ミラノサローネ2016(5) クラフトバイクはいい!「New Craft」

ファッブリカ・デル・ヴァポーレは不思議な場所です。もと工場だったのをミラノの新しい機運を生む場所とすべく市が動きだし、若いクリエイターや起業家のメッカにするという謳い文句のもと、期待が込められたのは10年以上前です。実際、「若いクリエイター」とは40才周辺の行政にコネがある人たちが多かったのですが、決して「つまらないことをやっている」人たちの溜まり場であったわけではありません。しかしながらトリエンナーレがミラノ工科大学の建築やデザインの学部があるボビーザに別館を作ったことで、ファッブリカ・デル・ヴァポーレは、ある意味、煮え湯を飲まされることになります。別館とその周辺にクリエーターのスタジオに脚光が浴びるような仕掛けができたからファブリカ・デル・ヴァポーレは劣勢に立たされたのです。それに追いうちをかけるように、デザイン学校であるスコーラ・デル・ポリテクニコやコンテンポラリーアートのギャラリーがあるランブラーテの周辺がフオーリサローネの重要なゾーンー特に北欧関係のクリエイターの展示の場所としてープロモーションを開始します。

ファッブリカ・デル・ヴァポーレは何からのイベントをそれなりに毎年サローネ時も開催してきました。また、ちょっと社会派を任じるこの場を好んでぼく自身は訪ねてきたのですが、どちらかというと外れたカードのムードは拭えなかった。

他方、この10年間はミラノの風景を変えました。1990年代後半から、ファッブリカ・デル・ヴァポーレ近くはかつては洒脱な住宅街だったゾーンが中華料理店や服などの卸しが占拠し、卸の客しか路面店の場所に近寄れなくなります。暴動や違法労働などで新聞の社会面を騒がせる地域となったのです(中国の高度経済成長と並行して)。が、このゾーンが再びトレンドにのった地域に戻りつつあります。オシャレなカフェやエノテカができたきただけでなく、中国人の経営する個人商店も世代が変わり店舗デザインにも気を使うようになります。路面は中国人街風であっても建物の2階上には中国人ではなくイタリア人の住居が多かったという背景もあるでしょう。予想より早い足取りで街の雰囲気が「正常化」してきたのです。それに加え、ファッブリカ・デル・ヴァポーレの近くに新しい地下鉄路線M5のモニュメンターレ駅ができました。

それだけでなく数年前、ボビーザのトリエンナーレ別館は閉鎖しました。ボビーザの駅を挟み、ミラノ工科大学のデザイン学部を中心とした地域の周辺には新しい開発がされているのですが、エネルギー学部やMBAなどがある反対側は地域発展から若干取り残され、トリエンナーレ別館ができても活性化ができなかったからなのか理由は分かりません。「あの地域」がファッブリカ・デル・ヴァポーレのライバルの地位から転げ落ちたのは確かです。もう一つ。ランブラーテのコアであったスコーラ・デル・ポリテクニコが市内の南に移転したのです。ここも相対的な求心力を失ってきているわけです。やや長い説明になってしまいましたが、10年ほどの苦労を経て、ファッブリカ・デル・ヴァポーレはやっと「まともな」ことができる環境になってきたのです。トリエンナーレの一環としての「New Craft」が、ここで展示されている意味を、ぼくはこう解釈しました。

「New Craft」に展示されているものは、3Dデータなどの新しいテクノロジーにより洋服をつくるプロセスが変わるとか、生活雑貨品の制作がよりオーダーメイド化されるとか、表現の対象はさまざまです。よくある工芸品の「アート化」現象もみることができます。ぼくは、ここでふと立ち止まります。クラフト品は嫌いじゃないのに、どうしてこういうスペースでみると、ぼくの腰がひけちゃうのだろうな、と考えました。家の中、小さな店、アンティークショップ、レストラン、これらの空間で出会うクラフトには心が休まったりするのに、クラフトをタイトルにした展覧会はあまり好きになれない。もったいぶった重さが苦手なんでしょうかね。それで正直言うと、「New Craft」にもあまり期待せずに出向いたのです。ただ、足を踏みいれて一つ心躍る例外がありました。それは自転車です。「自転車がクラフトのイメージリーダーになる!」との力を感じたのです。

自転車が都市空間の主役に躍り出てそれなりの時間が経過しています。先進国だけでなく新興国でも自転車は魅力的なツールになっています。バイクシェアリングも珍しいニュースではありません。インテリアやファッションの世界でも「小物」として自転車が登場します。単に「アンチ自動車」ではなく、スポーツやカジュアルな生活スタイルの定着のなかで自転車それ自身の力でステイタスを獲得してきました。そういう社会性も含めた上昇気流、外向きの明るさ、ファッション性などがクラフトを「跳ねる」ものとして表現されるー例えば、画像の一番上のバイクは漆塗りですーとクラフトの展覧会でも受け入れることができるのか、と気づきました。職人の心とか語るのはとりあえず脇において、クラフトよ、街へ! です。

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Category ミラノサローネ2016 | Author 安西 洋之