さまざまなデザイン の記事

Date:12/1/21

人はふつうにものごとを眺めていると、ふつうに眺められない。そういうパラドックスがあります。意図的に大きい枠組みで眺めないと、多くの場合は気づかないうちに小さな範囲に視界が限られてしまう。皮肉なことですが、ほっぽっておくと視界は自然に縮小していきます。パターンに馴れるとパターンの便宜性に溺れるわけです。意識してパターンを切り崩す「習慣」をもたないといけない理由がここにあります。

ほぼ日刊イトイ新聞」で『イシューから始めよ』の安宅和人さんと糸井重里さんの対談が7回連続でありました。かなり含蓄のある内容でしたが、最終回の糸井重里さんの言葉がそうとうに奇妙でした。羊羹の虎屋は500年の歴史がありますが、100年に1度の恐慌を5回も経験して生き残っているというエピソードで、以下のようなセリフが続きます。

これが「500年」のすごみなんだなぁと。

このあたりの時間の感覚って
「グローバル」と呼ばれる西洋中心の世界では
欠けてる部分だと思うんです。

それは「アメリカの歴史の短さ」に要因が
あるんじゃないかなと思うんですが。

トレンドをよく読んできた糸井重里さんらしい発言の流れがピタリと凍りつきます。西洋の中心をアメリカだけで語っているアンバランスはなんだろうと思います。対談はこのまえに源氏物語の時代にも遡っているのですから、それなりの目配せがきいている空間です。西洋文化の歴史の長さは、それこそ「世界の常識」であるにも関わらず、その西洋をアメリカに代表させ、その歴史の短さで西洋文化を批評する。グローバリゼーションを仲介にたてているにせよ説得性に欠けるロジックです。

まさか「世界の常識」から外れた方ではないでしょうから、ここは口が滑ったのだと思います。それをご丁寧にも対談の文章を作った人間がそのままなぞったのでしょう。そして彼は校正時にその点を見逃した。このように想像するのが妥当でしょう。では、なぜ糸井重里さんは見逃したのか?です。

ヒントは上の文章にあります(クリックして拡大して読んでみてください)。何年か前からネットでずいぶんと紹介されている事例ですが、文字の配列がめちゃくちゃながら意味がとれてしまいます。すなわち思考のあるパターンで文章を読んでいるのであって、文字そのものを追って文章の理解をしているのではないのです。糸井重里さんは「世界の常識」がありながら、思考パターンのなかで外国としてのアメリカがあまりに肥大化しているのでしょう。だから口が滑るのです。冒頭で書いた表現を使えば、「パターンの便宜性に溺れた」のだと思います。これは彼を批判するために書いているのではなく、誰でも陥る穴であるとの自覚を促すために犠牲になってもらいました。かように視界を広くしておくのは努力が必要ですが、努力せずにいられないクローズであることへの生理的な嫌悪感や知性への信頼性が思いのほか機能するのかもしれません

 

 

 

 

Category: さまざまなデザイン | Author 安西 洋之  | 
Date:11/5/27

先日、「朝日と夕日は違うのか?同じなのか?」というタイトルで、今見える風景は、多分に過去の経験に依存していることを書きました。「世界は同じになったね」という台詞自身は同じでも、それまでに歩んできた道によって意味が違う。「軽いデザインが求められる」という傾向は、重厚なデザインが尊重されたヨーロッパで軽くなることと、もともと軽さが基調であった日本において軽いことが尊重されることと意味が違うし、実際、求める軽さの絶対値に差異があります。上の写真はパリのデパート、La Grande Epicerie ですが、日本的感覚からすれば重いでしょう。

日本とイタリアの食文化の融合実験」で、トスカーナのエキストラヴァージンオイルと七味唐辛子ー長野善光寺の八幡屋礒五郎ーとのコラボ商品が、日本国内の店舗でどう陳列されているかを紹介しました。七味唐辛子からスタートするか、エキストラヴァージンオイルから見るか。2番目の写真は、La Grande Epicerie の店内です。ヨーロッパでは軽めの空間ではありますが、柱や梁の太さとの対比が、軽さのポジションをよく物語っています。ミニマリズムでもないし、オリエンタルの軽さでもない。空間の余裕と棚の曲線が軽さの要因になっています。

