セミナー・講演など の記事

Date:09/9/22

地図の描き方ですが、これはぼくが以前に「ミラノサローネ2008」で書いたことが参考になると思います。ヨーロッパ文化の特徴として書いた4つのポイントです。また、ここで前提を述べておきますが、ぼくが文化を考える目的としてあげた「ビジネスに役立つこと」は、すべてのビジネス行為ではなく、最終商品、それも工作機械や一次品などではなく、最終消費財(インターフェースも含みます)の企画やデザインまた販売とその周辺にとりあえず設定しておきます。それ以外にも役立つこともままあるとは思いますが、話のイメージを確定化するために線引きをしておきましょう。

第一に「連続性」です。論理、地理、時間、これらの連続性です。論理的連続性では、何かを企画するとき、パワーポイントではなく、まずワードで文章を書くことが現象例として挙げられます。スケッチをアトランダムに描いて飛び地のように並べたとしても、AとBのスケッチをつなぐ言葉をおろそかにしません。構想の根幹に言葉に依拠した思考があり、「なんとなくAとBをつなげる」ことをなるべく排除しようとする意思が働きます。もちろん直感を否定しているわけでなく、グレーゾーンの存在を認めないわけではないのですが、日本の人との比較でいえば、「AとBの間をはっきりさせよう」と考える傾向が強いといえます。

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文化人類学のエドガー・ホールがいう「ローコンテクストカルチャー」の特徴が、これにあたるでしょう。上図にあるように、ヨーロッパでも北と南に分けた場合、北にこの傾向が強いということで、「一律にヨーロッパ人は・・・」と語るには至りませんが、ある参考になります。重要なのは、地図の使い方でもお話したように、こういう傾向を参考にして現場すべてを見ようとしないことです。これを使うべきタイミングを間違えてはいけません。少なくても、実際に相手とコミュニケーションをとっている最中に使うべきではありません。これが異文化コミュニケーションでの説明が「動的ではなく静的である」と言われるゆえんではないかと思います。

次に地理的連続性とは、文字通り、海ではなく陸続きであるがゆえに、隣同士との交流が頻繁であり、何かあればステアリングを握ってすぐ駆けつけることが可能であることによる安心感と不安感です。駆けつけることができるために、国を超えた付き合いにリスクをとりやすいが、あまりに保護的なポリシーは取りずらい、この両面性です。それゆえに、バランスをとることがより要求され、隣と自分の共通性の保持とその確認に敏感になるでしょう。しかし、それがために、いくつかの市場を身体的なレベルで深い理解することができ、自分オンリーの発想をやや回避できるともいえます。当然のことながら、海を越えたむこうの市場までをも適用することはできませんが、少なくても、複数文化の扱い方に上手くはなります。

時間的連続性は、現在は過去の影響下にあることの認識の強さです。考え方において時間軸が重要なキーになります。伝統を重視することは革新を生む重要な契機になるとの考え方が強く、それは逆に伝統を打破する意味をも大きくもつことになり、いずれにせよエネルギーの動きが絶対値として大きくなります。伝統に礎をおいた場合は長い時間の蓄積を使い、正反対に立つ場合も、幸か不幸か、前者と同じエネルギー量が理想として求められます。これがヨーロッパで生まれる新しいものは、多くはないですが、生まれたものは長続きすることが多い根拠になるだろうと思います。

Date:09/9/21

「何々をみないと全体が見えないはず」という表現があります。これは半分正しく、半分は間違っているというか、努力目標にしかならないと思います。「水谷修・生徒ジュン『さよならが、いえなくて』を読む」で書いたように、政治や経済のニュースだけを追うのではなく、社会問題、特にひずみに影響受けやすい社会的に弱い立場にある若者層のありようをみると、全体が良い方向に向っているのか、その反対なのか、それがより分かります。少なくても、風が北から吹いているのか、南から吹いているのか、それら強まっているのか、弱まっているのか、これは誰が正しいでもなく、自分自身で掴むべき感覚であると思います。

こういう観点で、ひずみが出やすい世代や領域あるいは場所ー特にマージナルな場所ーに目を向けておくのは大切です。ですからアフリカの状況あるいはヨーロッパであれば東欧などもフォローすべきですが、残念ながらぼくにはできません。しかし、いたし方ないと考えています。できれば越したことはないですが、自分のつかめている全体が全体ではないかもしれない、と思うことが重要なのではないかと思うのです。

