ミラノサローネ2017(2) 新ノマド時代のイタリアデザイン

この20-30年くらいのインテリアデザインの流れをみると、よりリラックスした空間を演出することと、その適用範囲の拡大という現象がありました。リビングルームのソファであれば足を投げ出すスタイルの一般化であり、そうしたリラックスで気の利いた空間が、寝室、浴室、台所と拡大したのです。一方、身体の自由が効かなくなってきた高齢者の寝室を、孫も気楽に遊びに来れるようなデザインにするとのイノベーションもあり、これは限定された空間利用からの解放ということになります。

このトレンドをさらに大きい文脈におくと、2つの動きのなかに入ります。1つはファッションのカジュアル化やスポーツファッションの定着が簡単に思いつくことですが、例えば、ファーストネームで呼ぶ習慣の拡大(イタリア語であれば、「あなた」を表すLeiから「君」のTuへの変化と多用)など、多くの分野とレイヤーでこうした現象は起きています。もう1つは、「ノマド新時代」という括りになるでしょう。格安航空会社やモバイルデバイスの普及により、移動することが容易になり、固定的な範囲が消失していきます。ノートブックのモレスキンは1997年に生産がスタートしましたが(モレスキンと呼ばれない、ハードなカバーにゴムのバンドがついているタイプはゴッホの時代からありました)、彼らは1990年代にあったこの兆候をみてモレスキンをスタートさせたのです。ご存知のように、今世紀になりメジャーな流れになってきました。

移動とコスモポリタンな動きはグローバル化と符牒を合わせる一方、それまでに注目されなかったローカルの価値を上げることにも貢献しています。ワインのテロワールの価値をグローバル市場が判断するのも、このケースと言えるでしょう。この事例と離れているようで近い事象が、ハイテク(最近でいえば、IoTやAI)とハンドクラフトの対比であり、どちらが相手を食うかではなく、どちらがどういうシーンでどう包括していくかというレベルで議論するタイミングなのだろうと見ています。特に、ハイテク分野は先端への希求と人間への戻しの反復が激しいので(メールの普及と、その反動としてのメッセージアプリの逆襲。文字情報に対する音声情報)、若干、マッチポンプ的なところを感じます。

複雑化とシンプル化の往復とも言えますが、こういうタイプの話のなかで欧州としての「頑固な部分は何か?」が、きっと日本では見にくい部分かと想像します。したがってミラノサローネを見る際の参考として、ぼくの印象を書いておきます。

それは次の点です。

欧州でのHuman Centered Designという概念が、米国でUser Centered Designとなったとき、日本語に訳した時の「人間中心設計」と「ユーザー中心設計」における差以上に、HumanとUserの間に差があるという認識になかなか思い至らないだろうと思います。ぼくもこのブログをはじめた頃から書いていると記憶しているのですが、国際規格を決めるミーティングの際に、「これによって人の命に影響するのか?」と欧州の参加者が問うのに対して、米国の参加者が「これによってビジネス上の損得はどうなのか?」と聞いてくる違いについて、日本語感覚における「人間」と「ユーザー」では掴み切れていないという気がして仕方がないのです。Humanの言葉が指し示す範囲と価値の優先順位が、人間より広く高いのですが、その差がなかなかみえない。

だから「リラックスへの動向」、「自由度の広がり」、「クラフツマンシップへの絶対的価値観」という話が、イマイチ、表層的なトレンドのレベルでしか把握されていないから、これらのメッセージに基づいたデザインへの理解度が浅いところに留まっているような気がします。これは人間という言葉への理解を言っているのであって、もちろん、どこの国のどの文化が、人間存在に対する理解度が高いと指摘しているわけではありません。きっと日本語における「人間」は、「人間」以外の言葉が補完されることによってHumanの範囲と深さをカバーするのでしょう。

・・・というコンテクストのなかで、今年のはじめに、サンケイビズの連載コラムに書いた「戸外に目を向けたイタリアデザインの新潮流 スタートアップが生み出す」という流れは、ミラノサローネでメインとなっているインテリアデザインの変化を読むに役に立つのではないかと考えています。スタートアップの人たちはMade in Italyの3つの基幹産業(インテリア、ファッション、食)からどう離れ、どう過去の遺産を活用するかを試行錯誤しているのです。それを前回書いた3つのキーワード、「意味のイノベーション」「メイド・イン・イタリーの存在感」「アルティジャナーレ」という視点でどのように解釈していくか、これが今年のサローネで注目しているテーマです。

 

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Category ミラノサローネ2017 | Author 安西 洋之