ミラノサローネ2017 (4)  心にひきつけられるデザイン

昨日、デザイン思考=問題解決(改善された商品)というレイヤーだけでなく、デザイン・ドリブン・イノベーション=意味のイノベーション(心離れがたき新しい意味をもつ商品)というレイヤーに注力すべき時期になっていることを書きました。これを強調しているのが、ミラノ工科大学経営工学研究所のロベルト・ベルガンティ教授の「Overcrowded」(MITプレス)です。今日は、彼と米国ペプシコCDOのポルチーニ(彼はミラノ工科大学のデザインの出身で、3Mで実績をあげヘッドハンティングでペプシコに転職)の講演、それにパネルディスカッションにエコノミストのコラムニスト、デロイトデジタルのコンサルタント、ミラノ工科大学のズルロなどが並びました。

問題解決には大いに力を発揮した人たちが、こと意味のイノベーションには戦力になっていない。それは今回何度も書いている(Userではなく)Humanレベルの理解とコミュニケーションが鍵になっているからですが、問題解決に適用されている方法論が意味のイノベーションのケースには応用できない、と認識すべきというのが第一歩です。問題解決がユーザー観察からスタートしてアウトからインという順序になるのに対し、意味のイノベーションでは個人の熟考→2人(スパーリングパートナー)での議論→7-8人(ラディカルサークル)→解釈者たちのグループを経て初めてユーザーが登場してくるのです。多くの人を最初の段階で巻きこんではいけない。クラウドソーシングやオープンイノベーションは問題解決の作法であり、その限定された目的のために使うべきだ、というわけです。

アイデアは現状の改善のためのもので、変化は批判精神によってこそ起こすことができる、と散々デザイン思考でもてはやされた言葉や方法が小気味よいぐらいにバッサリと切られていきます。ぼくはベルガンティの本は読んであるし、彼自身とも何度か直接話し合っているので、そこに新しいネタはなかったのですが、デザイン経営として注目を浴びているペプシコのポルチーニの話を聞いて大いに納得がいったところがあります。彼はベルガンティの前著「デザイン・ドリブン・イノベーション」から今回の新著に至る内容を支持しており(彼は学生の時にベルガンティの授業も受けていた)、「ペプシコの社内でも、この考え方と近いところでプロジェクトが進んでいる」と話した後、デザインの考え方や現在の戦略などを紹介しました。

ぼくが納得がいったのは、ポルチーニのセリフの一つ一つがまっとうに「自分の言葉になっている」という点です。徹頭徹尾、自分の言葉からはじまり、それらを何度も鍛え直したプロセスが浮かび上がるような話ぶりなのです。「消費者がこう望んでいるようで」という心もとないニュアンスがなく(もちろんマーケット調査は散々やるにせよ)、彼自身にスタート地点があるとしか思えないアプロ―チなのです。それでいてデザインアプローチのアカデミックな裏付けもしている。なるほど、アカデミックなデザインマネジメント研究はこう使うのか、という良い見本です。

さて、この話、ミラノサローネの文脈に落とし込むための、ベースとなる現実を見てみます。

リーマンショック以降のこの10年近く、イタリアのインテリア業界で生じた大きな変化は、1) 従来の流通経路による商品のビジネス比重が下がっている(特に個人客にブランド浸透率が低い場合) 2) オンライン販売は成長している(が、1)をカバーするほどではない)3) ホテルやオフィスなどへのB2Bに売り上げを頼るケースが増えている 4) フィールドごとの商品が生きづらい(オフィスではオフィス家具ではなく、従来の一般家庭向けのデザイン家具が使われるなど脱”小さいコンテクスト”という流れがある 5) 4)とは反対に”大きいコンテクスト” という観点では、よりコンテクストが重視される(それがオフィス家具に一般の家具が使われる、という展開を生む) というようなところだと思います。

これらの事実を前に分析的な問題解決ではなく、意味のイノベーションを考えるとするならば、今年のデザインウィークの何を見るとよいか?を考えることになります。

 

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Category ミラノサローネ2017 | Author 安西 洋之