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Date:13/7/9

ぼくは子供の教育に熱心であると胸を張って言えないダメな父親ですが、それでも時に息子の教科書を読みます。イタリアで学校教育を受けていない身にとって、教科書はイタリアの人たちのロジックを知る「秘密兵器」です。小学校の歴史の教科書ー科学の教科書ではなく!-では宇宙の歴史、ビッグバンから始まります。人の営みに辿りつくまでの時間がえらく長いのです。先史時代をちょこちょっことやって「世界四大文明」にいくなんてとんでもない!

地理の教科書では、地図には2種類あり、普通の客観的な地図と共に認知的(主観的)地図があると教えていました。地図の描き方はロジックの鏡である、とイタリア人の地図を「商売道具(?)」にしているぼくは、この地図の定義を読んで指を鳴らしました。中学校の美術史も印象的でした。最初のページにラスコーの洞窟の壁画があり、「ここに描かれている動物は?」「そう思う根拠は?」と質問が延々と続いているのには唸りました。但し、イタリアのどこの学校の教科書もこのような内容なのかは知りません。

こうして教科書を読んで常々思うのは、イタリアの学校教育が強権的に西洋文化中心主義になっているわけではない、ということです。かつてはそうだっかもしれないが、少なくても現在の普通の学校は「時流にのっている」。ギリシャ文化は中世の時代にエジプト経由で欧州にもたらされたことを欧州人が今となって特に「隠し事」として扱っているようには思えず、もっと「現実」を受け入れている。これが「物事の見方」を教えることに力を入れようとする教科書の記述に表れているように思えます・・・といっても、相変わらず質の高い生活をキープできている欧州人が驕らないわけではないですが、欧州のまともな人たちは「西洋の没落」をかなり正面から見ています。

EUに近代国家以前のかつての欧州のイメージが全くダブらないといえば嘘になりますが、国境廃止の流れを作ったー実際、陸路に税関もパスポートコントロールもないーEUが、欧州と言う限定版であるにせよ新しい「視点」を作ってきたことは事実です。財政問題によって散々に批判されようが、その世界観は「時代遅れではない」・・・との印象は否定しがたい。植民地を失い自分たちの権威低下を「最近」身をもって経験してきたばかりの人たちにとって、世界の変化は、この数十年でジェットコースター的人生を送ってきた日本の人たちよりも敏感な問題なのではないか、と考えるのです。

だからこそ「近代国家観」や「近代的自我」の限界は、人に言われなくても痛いほど分かっている・・・と欧州人は思いやすい。情報革命によって生じた「フラット」も「俺たちは痛感している」。一方、成熟した「近代市民」になりきれなかったと自らを責めてきた日本の人たちは、「俺たちはできていないと劣等感をもつ必要はなかった」と安堵すると同時に、「フラット」を推進している首謀者でないことに後ろめたい想いをもっています。なにせ西海岸文化は東洋の精神を消化しているじゃないか!ネタは持って行かれた!

テクノロジーがつくる<場>の革命は、ウチとソトの境界を破壊し、国民国家と、その上に築かれた民主主義という20世紀のシステムを壊していくでしょう。

しかしその先には、昔から人びとが願っているような「皆が自由になる世界」「抑圧がない平和な時代」がやってくるわけではありません。ウチの幸せが消滅し、<場>へと世界が移行していくと、そこではやはり<場>を運営する側とされる側という新しい支配関係が生まれます。

支配がなくなるわけではありません。支配の構造が変わるだけなのです。

国民国家という古い権力支配が終わり、<場>という新しい権力支配が始まるということ。

これが21世紀に起きるー起きつつあるーことだと著者は書いています。場とはプラットフォームのことです。この数世紀間に支配的であった権力が弱体化し、さまざまなレイヤーー国、政治、言語、アート・・・- が相対化していく結果、従来型のコミュニティと細分化した新しいコミュニティが併存していく姿を描いています。すべてが流動的になることを不要に怖がるのではなく、新しい社会の全体的なイメージを過去も参照しながら把握し直し、プラットフォームへの無駄な劣等感を振り払い目を大きく開いて前進しよう、というわけです。

ここで眼前に展開している状況にどういうタイプが早く適合していくのか?との問いを出したい誘惑にどうしてもかられます。が、どうもそういう分析があまり役に立たないほどに、人って多面的でどうにでも適合していくのではないか、とも思います。動機次第。人の能力にさほど差があるわけでなく、動機を自分で創れるかどうかが、人の人生を決めます。だから動機。

尚、サンケイBizに書いた以下の記事も一緒にお読みください。本書の理解の参考になると思います。

なぜ日本は「グローバル」に弱いの イノベーションの語られ方

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130630/mcb1306300501000-n1.htm

それとコーエンの『創造的破壊 グローバル文化経済学とコンテンツ産業』のレビューも参考によいかも。

http://milano.metrocs.jp/archives/4977

Category: 本を読む | Author 安西 洋之  |