ウンブリアの夏 の記事

Date:09/7/30

山派あるいは海派という言い方がある。海派は山の何がいいのか?と問い、山派は海は退廃的と言ったりする。でもどちらかだけへ行くということではなく、気分によってどちらにも行くものだ。

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そして、その気分だが、山に行くときのほうが、やや内省的ではあるまいか?特にそう顔の表情が変貌するわけでもないが、暇な時間を読書ですごしたりすることが、海よりやや多いかもしれない。だいたい、海の光の下で本を読むのは、眼が痛くなりそうだ。

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確かに、海では馬鹿騒ぎをしやすく、山はちょっと静かに行動することが多いような気がする。暑さへの発散が外へ向かうのではなく、内へ向かう。今日も天気予報によれば36度、日向にいれば体感は40度に近いだろう。しかし、木陰では気持ちよい空気を感じることができる。その快適な木陰にいる時に聞こえる虫の鳴き声が、単なる雑音であると日に日に思わなくなる。

Category: ウンブリアの夏 | Author 安西 洋之  | 
Date:09/7/28

ドイツのクルマでイタリアのアウストストラーダを平均時速170-180キロで走りながら、ドイツのクルマは「概念」だと思う。それにたいして、イタリアのクルマは「大きな枠」だと感じる。どうして、そう思ったか? イタリア現代思想の本を読んでいて、日本でコンセプトといった場合、ドイツ哲学の「概念」という翻訳語に集約されがちだが、コンセプトのラテン語の語源からいって、コンセプトとは、何かを受け入れる器のようなものだとの説明があった。アウトストラーダでクルマをとばしながら、その文章を思い出したのだ。ドイツのクルマには、「クルマとはこうあるべき」という主張が、しっかりとクルマとしてより固定化されている。だから剛性を感じることに納得がいく。しかし、それがすべてではないともう一方のぼくが思う。

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その昔から、北ヨーロッパの多くの人たちがイタリアを目指してきた。それはローマだけでなく、シチリアでありトスカーナであった。南の明るい太陽を求めたのか、それともローマ以来の時間の積層を感じるためだったのか。もちろん、どちらかとは言えない。どちらでもある。旅は新しい風景との出会いである限り、あらゆる風景に古さはなく、すべては新しい・・・とも言える。

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ミラノにいて、無性に北の「きっちりとした固さ」を欲したくなる時がある。乾いた空気の冷たさ、ドイツやオーストリアの音楽の荘厳な世界で「起立!前に倣え!」と言われることが落ち着く場合がある。イタリアに高速道路をひたすらと南へと進路をとるオランダ、ベルギー、ドイツのナンバープレートが見える。「概念」の世界にいながら、やっぱり窮屈で息抜きを欲しているのかなとも思う。南の太陽だけではあるまい、彼らがほしいのは。それと同時に、ブレンナー峠を北に走りぬくイタリアナンバーが連なるのだ。

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ヨーロッパを理解するには、この二つの流れを公平に見る眼が必要なのだと思う。だが常に毎日が公平である必要はなく、ある日は北に寄り、ある日は南に寄り、結果としてそのバランスが取れればいいのだろう。願わくば、その振り子が今どちらに揺れているかについて、若干自覚的になっていることが大切なのだろう。外国人に気に入られる自国文化の見せ方とは、この振り子への観察眼によるのかもしれない。

Category: ウンブリアの夏 | Author 安西 洋之  | 
Date:09/7/27

ある著名な方が西洋人は虫の鳴き声を雑音として聞き、それは感性の問題であると本に書いていたので、拙著『ヨーロッパの目 日本の目』で、それはその方が付き合った人の資質の問題だろうと書きました。ぼくの友人は「虫の鳴き声を詩的に聞くのは、ユニバーサルではないか」と言いました。今日、その友人が発言した場所にいて、森に響きわたる鳴き声を聞きながら、ぼくは「これは記憶の問題ではないか」と思いました。

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この場所に何回か息子を連れてきていますが、「虫がうるさいね」と初めて言いました。いつも、ここには8月に来ていたのです。8月になると虫はめっきり静かになります。でも7月はまさに盛夏であり、息子にとって、こういう虫の合唱ははじめてなのです。そこで虫の鳴き声は、音として心地よいかどうかではなく、夏とはこういう音と付き合うものだというトレーニングと記憶ーこの音を聞いて懐かしいと思うーではないかと思いました。

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ぼくの幼年から少年時代、こういう虫の音は当たり前でした。しかしミラノ市内で、これは当たり前の音ではありません。これが文化の問題なのです。ある音を良いと思うか悪いと思うか、または心地よく思うか不快に思うか、それはきわめて教育と馴れの問題なのだろうと思います。そして記憶です。甘酸っぱい思い出のさまざまなシーンにある音は、多分、不快にはならないのでしょう。

・・・・というわけで、資質だけではなく、その人自身のヒストリーの問題も強いだろうと、今日、思ったのです。

Category: ウンブリアの夏 | Author 安西 洋之  | 
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