が、イタリアに住んでいることはメリットであると考えています。世界の情報戦に影響力の大きい、いわゆる英米情報をかなり距離感をもって眺めることができます。英国の『エコノミスト』の記事をイタリア語記事が何と書き、日本語で何と書いているかということを知るだけでも、三点観測をすることが可能です。これができないのが、英語でしか海外情報を得ていない人達の弱さー特にアメリカ人ーでもあります。スペイン語もドイツ語も分かればもっと良いですが、英語の情報との「文化差」を身体的に実感して把握しておくのは想像する以上に重要です。

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東欧のような地域的カバーは物理的に難しいからこそ、ぼくは分野でなるべく広い範囲を見ようとしています。ビジネス的にいえば、自動車、工業デザイン、インテリア、インターフェース、ユーザビリティ、食品、文化など複数の業界をみています。それにより全体の構造のヒントを得ようとしています。ある経験が、どの分野に通じ、どの分野には通じないのか、これを知ることによってストラクチャーや知識の適用範囲などが勘として見えてくるものです。ある一つの世界だけを見ていても、なかなか獲得しにくい勘であろうと思います。

しかし、何よりも世界で唯一でしかありえない自分の生き方とその経験を基にするがゆえに、自分だけの視点は生きるはずであると思うことが全てのスタート地点です。情報を全て自分に目の前に並べないと安心できないというメンタリティであるとできないことです。情報は並べて鑑賞するものではなく、自分で選択して使うものだという発想の転換ができたとき、違った風景が眼前に広がります。世の中で他人が自分と全く同じ経験をするということはありえないのです。この単純な事実にこそ「地図を描くに腰が引けない」動機が潜んでいるわけです。地図とは具体的にはどんなものを言っているの、ぼくなりの表現をお話ししましょう。

→つづく

Date:09/9/20

デザインを見方の重要なキーとすると書きましたが、デザインで全てを語ろう、あるいは語れるとは到底思っていません。それは経済学であれ、なんであれ、一つの分野で全てを語れることはありえない。しかし、往々にして、人は何かに依拠することで安心したいという思いがある。こういうことはあるでしょう。例えば、脳科学は今まで人類にとって未知であったことを沢山明らかにしてくれると思いますが、だが全てではないはずです。心理的な不安解消のために一つのツールに頼りすぎるのはよくない、ということです。ある専門の分野を深く知ることに意味がないと言っているのではありません。ただ、もう一つ、違った頭の使い方をしないといけない。これが重要なのです。

極めて直感的で叙述的な頭の使い方です。ぼくがこのブログでもよく書いている、一人で全体を把握するための頭の使い方です。これは専門の水平展開では間に合わないでしょう。あるいは、他の専門の人との共同でも不十分です。隣同士にある隙間により敏感であるためには、それは上空から見ないと分からないのです。知らない街のなかで、歩きながらいろいろな店をみつけて喜ぶ発見。そこで出会う人とのふれあい。これは上空からでは不可能です。歩かないといけない。絶対に。これなしに上空から眺めても、分かることは限定的です。しかし、それだけでは自分が何処までを見たか、街のどんな部分を見たかが分かりません。地図はそのために必要です。

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ここで気をつけないといけないのは、いつ地図を使うかです。新しい人との出会いで会話に夢中になっている最中に地図を広げてはいけません。具体的な現実の世界にいるときに、それを抽象化してはいけないのです。それはそれとしてあるべきで、それを他のなにかに置き換えすぎてはいけない。「ああ、それって、こういうことでしょう?」と要約しすぎるのは駄目です。「ああ、それって、よくあるよね」というと、目の前にある現実が良く見えなくなります。だいたい、それを重ねていると、「しらけた奴だ」と冷たい目で見られるのがオチです。だから地図は現実に歩く前か後に使うのです。それによって、道に迷ったときに、通りすがりの人とコミュニケーションをとるというメリットがあります。それが現実の経験を深くさせる契機になるのです。

(1)で書いた内容に対応させると、道を歩くことが「生活シーンを重視」になり、地図を見るのが「ビジネスを視座においた水平展開」になります。ここでいう水平展開は各専門の横断というより、全体そのものの輪郭を掴むという意味になります。誤解が生じやすいかもしれないので、別の適当な言葉を探すべきかもしれませんが、今はこのままにしておきます。さて、ここで問題があります。街を歩く比喩として地図を挙げましたが、実際、ヨーロッパ文化の地図なぞ存在しないでしょう。過去なら多少の輪郭が描けないこともないですが、また誰かが描いたものを参考にすることはありえますが、現在については自分が主人公になって作業するしかありません。だから、やや腰が引ける話しになります。だから、どうすれば腰が引けないか?を考えないといけないことになります。

→つづく

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