イタリア料理と文化 の記事

Date:10/7/28

自分が開発に絡んだクルマを街中で偶然に見かけるのはとても嬉しく、それも国境を越えていると感慨もいや増します。かつて、日本のカーメーカーにいた時に関わったクルマをヨーロッパの道で見かけたとき、思わずクルマに駆け寄ったことが何回かあります。それだけ、自分のアウトプットがどこか地球の片隅に届いていたことを自分の目で見るのは心躍ります。しかも、それがもっと生活の奥深いところに浸透していたりすると、さらに喜びが増します。あるいは、「それって、こういうことじゃない?」という他人の言葉の前提が実は、自分たちが発信した考え方だったりすると、もっと充実感がある。食ビジネスは、これに近い感覚があります。

3月に幕張メッセで開催されたFOODEXでオリーブオイルの紹介をした話を書きました。初日に確認したことは以下でした。

ある味を賞賛するのは味覚、触覚、臭覚、視覚だけではなく、ロジックで評価するということです。もちろん頭でっかちの味覚は話になりませんが、必ずしも舌だけで人は簡単に振り向かない

舌に限らないことですが、舌なら「食べ慣れる」ということが重要です。馴れるには、馴れるための環境を含めた条件が揃わないといけません。したがって、オリーブ漬けについて、以下のような発想がでました

実はアレキサンダー自身はオイル漬けオリーブは日本での漬物であると考えていました。しかし、そのようにヨーロッパ人が説明するのではなく、日本人が日本人の思考枠のなかで、「これは漬物である」と自然に思えることが重要なのです。日本で漬物は野菜のできない季節の保存食として考えられました。それはイタリアでも似たような事情があるのですが、しかし、その周辺事情だけでは同じカテゴリーと定義するリアリティに欠けるのです。石森さんが居酒屋で言った漬物って特に欲しいと思わなくても、テーブルの上にあると、なんとなく食べているんですね」という感覚が日本とイタリアで一致していることが、似たものを同じものとするに際しての決定打ではないか

この最後の部分、これが肝です。似たものは世の中に沢山あるけど、それを似たものではなく、同じものとするには大きな溝を飛び越えないといけない。こういうコンテクストが作れてはじめてモノは売れ定番化していきます。ローカライズからローカルへの道筋です。先週から今週にかけ、デルポンテ社の七味オイルやエキストラヴァージンオイルの販売現場を歩きながら、「定番化のキーとは何か?」を考えていました。

上は赤坂TBS前にあるワールドが経営するF.O.B COOP ENTHESE です。下は同じ店内の別の棚です。真ん中にある赤とうす緑のボックスがデルポンテの商品です。

また、下は浅草橋にある油専門店、金田油店です。

同じ商品ながら、違った文脈におかれています。両方ともきれいなディスプレイですが、全く異なったコンテクストのなかにあり、当然ながら、世の中は複数のコンテクストで成立していることがよく分かります。ある程度のコンテクストの固定化と流動性のバランスの上に定番が成り立つと思いますが、ここで面白いのは、F.O.B.COOP ENTHESE はいわばヨーロッパ文脈からアプローチし、金田油店は日本文脈から見せていることです。似たものを同じとする試みの一つといえるでしょう。

因みに、先週、マガジンハウスのサイトで「日本とイタリアの食文化の融合実験」というタイトルで紹介されているので、宣伝しておきます 笑。

http://webdacapo.magazineworld.jp/lifestyles/gourmet/29232/

Date:10/6/5

昨日、日本に飛ぶためミラノの空港に向かう直前、自宅に一通の手紙がきました。差出人はパドヴァの警察。「えっ、出発直前に、なんだ、このややこしいのは!」と思いながら乱暴に封を切ると、昨年11月、パドヴァ市内で通行禁止の区域を走ったのを監視カメラに撮られたようです。11月のパドヴァといえば、「メトロクスの旅」で書いた、メトロクス社長の下坪さんと営業の片岡さんの3人でB-LINEに行ったときのことです。約 90ユーロ(約1万円)の罰金を払えというのですが、「この手紙が発行された12月15日から60日以内に振り込まないとペナルティを科す」とギョッとし たことが・・・。ご丁寧にも60日以内であって2ヶ月以内ではないと注釈もあります。しかし、手紙を受け取ったのは2010年6月4日。封筒の消印をみる と2010年5月4日! 思わず大笑いしてしまいました。

さて、航空会社選択には二通りのパターンがあると書いたことがあります。「JALのサービスに想う」です。

外国に出かける人は二つのタイプがあり、一つは「これから出かける国の雰囲気に飛行機から味わおう」という経験先行型であり、もう一つは「目的地に到着するまでは、なるべく自分の習慣を通したい」という経験先延ばし型でしょう。料金や乗り継ぎの便宜性という合理的レベルでの判断を別にすれば、上述の二つのパターンは一般的と考えてよいと思います。

