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Date:17/3/26

ミラノサローネについて書き始めて10年目になりました。いやはや、という感じです。昨年、かなり熱っぽくデザインマネジメントやイタリア企業について書いたのですが、その結果(といういべきか)、1年を経てこの4月にデザインマネジメントの本が出ることになりました。ゲラのチェック段階です。立命館大学経営学部でデザインマネジメントを教えている八重樫文さんとの共著です。彼と出会ってから、ぼくは立命館大学経営学部デザインマネジメントラボの客員研究員という立場になったのですが、この立場云々というより、デザインマネジメントをアカデミックにどう語っているかをよく知るようになります。なるほどねぇ、と視界が広がりました。それでぼくは世界のデザインにおけるトップランナーであった(過去形!この理由は本を読んでください)イタリアデザインの歴史を書き、欧州委員会が進めている中小企業向けデザイン研修の背景や内容を書き、日本の中堅以下の企業がどうイノベーションを起こすか、について書いたわけです。八重樫さんは、デザインマネジメントのアカデミックな研究の動向やアートをどう経営に使うか、というパートを書いています。デザイン思考の得意な点と不得意の部分の切り分けとか、もです。

それと並行して、来年出すイタリア企業の経営の本の元ネタという前提で、月刊経営雑誌の連載原稿を数か月分書きためています。イタリア企業が規模と比較すると存在感があるのはなぜか?と言う疑問に焦点をあてています。この疑問への答えは上述のデザインマネジメントの話と深く絡んでいるので、来月出す本の「延長戦」という色合いもあります。ぼくはこれまで本は、あまりイタリアを中心にせず欧州をテーマにしてきたのですが、今回、はじめて真正面からイタリアに向き合います(『イタリアで、福島は。』という本は出していますが)。それとイタリア人の書いたデザインマネジメントの本の解説の原稿を今、書いていて、つまりは「デザインマネジメント(特に意味のイノベーション)」と「イタリア(特にメイド・イン・イタリーの存在感)」の2つのキーワードが頭の中に満ちている状況となっています。

この2つのキーワードが頭の中にあるのは昨年の4月も変わらないのですが、新たに「アルティジャナーレ」がキーワードに追加されたのが、この1年の大きな変化です。ぼくは、この言葉をずいぶんと避けてきました。簡単にいうと自分のビジネスにはなりえないことが多すぎ、しかし想いは強い人が多く、かつこの伝統は伝承すべきという、べき論が鎮座していることが、ぼくの避けるところでした。まあ精神論も強いし、と。正直にいえば、今現在も、ビジネスとしては触れないように距離をとっています。但し、それは従来の解釈におけるアルティジャナーレであり、現代のビジネスにおける新しい解釈のアルティジャナーレの意味は探るに値する、と考えるようになったのです。特に、アルティジャナーレの右翼的存在である工芸美の巨匠の世界と左翼的な街の靴修理人の世界の中間にある存在をどう量産と組み合わせるか、という点にぼくのテーマがあります。

アルティジャナーレという言葉を使っているのは、職人的というと定義がかなり違ってくるからです。職人というと、どうしても右翼的な位置が強く、聖の空間という匂いが強すぎるのです。そこからはなかなか「中間層のビジネスとの結婚」というテーマにアプローチしづらい。で、色々と本を読んでみると、少なくても欧州においてはクラフツマンシップやアルティジャナーレの定義の再考というのはかなり議論されているのですが、日本の職人論は極めて硬直した定義から脱却せず、しかもその定義の再考が論議されているように見えないのですね。とするならば、今の段階ではアルティジャナーレという言葉を使った方が多くを語れる、と思ったのです。

というわけでありまして、今年は以上の3つのキーワードから見えるミラノサローネというかミラノデザインウィークを語っていきたいなと考えています。ビジネスと文化をテーマとして記事や本を書いてきて、10年ということでもあります。その過程でローカリゼーションをテーマの中心に据えてもきたのですが、ローカルとグローバルの議論もこの10年間でずいぶんと変化してきました。この変化に関しても沢山書いてきた自覚はありますが、まだまだ突っ込みどころはあります。これもテーマの枠に入ります。

