

だから、村上隆の作品が17世紀のバロック様式に合うかどうかを議論すること自身が、ある意味、おかしいのです。あうべく企画された展覧会が合わなかったという意見はありますが、この展覧会を合わないというにはかなり難しいと僕には思えます。合ったと言った上で批判するところは批判するのが、この展覧会のフィードバックとしてポジティンブな考え方ではないではないかと感じました。グラスファイバーやプラスチックという材質が、あの空間で同じような質感をもてることとか、村上作品で使われているカラーが宮殿で使用されているカラーと相似であるとか、コンセプトが両者において近い方向を示しているとか、そのような指摘ができます。が、どうもそう言っていることがチマチマしているように思われ、この展覧会の底流にある部分をロジカルに理解していないと全てがちぐはぐな姿にしか見えない・・・・という観点において、「裸の王様」であるかどうかーそれは村上作品のみならずベルサイユ宮殿そのものも含めーのきわどいポイントを衝いていることを挑戦的に見せている展覧会である・・・と思います。

これは、あの場所で実物に接しないと思えない感想であったと実感している最中です。

Date:10/12/2

10月から日経ビジネスオンラインに連載している「ローカリゼーションマップ」ですが、どういう基準で取り上げる材料を選び、どういう心積もりで書いているかメモしておきましょう。取材で記事にできそうな内容であることは現実的な問題としてありますが、まず、なるべく日常生活に近いモノやコトであることが第一です。食品、歯ブラシ、言葉、白物家電をテーマとしてきたのは、そういう理由によります。異文化を理解するにあたり、自分とあまり縁のないモノやコトを扱っても親近感がもてないだけでなく、やはりその差異に気づきずらいのです。異文化で生活をしたことのない人は特にそうでしょう。なんとなく思うだけでなく、「そうか!」とわかってもらうに日常性に近いことが有用です。

その業界ではかなり一般的である知識でありながら、その他の業界の人には新しく汎用性がある情報となる可能性があることが第二にあげられます。したがって当該業界の人には耳新しいことではない内容かもしれません。およそ当該業界で新しいことを書く理由が「ローカリゼーションマップ」にはあまりなく、それがある程度「動いてきて」意味をもつことを観察することが重要だと言っておきましょう。何度もこのブログで書いているように、視点の持ち方こそが肝です。どんなにも平凡なネタからも有効な見方を獲得するか、これを心がけています。

これは材料の選択基準ではないのですが、第三の点として、記事にするにあたりネタについて勉強し過ぎないようにしています。「ローカリゼーションマップ」の趣旨は、一人で多くの業界をざっと見渡して概観を掴むコツを得ることを目的としている以上、いちいち各業界の勉強をしていては意図に反することになります。少しは情報を眺めますが、あまり深入りしないようにしています。好奇心から生まれる質問だけでカバーできるように努めています。

第四のポイントは、第三点とも絡みますが、差異の背景などについて原因を過去に遡り過ぎないことです。「それは狩猟民族の末裔だからだ」「我々農耕民族はそういう習慣がない」というような説明は一切排除するようにしています。それは血液型での性格判断や星占いと似たところがあり、必ずある部分の説明はでき、何となしに楽になった気になります。しかし、結果において何も説明していないと考えます。いまや5年先でさえ長期的とみられる時代です。2-3年でどんどんと変化することの時代だから、その底に流れる変化をしない部分を見つけるのが重要です。しかし、それが2000年以上では過度です。歴史を知る重要性を否定するのではなく、適切な歴史の使い方に習熟すべきだと思います。

これが、いわば心がけです。これに外れることもあることはお許しを。

Date:10/12/1

この記事は面白いと思いました。ベルサイユ宮で開催されている村上隆の展覧会を取材した文章ですが、ぼくが特に興味をもったのは下記の引用部分。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4589

実は、ブリュネさんと面会したこの日。出向いて早々、迎えてくれた広報担当の女性が私に言った。

「きょうの『フィガロ』の記事はご覧になりましたか?」

まだ見ていなかったので、記事の内容を尋ねると、意外な答えが返ってきた。東京のフランス大使館に、日本人からの謝罪のコメントが寄せられているというのだ。村上氏の展覧会がもたらした騒動を心苦しく思っているという・・・。

「フランス人なら、けっして謝ったりはしませんね。なぜなら私たちはarrogant(アロガン=横柄、尊大)ですから。むしろ弁護するところでしょうね」と、またもブリュネさんは爽快に言い切ってくれる。

時代がかったといえば時代がかった話です。誰かに申し訳なく思いながら生きることが美徳とされやすい日本文化の心性が表現されていると思いました。フランス大使館に謝るのは、良い悪いではなく、とても日本的です。フィレンツェの大聖堂でいたずら書きをした日本人学生のことがマスコミで報道され、日本から大学の人間が学生を連れて謝りに行ったことがありますが、それとも根本的に違うテーマです。アート表現に同国人の第三者が謝罪したいと思う気持ち自身が、自責的です。

それにたいして、フランス人は尊大だから謝罪などしないとベルサイユ宮のディレクターは言っています。当然ながら、「尊大」とは自嘲をこめた外交的表現であり、「尊大と人には言われるかもしれないが、尊大くらいでないと世の中に説得的主張などできるはずがない」という意味が裏にあるのだろうと想像します。どうしても避けられない「出る杭」を最初から基準内に入れている発想が根底にあります。アートだからではなく、もっと一般的なレベルも含めた態度と言って良いでしょう。

最近、イノベーターたれという台詞をよく聞きます。イノベーションをどう起こすか?が課題になります。ぼくはいつも、「イノベーションはリーダーの性格の問題です。皆、アップル文化を理想のように言いますが、それはジョブスの性格に負う部分がとても大きいのではありませんか?ジョブスのように皆がなって欲しい思うのですか?」と言います。それを目指すなというのではなく、一か八かの勝負に出る覚悟でイノベーションを語っているのか?と問うているのです。

つまり、往々にして個人の性格を規定するところに文化の規範があるまいか?というポイントをこの記事は衝いている・・・と思ったのです。

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