この10年以上、欧州内でアリタリアを使うことはあっても、日本との往復はもっぱらJALでした。しかしJALは9月末にミラノと成田の直行便を廃止することになりました。それで新しい環境に早く馴れようと、昨日はアリタリア便に搭乗してみました。そこで、随分、JAL便と違うなあと思いました。まず第一に搭乗直前にチケットとパスポートを提示するところで、「ボンジョルノ」「グラッツィエ」と挨拶する日本人がJAL便と比較して圧倒的に多いのです。それは機内でも同じで、ワインではなくヴィーノという乗客が多いように感じました。要するにイタリア好きが多いのです。上の範疇によれば、経験先行型です。一人旅も少なくなく、なんとなくテーマがあってイタリアに行って来たという雰囲気をもっています。

実はミラノに長く住んでいる日本人は、こと日本との往復に関してはJALを使う人が多いーアリタリアの定時運行の確率の低さにうんざりしていて、日本に行くときくらいそういう苦労は避けたいーとの印象をもっているのですが、面白いのはイタリア人。JALを選ぶイタリア人はどことなく日本びいきの傾向があり、アリタリアに搭乗するイタリア人はその日本びいき率が若干下がるようなタイプが目に付きます。経験先延ばし型にカテゴライズされそうな人たちです。「日本に特に興味があるわけじゃなく、でも嫌いっていうんじゃないんだよ。ただ、移動は馴れた航空会社がよくてね」と。もちろんマイレージをもっている人が多いこともあるでしょうが、わざわざJALのマイレージカードは作らないのでしょう。

ぼくは、アリタリアの機上の人となりながらーなんと陳腐な表現!-出発前に受け取った警察の手紙のことを考えていました。全てがああだったら社会はまったく機能しないけど、たまに生じるにはたいしたことない。ぼくは、正直言ってイタリア的役所仕事の健在ぶりにホッとしました。EUの誕生以降、ITの普及とあいまって自由がききずらくなっているのですが、最後の管理に穴があるところに、市民が逆手をとる余地があるわけです。その痛快さに大笑いしたのです。これがイタリアの良さでしょう。愛嬌のある文化は結局は好かれる・・・・。

Date:10/5/29

今週、ミラノのサルトリアでジャケットを見ていたところ、ハッとするピンクのジャケットを見つけました。そんなに濃いピンクではなく薄いピンク。とても品があり綺麗なので思わず手にとり試着しました。サイズもちょうどいい。買っちゃおうか、と一瞬思いますが、頭を振って「いや、いや、こういうのを買ってはいけない。どこに着ていくんだ?」と自問します。見た瞬間、夏の海岸沿いのカフェでビールを飲む姿を想像します。確かにあそこにはいい。でも、「ミラノでも仕事で着れるか?いわんや、東京でどこで着れる?」という疑問符が頭を走ります。

ピンクのシャツは何枚かもっているしセーターも着ますが、ジャケットは話が違います。同じカラーでも洋服のカテゴリーが異なると急に敷居が高まります。「でも、ミラノならいいんじゃない?」と言う人もいますが、これは逆でダークスーツが基本で、それには白かブルー系のシャツがルールであることが定着しています。薄い茶系の麻のスーツにもシャツは白かブルー。「ピンクやイエローのシャツはイナカモンが着る色」と言われたりします。とても保守的なわけですーミラノでファッションに長く携わってきた友人によれば、特にこの数年は世界的にこの保守的傾向が強いようです。あるいはシック。しかし、それは逆にいうと、色のコンビネーションは色彩学上定義されていることを尊重していることも意味します。この色とあの色は合わないというのが徹底され、この色を使うときはどこかのパーツに同系色を入れる、といった気配りが当然視されるということです。そのルールから外れると、生理的に落ち着かないという感覚世界で生きています。つまり色彩学的な判断が生理的な部分とリンクしており、だからTPOを含めた色の扱いに説得力がでます

自宅に戻っても、あのジャケットのピンクが目に焼きついています。「ああいうジャケットは、場所そのものだけでなく、職業的にそういう立場じゃないと難しいよな」と思い返します。アーティストなら何色を着てもいいだろうと、アーティストではないぼくは思います。アーティストが何というか分かりませんが、とりあえず外の人はそう思うという土壌が色にはあります。必ずしもアーティストが自由人とは定義できないけど、それに近いところにいると世間に思ってもらえることが可能なポジションにいます。その日の晩、ぼくは「アーティストになりたい。自由にピンクのジャケットを着れるような人間になりたいなぁ・・・」と不思議と強く思いました。

別にピンクに自分のメッセージを込めたい、自由に服を選びたいーだいたい、今でも自由な立場で自由に選んでいるほうですがーというより、極めて感覚的なところで底のない自由を求めたいという欲求です。洋服の色を契機にこう思うのもあまりないのですが、どういうわけか、ピンクのジャケットは違ったようです。

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