*画像はTakashi Honmaさんの展覧会にて

Category: ミラノサローネ2017 | Author 安西 洋之  | 
Date:16/7/25

大学生から社会人になりたての頃、つまりは1970年代末から1980年代半ばくらいまで、三浦半島の先端、油壺によく行きました。ヨットハーバーのシーボニアに出かけたのです。たまにクルーとしてヨットにのり、たまにデートで食事にいく、という感じです。海から眺める周辺の陸の風景が妙に神秘的で、「今度、あのあたりを散策してみたいなあ」と思っていましたが、一度も足を踏み入れたことがありませんでした。まさか、そこが関東地方で稀な源流から河口にかけて丸ごと自然が守られている「奇跡の自然」であるとは、まったく知りませんでした。

ぼくが知らなかったのは当然で、この本の著者である岸由二さんと柳瀬博一さんのお2人が保全活動をスタートされたのが1985年ですから、それまではおふたりも知らない世界だったのです。ただ、そんな近くにある自然の価値をまったく知らなかったのは残念だった、というだけでありません。ぼくが1980年代後半からやや肩入れしていたのが横浜の三菱重工の造船所やその他の跡地をどうするか?という市民運動でした。それが行政から「市民の声は聴きました、はい、おわり」という感じだったところで、敗北感があったのです。その後、あの地域は「みなとみらい」と呼ばれることになりましたが、一方、同じ時期にスタートした岸さんと柳瀬さんの活動が、こうして30年を経て実り、小網代の自然は守られ、多くの人たちが自然を学ぶ場になっている。これは凄いなあ、と心の底から思うのです。

ぼくは1990年からイタリアに生活拠点を移した後、この三浦半島の先端に出かけることは全くありませんでした。確か4-5年くらい前、フェイスブックで柳瀬さんが小網代の自然を守るために、森を暗くしてしまう木や草を刈っていく「休日労働」をしていることを知りました。同時に、岸さんという柳瀬さんの大学時代の恩師の関係にも興味をもちました。柳瀬さんが理系の研究室にいたとか、岸さんがゼミの指導教官だったというのではなく、経済学部の学生が一般教養科目の履修で知った先生と30年もつきあうが続いている。しかも、柳瀬さんの流域や自然災害だけでないさまざまなテーマのフェイスブックの投稿に、岸さんは適切なコメントを書いていらっしゃる。この師弟関係を眺めていて、とても羨ましいとも率直に思っていました。

小網代の苦労と素晴らしさについては、2年前、ほぼ日で柳瀬さんが話されたレクチャーを読んでいましたが、今回、本書を読んで今さらながらに、保全のための絶妙な戦略と着実な実践に唸ります。実は今月初めに東京で柳瀬さんとお酒を呑んだ際(柳瀬さんは喉を傷めて、まともに声が出ない状態でノンアルコールビールだったのですが)、この本をいただき、ミラノに戻ってくる機内で読みました。そこで、なんとも胸がしめつけられるような思いをしたのです。岸さんが初めて小網代を訪ねるまでの経緯です。

岸さんは、かつて関与した自然保護運動から手をひき研究活動に専念していた。どうしても政治的な動きになってしまう自然保護運動から距離をおきたいと考えていたのです。が、人に強く誘われ、やや重い足取りで(のはず)、はじめて小網代を訪ね、この自然の凄さを一目で把握した。それが、1984年11月18日であったというのです。実際の活動をスタートされる前年です。岸さんにそれまでの10年以上の流域生態系の「思索と思い入れ」があったがために、30代後半のある日、大きな実践の場を得たわけです。それを大学できっと熱い思いで語り、学生であった柳瀬さんが惹かれていったのでしょう。

安易に政治家に頼らず(どうしても、そういう誘惑が多いのです)、反対運動ではなくより包括的な提案を柱に、社会全体が合意する範囲と方向の見込みを読み間違えずに活動を続けてこれたのは、岸さんと柳瀬さんの「社会理解度」が抜群に高かったからだろう、と考えました。もちろん、「自然理解度」とセットになっているからこそですが、「自然理解度」だけではこういう「大人の成熟度」を感じるプロジェクトにならなかったでしょう。(だから、ぼくは自分の青臭い時代をフラッシュバックさせられる羽目になる・・・・)。

8月、小網代の森に行きたいと思っています。やっとのやっと、青臭さの整理もかねて 笑。

 

Category: 本を読む | Author 安西 洋之  | 
Date:16/6/14

前回、「デザイン・ドリブン・イノベーション」という本が予想に反して面白かったという話を書きました。日本と同様、欧州でも「デザイン思考」という言葉が非テクノロジー分野や行政の間で浸透しつつあります。しかしながら欧州では日本と比べると、「デザイン思考」をもう少し相対的に捉えている印象をうけます。欧州委員会のなかでデザインがイノベーションの鍵としていわれ、そのデザインは「デザイン思考」と「デザインドリブンイノベーション」の2つのアプローチで表示されている、という点が目をひきます。

