さまざまなデザイン の記事

Date:09/4/13

→ 文化の定義は?

「サローネの見方ー1」で文化的観点を重視すべきと書いたので、文化の定義をあらためて書いておきましょう。東京大学名誉教授(政治学、国際文化論)の平野健一郎さんが『国際文化論』(東京大学出版会)で説明している定義がぼくにはピッタリとくるので、そのまま使うと、「生きるための工夫」(designs for living) です。もう少し詳しくいうと「生活様式の体系」(a system of designs for living) となります。外面および内面の両面で、よりよく生きるためのあらゆる工夫が文化となります。サローネにシナリオをおけば、この作品が、人々が生きていくにあたって貢献してくれるのだろうか?ということがポイントになるわけです。

→ ミラノで中庭を探せ!

ライフスタイルそのもの、もっといえばライフスタイルの質そのものが、文化レベルを示しているわけです。それでミラノにサローネにやってきて、このライフスタイルなるものをどう見るか?ということが問題になります。サローネの会場であるミラノ見本市会場は、世界中どこにもある見本市会場と基本的に同じであり、ここでライフスタイルのリアリティを獲得するのは無理です。それでは街中を歩けばいいのか?ということになります。フオーリ・ディ・サローネは良いチャンスです。それも建物の裏側を見る絶好の機会です。即ち建物に囲まれた中庭空間を、この期間だけに限って覗くことができます

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もちろん、建物のなかの住居に入り、色々な社会階層の人と時を一緒に過ごさないと全貌は見えてきません。しかし、道路に面した建物の外見と綺麗さもあまりに違う、この中庭に身をおいてみることで、「外」と「内」の使い方が分かります。ものすごく魅惑的な空間に遭遇します。見本市会場で展示されている新作のソファーが、この中庭においても似合う、そういう視覚的経験を沢山するのが文化文脈の理解に役立つはずです。例えば、ゆっくりと流れる時のリズムを感じ、どうしてそのようなリズムが必要なのか、このリズムによってこそ見えてくるものが何なのか、そういう方面に思考を働かす契機が得られる可能性があります。あるいは、時の積み重ねのなかで、どこに基調層があり、どこに浮遊層があるのか、こういうことも見えてきます。要するに、文化の枠組みを知る一歩です。

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→ ピアッツァの位置づけは?

イタリアに都市において広場(piazza)は客間として重要な位置を占めますが、気候が良くなると、こういった場所にバールやリストランテのテーブルが設けられます。ここにある椅子やテーブルは通常野外用です。室内用チェアやソファが、この類のスペースにおかれても非現実的であるばかりでなく、不釣合いかもしれません。野外を象徴的にいえば、公園にある水の飲み場がよいでしょうか。絶対壊されない材質と形で、しかも、水は出しっぱなしです。水の出を調整するようなヤワな機構を作りません。これが「外」の世界です。中庭が「外」ではないことが、明確になるはずです。だから、中庭を見れる時に見るべきです。

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→サローネ会場に二日連続で行くな!

かといって、ぼくは見本市会場に足を運ぶことを否定しているわけではありません。新作の数々をできるだけ浴びるようにみるところしか見えないものがあります。しかし、二日連続して見本市会場に出かけても駄目だ、と言いたいのです。足を棒にして広い会場を巡り、重いカタログを集め、写真を取り巻くっている一日を過ごしたら、翌日は必ずフオーリ・ディ・サローネで、前日の会場での経験の相対化と自分の中での統合化に努める。この変化をつけることが貴重です。ディスプレイされた新作デザインを、少なくても自分の頭の中でも、文化リアリティの近いところに置いてみるのです。

Date:09/4/13

ミラノサローネ開幕もあと1週間ちょっとに迫ってきました。そこで、去年書いた「ミラノサローネ2008」や、今まで書いてきた「ミラノサローネ2009」を参照しながら、サローネの見方を何回か連続で書いてみましょう。

まず去年の内容を復習します。以下が目次化したものです。去年、最初からマニュアル的に考えたわけではないので、順番が前後しますが、要点をつかんでいくには役立つと思います。

第一章 サローネ見学のための準備運動

01 デザインの祭典
02 トレンドの海図をもつ
03 ワードを書く欧州人
04 バウハウスの再評価
05 時代を読み解く
06 村上隆『芸術起業論』
07 重さと軽さの表現
08 関係性を遊ぶ
09 記憶プロセスを考える
10 文章と口で説明する
11 モノ偏重を是正する
12 デザインの翻訳作業
13 文化全体の文脈をおさえる
14 ローコンテクストカルチャー対策
15 サローネで雑談を試みる

ここまでは、サローネを見るにあたって基礎的におさえておくべき点です。大きい枠組みでいえば、デザインを意匠などの狭義ではなく広義の定義でとらえるべきで、そのトレンドを見る場所としてサローネがあり、そういう観点でみた場合、文化文脈全体を把握する努力をしたほうがよいででしょうというのが第一点です。その時に必要なのが、コンセプトの理解の仕方であり、もっといえば、「コンセプトとは何か?」ということになります。これは、ぼくの「ヨーロッパ文化部ノート」でも今書いている内容ですが、「自分の見たものを如何に言語化するか?」に注意してください。多くの展示された作品は、そのもとに言語化された思考の構造があり、それをどう理解していくか、です。つまり、(日本文化文脈ではなく)西洋文化の文脈でのコンセプトを把握する努力を厭わないのが重要です。これが二点目です。