ここに、エキストラヴァージンオイル(下から4番目のケース入り)と七味オイル(下から3番目の赤いケース入り)があります。イタリアやフランスのオイルに囲まれ、日本の味が入っているオイル。日本大好きの純日本を探してやまぬフランス人は、もしかしたら、正統派を語りはじめることでしょう。「こういう組み合わせは日本にない!」とーいや、日本でも、この商品が唯一で売っているんですが(笑)-、日本人が中国人の寿司を批評するような口ぶりになるかもしれません。そこまで日本に入れ込んでいるわけではないフランス人は、「なるほど、こういうアイデアがあったのか。面白い!」と買ってくれるのではないかと思います。入り口の違いが、態度を決めますしかも、それは結構、あとをひく

日経ビジネスオンラインの連載でキッコーマンの醤油についての記事を書きました。今、欧州は毎年10%以上の伸びを示していますが、アジア市場は3%程度。それはキッコーマンの醤油は所得があがらないと購買層が出来てこないからなのですが、アジアには醤油ーあるいは似たものーが沢山あります。どうして値段が高い日本の醤油を買うのか?という消費者の動機付けが必要です。似たものが多いから売れるのか?似たものがないから売れるのか?皆が同じなかでちょっと違うから売れるのか?とにかく、コンテクストの生成は、それまでの経験の量と質により異なることだけは間違えがありません。

 

 

Category: さまざまなデザイン | Author 安西 洋之  | 
Date:11/1/2

あけましておめでとうございます。

昨年は夏から秋にかけてエントリー数ががくんと減ってしまいましたが、先月よりまた以前のペースに戻しつつあります。ブログは「これ、ブログに書くほどではないか」と思いはじめると急に書けなくなります。「これ、どうかなと思うけど、メモだと思って書いておこう」程度に気楽に構えるのがコンスタントに書くコツのようです。まあ、そういうわけで若干のスランプ(?)を脱しつつあります。あまりテーマも絞らず、より自由に書いていきましょう。テーマを・・・なんて考えると、どうも自分の周りに囲いができたような気になるから。

昨日知ったのですが、今年のミラノのアートフェアは4月8日から11日です。これって、サローネとぶつける気?と思ってサローネの日程を確認すると12日からなんですね。ミラノのアートフェアはボローニャやトリノと比べて存在感がないと言われてきましたが、この日程、かなり意味深です。サローネと同じ時期にぶつけずに直前でやるというのは、サローネのためにミラノに早めに入る人たちを呼び込もうというのでしょうか。アート業界はデザイン業界とは別のサイクルと次元で動いてきましたが、サローネ動員の恩恵を蒙ろうかと思うのも自然でしょう。さて、それがどれほどにインパクトを与えるのかは、4月のお楽しみとしておきましょう。

元旦の昨日からイタリア人が1900年初めに書いた子供向けの小説を読んでいます。”Le maraviglie del Duemila” という題名なのですが、100年後の世界、つまりは2003年に主人公二人が出会う世界を描いています。未来小説です。体を機能停止にする薬を発見したドクターが、それを自ら使って100年間「休憩」し甦るわけです。財産は全て金に変え100年後に備えるなど、これは1000年後のタイムマシンが今できても使う知恵だろうなと思います。金は既に「最終的価値」ではないですが、不況になってその価格が上昇するように、それこそ「黄金の法則」として金の価値は維持されてきています。「金は1000年後にも価値を失わない」と予言してあたっても誰も感心しないでしょう・・・・。

この小説で2003年に「60年前にヨーロッパとアメリカの大戦争があって数百万人の犠牲者が出て以来、戦争はこの世になくなった」というくだりがあります。あるいは農業や食事の崩壊ー宇宙食的な状況ーが説明されています。2011年現在、ここまではダメージを受けていないけど、警告を込めた予測としてはあたっているなあと思います。しかし、100年後の予想が方向としてあたっているのは、それほどに驚くべきことなのか?という思いにも駆られます。我々は願望も含めてですが、100年後に関して「こうだろうなあ」と思うことは、その現実化の仕方に狂いがあっても、案外、見通せることが多いのではないかとも夢想するのです。

2050年に人類は危機に瀕するという予想に色々と賛否両論がありますが、(その予想の正しさを覆す事実や状況はたくさん出てきたとしても)人口の増加や自然環境の悪化がストップすることはあまりなさそうです。地球が温暖化しているのかどうかはよく分かりませんが、地球の自然がより良くなっているとは言えそうにないし、今後40年、現状維持(が、できたとして)に苦労するのは明らかでしょう。つまりは、「2050年に地球環境は悪化している」と大きな声で叫ぶことより、もっと小さな声で短期の予測と検証を積み重ねたほうが現実的であるというより意味があるのじゃないかと思います。

但し、ここで書いていることは、目標の設定を軽んじているわけではないので誤解なきよう。

Category: さまざまなデザイン | Author 安西 洋之  | 
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