ミラノサローネ2016(3) 経営にデザイン?

デザイン思考が経営に採用されるという流れ。イタリア企業は経営にデザインを取り入れてきたという評判。この2つは繋がっているのか、似て非なる現象なのか。もう少し風景を描いていきましょう。

トム・ディクソンだけでなくデザイナーが家具・生活雑貨を中心とした自らのブランドを作るという試みは数多あります。今年のサローネ期間中も、ある名の知れたデザイナーが、そうしたブランドを発表する予定です。生産する場所は世界中に可能性があり、オンライン販売が普及してきた現在、「自分が当事者になってやっていこう」と考えない方が不思議なくらいです。なにせ悪名高きロイヤリティ契約は価格の数パーセントです。巨匠のロングセラー作品ならいざしらずー実際にはヒット作品のロイヤリティ契約の詰めが不十分でヒット作品では思うようなお金がもらえず、ヒットして高名になった後のデザインで稼いでいるケースが一般的「歴史的事実」ですがー、生活雑貨のデザインで大きく利益を手にするのはあまり期待できません。しかもデザイナーはメーカー外部の人間ですから、経営判断に関わるような内容に踏み込むことができないストレスを抱えます。

ストレスの背景には次のような事情も絡みます。「プロトタイプになるデザインの僅かのフィーをもらえればマシで、後はメーカーの意向が強い。しかも近年はカタログの更新頻度は高まり、いつ生産が中止になるとも限らない。ロイヤリティは長期間市場で紹介されてこそ旨みのあるシステムだ。現状の流れにはマッチしない」というわけです。

他方、皮肉にも(?)デザイナーの役割も変化を遂げています。製品開発の外部アシストがメインの役割だったのが、今や生産立上げまでの一切を仕切ることを期待されるようになってきています。マテリアルの選択だけでなく、サプライヤーのリストアップとそれぞれの会社との交渉まで。となると必然的に数パーセントのロイヤリティとは桁の違う金額を保証されないと割に合いません。仮にその金額が契約でサインされるなら、デザイナーの仕事はより経営的な判断に近くなります。つまり経営がデザインのプロセスを取り入れるとは、文字通りデザイナーが経営のなかに入り込む余地が大きくなった状況とパラレルでもあるのです。

・・・とすならば、「なんだ、こんなことなら、全部自分がリスクを背負って自分のブランドで商売した方がビジネス的に面白いじゃない。自分でも納得がいくし」と考える人がでてきますよね。メーカーの連中をクライアントとして説得するのに時間とエネルギーを費やし、もしそれが成功しても、どこで生産が打ち切られるか分からない仕事よりも、自分自身で市場の最終消費者に対峙して納得いくまで勝負をかけたい、と。それなりに名のあるデザイナーであれば投資家も味方することもあるでしょう。ただ、このようなトレンドを目の前にすると、「イタリアの経営者はデザインに理解があってデザイナーと二人三脚でやってきた」との評判の裏側にあったものは本当は何だったの???との疑問をもたざるを得ないことになります。

イタリアの経営者はこう言ってきました。「我々はデザインの強みを発揮して、職人的な技術や表現を量産的なシステムにうまくのせたことだ」 これは生活雑貨分野だけでなく、それ以外の分野のメーカーの人間も同様に語ってきたことです。家具や生活雑貨でのイタリアデザインの成功を踏まえ、とても地味な分野の製品を開発するのにデザイナーに委託してきたような会社の経営者が、特にこういうことを話すのです。

ただ、それが全ての量産品に適用されるのではなく、一部の限定商品に「デザイナーに提案してもらって、そのデザイナーの名前も使って企業イメージを向上させる試みをしたことがある」との範囲にとどまることが多いのは否めません。しかし、それでも(生活雑貨以外の企業であっても)何人かのデザイナーを知っており、実際に面談もし、一回でも何らかの製品開発を一緒にやったことがあるとの経営者がそれなりの数がいるー これが「イタリアの経営者はデザインに理解がある」という評判の大かたの実態ではあると思います。このテーマに絞って詳細にリサーチしたことはないですが、ぼくが多くのイタリアの中小企業とつきあってきての経験値です。

即ち、こういうことです。一度でもデザイナーを名乗る職業人と仕事をしてきた経営者は、そういう経験がまったくなくデザイナーなる人間を生まれてこの方見たことも話したこともない経営者と違う可能性が大きいのか? そして仮に答えがYESならば、企業経営者がイタリアデザインをリードしたとの評判は、一度での経験でも経営者に与えた影響は大きいことによるという想定が成り立ちます。が、これはスタンフォード大学などで誕生したといわれるデザインシンキングなるものを好意的に受け入れることを意味しない。国を問わず、それまでデザインに関わってきた多くの人が「なに?デザインシンキング?笑わせるなよ」と反応するのとまったく同じです。

*今日の画像もミラノの病院にあるショッピングセンターにある店舗です。

 

 

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Category ミラノサローネ2016 | Author 安西 洋之