デザインがスタイリングだけでなく、プロセスや戦略に関わると考える企業家は欧州のなかではスカンジナビアや英国に多く、欧州と米国を比べると、特に米国では戦略的な位置づけとしてのデザインがあります。 地域としてはこうですが、日本も含め一般的には、製造業よりサービス業、老舗よりも若い企業がプロセスや戦略としてのデザインに積極的であるとの傾向はあります。

今回のセミナーでは、「デザインドリブンイノベーション」の著者であり、次作の「意味のイノベーション」の刊行が待たれるミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授のもとで学んだ羽山康之さんを講師に、こうした全体図を話してもらう予定です。

 

 

「今、欧州ではデザインとイノベーションをどう考えているか?」

日本企業の経営のなかでデザインへの認識が増しています。一つにはスタンフォード大学とIDEOが発信拠点となっている、ユーザーを中心に考える「デザイン思考」普及の恩恵があります。

これには欧州においても同様の現象がありますが、受け入れ方やその度合いが日本とは違います。例えば、欧州委員会のイノベーションユニットでは「デザイン思考」だけでなく、「デザイン・ドリブン・イノベーション」の両輪でイノベーションを推進しています。

「デザイン思考」は緩やかな改良を狙うプロジェクトには適切ですが、急進的な意味の転換を伴うイノベーションには「デザイン・ドリブン・イノベーション」が適当である、と考えているからです。

「デザイン・ドリブン・イノベーション」というコンセプトは、2009年にハーバード・ビジネス・スクール出版から出されたミラノ工科大学MBAの教授、ロベルト・べルガンティ氏の著書のタイトルからきています。

今回のセミナーでは、安西洋之氏のもと、今年、ベルガンティ教授の講義を直接受けた羽山康之氏が、「デザイン思考」と「デザイン・ドリブン・イノベーション」を対比して、何が同じで何が違うのかを明らかにします。同時に、「デザイン・ドリブン・イノベーション」以外の欧州でよく語られているデザインアプローチも紹介していきます。

開催概要

日 時 9月3日(土)16:00-18:00 18:00-19:30懇親会

場 所 AXISビル地下1階イベントスペース「SYIMPOGIA」

料 金 会員2,500円
一般3,000円
学生1,000円

講師

羽山康之(はやま・やすゆき)

イタリア・ミラノ工科大学デザインスクールで戦略的デザイン修士。一橋大学商学部、同大学院商学研究科経営学修士。デロイト トーマツ コンサルティング株式会社(当時)にて、経営コンサルタントとして自動車メーカー/自動車部品メーカーのビジネス支援に関わる。

ミラノ工科大学在学中、ミラノ工科大学Master in Product Design for Architectureの非常勤講師。またミラノ国際博覧会(EXPO 2015)時に立ち上げた、イタリアの食品関連ベンチャー企業にて食文化を再発見し、発信するデザイン戦略企画に従事。スペイン・バルセロナでデザインエージェンシーにてインターンを経験。その後、イタリアの建築設計事務所にてデザインコンサルティングを行い、6月末帰国予定。

関心事項は、イタリア流の意味のイノベーション(Innovation of Meaning)/デザイン・ドリブン・イノベーション/戦略デザイン、デザイン×ビジネス、文化と人の生活、Co-creation/Co-designと旅行(学生時代に世界周遊)。栃木県出身の地元好き。

モデレーター

安西洋之(あんざいひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
上智大学文学部仏文科卒業後、いすゞ自動車入社。欧州自動車メーカーへのエンジンなどのOEM供給ビジネスを担当後、独立。ミラノと東京を拠点としたビジネスプランナーとして欧州とアジアの企業間提携の提案、商品企画や販売戦略等に多数参画している。国際交渉のシナリオ立案とデザイン企画を得意としている。また、海外市場攻略に役立つ異文化理解アプローチ「ローカリゼーションマップ」を考案し、執筆、講演、ワークショップ等の活動を行っている。

著書に『イタリアで、福島は。』『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』(日本評論社)。共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』(日経B社)。

「ローカリゼーションマップ」WEBサイト http://www.localizationmap.com/

<申し込みは右記参照のこと>http://www.jida.or.jp/site/information/innovationseminar.html

 

 

 

 

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