第二章 サローネで色々と見て感じる

16 仮説1「暖かい知性への道」
17 2010年からの戦略立案
18 仮説2「日本的デザインへの飽き」
19 深さを作るメカニズム
20 未来派バッラが問うもの
21 過去の名作との戦い
22 World Design Capital 2008

ここは昨年、サローネ開催中に書いた部分です。以上のなかで重要なアイテムは「深さをつくるメカニズム」かもしれません。よく「あの作品は浅い」「この作品は深い」という表現をします。実は、深いか浅いかは、上述したコンセプトの定義とも関わってくる問題ですが、とりあえずここでは「深さはデザイナーの才能ではなく、文化メカニズムによって作られる」ということを頭に入れておいでください。歴史的にものを考える、多様性を重視する文化が意図的に創られている、ターゲットとする市場が明確に可視化されている。これらが「深さ」を導きやすいのです。「未来派バッラが問うもの」は、文化全体のトレンドを察知するに、その時点で実施されている文化イベントを見ることに時間割くことをお勧めします。その一例として、ドゥオーモ横の王宮での開催されている展覧会があります。

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第三章 サローネの後に考えること

23 レクサスのコンセプトの伝え方
24 二つの視点をもつ
25 アートと競うデザイン
26 思ったより売れない和食器
27 ミニマリストのこれから
28 欧州人から見られる日本デザイン
29 はじめにアウトプットありき
30 足踏みするコンテンツ産業
31 静かな日本デザイン
32 いまという時代の特質
33 発信力をつける
34 若手デザイナーの視線
35 コンセプトの重要性

この三章では、日本のデザインの見られ方を冷静に判断することがポイントだと思います。第一章でコンセプトの定義を西洋文化に沿った形で理解する重要性を書きましたが、要するに、日本人でありながら、ヨーロッパ人の視点をもつ工夫をしてみようということになります。日本の良さをヨーロッパ人にアピールしてヨーロッパ人に本当に理解してもらうには、発信側でデザイン言語を変換する必要があるだろうということに気づいてください。どんなに良いと自分で確信しているものでも、日本語が分からないヨーロッパ人を前に、日本語で喋り捲っても、仮に意気は通じても、それ以上には到達できない現実を知ることが大切です。もう一つの言い方をすれば、「何がユニバーサルであり、何かローカルであるか?」という問題意識を常に抱いて歩いてみるのがよいです。

第四章 欧州文化の見方を知る

36 欧州文化とはー1 連続性
37 欧州文化とはー2 コンテクストの存在
38 欧州文化とはー3 メインカルチャーへの敬意
39 欧州文化とはー4 多様性の維持

この四章では、「メインカルチャーへの敬意」を挙げておきましょう。東京でトレンドを掴むという時、往々にしてそれはサブカルチャーであったり、商業的な売れ筋情報になりがちです。行動パターンとしては、原宿や六本木あるいは秋葉原に出かけることであり、上野の美術館に出かけることにはなりにくいというという点です。それはメインカルチャーが社会的トレンドと乖離していることを意味します。しかし、ヨーロッパにおいて、メインカルチャーは厳然と目に見える姿で影響を与え続けていることを忘れてはならず、だからこそ、王宮で開催される展覧会を見てキュレーターの意図を推察することも重要だと思うのです。

Date:09/4/12

昨年11月に連載した「メトロクスものがたり」のなかで、下記のエピソードを書きました。

1996年、ぼくはミラノではじめて下坪さんと会います。下坪さんがヨーロッパ路線のものを本格的に増やそうと考えていたときです。モダニカの看板を掲げているので、店におく商品はモダニカ(アメリカ)製品が多くを占めるという当然のルールと自分の好きなデザインを扱っていけないとのジレンマに悩まされていた時期です。下坪さんはぼくに ”L’UTOPIE DU TOUT PLASTIQUE 1960-1973”の本を送ってきて、ここに掲載されているジョエ・コロンボを中心とした製品をイタリアから輸入したいと言ってきました。

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その本が上記です。これはベルギー人が編集した本で、この当事者を探すのはかなり大変でした。やや記憶に薄いのですが、確か、パリの本屋でこの本を扱っているのをみつけ、そこで出版社を聞いたのがコンタクトの糸口だったのではないかと思います。結果的に、この当事者に会いにベルギーのブリュッセルに出かけると、この本のなかにある1960-70年代のプラスチック製品の数々が、プライベート博物館として展示されていました。その時に、本業は建設関係であり、かつアートにも興味があるという話を聞きました。

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そして、自分の作品が開港したばかりのブリュッセル空港に飾ってあると聞かされ、その帰りに探しました。今、サイトで確認するとターミナルAは2002年にオープンしたとありますから、その頃の旅行だったのでしょう。上がその作品です。これ一つではなく、以下のようにかなり量があります。

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その後、何度かこの空港を使うたびに、この作品を目にするのですが、そうすると、ぼくの中では懐かしのプラスチックの本を思い出すという仕掛けになっています。昨日、ブリュッセルに出かけたので、今回、写真をとってきました。場所はAターミナルで飛行機を下りたら、そのまま直線方向に動く歩道があり、その着いた先です。尚、ブリュッセル空港は、パブリックアートが豊富で、これらを眺めるのも楽しみの一つです。

Category: さまざまなデザイン | Author 安西 洋之  | 
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