ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』を読む

この本『突破するデザインーあふれるビジョンから最高のヒットを創る』の監訳・日本語版解説を担当しているのでレビューに入れるのは正確ではないのですが、著者が他人なのでレビューに入れておきます。とはいうものの、立場が完全な読者でもないので裏話をしましょう。

 

デザインの次に来るもの』の「はじめに」でも書いたのですが、正直、ミラノ工科大学ビジネススクールでイノベーションを教えるベルガンティとこんなにも深い付き合いになるとは昨年の5月まで想像もしていませんでした。ベルガンティの『デザイン・ドリブン・イノベーション』を訳した立命館大学経営学部でデザインマネジメントを研究している八重樫文さんに、ミラノのワインバーで本を頂いたのがきっかけです。それまで、この本の存在は知っていても全然食指が動かなった。経営学の専門家が書いたデザインの本が面白いわけがない、と強烈な偏見をもっていたのですね。しかし、実際に読み始めたら俄然面白かったのです。そこで、ベルガンティの主張にもっと日本でも耳を傾けてもらうことをやった方がいいと八重樫さんと話し、いろいろとスタートしました(『デザイン・ドリブン・イノベーション」は北米や欧州に比べ、日本の反応が鈍かったのです)。

まず、その時点で『デザイン・ドリブン・イノベーション』の再版予定がないと判明したので、クロスメディアパブリッシングの吉田倫哉さんに頼んで、オンデマンドとキンドル版のプロジェクトを引き受けてもらいました。これなら販売実績に関わらず絶版になりません。一方でベルガンティが書いていることが、日本の読者に分かりにくい部分もあるし、だいたいデザインマネジメントが世間で言われるほどに、「デザインと経営がどうつながるの?」「デザインとイノベーションがどういう関係があるの?」というテーマが、歴史的・地理的(文化的)に俯瞰して一般向けに整理されていないと考え、八重樫さんとの共著で本を書くことになったのです。

 

一方でベルガンティの同僚たちと欧州委員会のイノベーション政策の現状を見聞するにつけ、「欧州ではデザイン思考とデザイン・ドリブン・イノベーションの両輪で推進しているのに、日本でのデザイン思考一本やりは危ないなあ」と感じるようになります。またデザインの地位向上ばかりに浮足立っている、つまりは何から何までデザインのおかげとしたがる流れもロクなことにならないと前々から思っていたことがむくむくと大きくなってきます。こうした原稿を書いているうちに、ベルガンティの前々から出ると言われながらずっと遅れていた新著の原稿を読むことになります。「これならいける!」と思いました。というのも『デザイン・ドリブン・イノベーション』はいわば研究知です。だから、これをどう実践的に使えば良いのかが分からないという人が多かったのです。しかし、MITプレスから出る『Overcrowded 』は、実践の書だったのです。ベルガンティとそのチームがこの10年、研究知から実践を試みた結果獲得したことが書いてありました。『デザインの次に来るもの』の趣旨もより自信をもって伝えられると確信をもちました。

 

日本語版の帯び付きのカバーを見ていただくと、この「実践」の意図が分かるでしょう。この日本語版を出すには日経BP社の長友真理さんのご尽力があり、なんとか英語版出版の2月からあまり時間を経ずに出版できることになりました。実践編というと、単なるノウハウ本のように思われるかもしれませんが、ここでの実践とは「ユーザー」ではなく「人間」を相手にした時に「人々が愛して欲しいと(私が)願うものは何か?」を考えることを起点とします。とても深いのです。ですから、「深く考えるにはどうですれば良いか?」ということが、ここには書いてあります。「ニーズ」や「ソリューション」が必要でないわけではないのですが、こうした次元のイノベーションの手法やツールは十分にあります。オープンイノベーション、クラウドソーシング、デザイン思考・・・・と。他方、人の心を捉えて離さないモノゴトをつくる手法やツールはあまりに未開拓であるとの認識を踏まえ、いわば「ブルーオーシャン戦略」の実践編が、本書という位置づけになります。

 

その手法などについては、これからいろいろなところに書いていきます。尚、まだ告知がされていませんが、ベルガンティは7月に日本の複数の箇所で講演会をします。この本を読んで、是非、話も聞いてみてください。

 

 

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Category 本を読む | Author 安西 洋之