ミラノ万博(Expo2015)の読み方 1 -万博は面白いか?

万博やオリンピックは時代遅れのイベントであると言われて久しいです。サイズ自身が今の感覚に合わなくなっているなどいろいろと理由はありますが、5月1日からスタートしたミラノ万博を巡り、「万博は面白いか?」を問うてみたいと思います。つまらないならなぜつまらないのか、おもしろい点は何なのか、これを会期中の半年間、考えていきます。

さて今回の万博は、誰にも馴染みのある食がテーマであるがゆえに誰でも親近感がもてますが、カバーする範囲があまりに多岐で複雑で超巨大なので、このイベントは自分なりの視点をもたないと楽しめないのではないかと思います。世界には餓死する人たちがたくさんいる一方、飽食で病気になる人たちがたくさんいる、という現状に対する問いかけがここにあります。例えば、我々が今のように牛肉を食べつつけ、その習慣が新興国で定着していくと食糧事情はどうなるのか? それなのに多くの残飯が大量に捨てられる運命にある。このような背景から、世界の貧困や人権問題と戦う宗教団体のカリタスやバチカンが参加している。また先進国だけでなく、貧困国といわれるところからも参加している。これらが特徴です。

下の写真は9つのクラスターエリアの一つ、「米」に参加しているバングラデシュの農業研究機関のパビリオンです。

ミラノ万博はおなじみの国ごとのパビリオンだけでなく、「米」「カカオ」「コーヒー」などのテーマエリアがあり、ここに先に挙げたあまりお金に余裕がない国が参加しています。違った地域の国が同じ材料を相手に違った事情をプレゼンするわけです。バングラデシュはその一つなのですが、壁にパネルがはりつけられています。ブレイカーのあるスペースを使っているのは仕方ないとしても、上のパネルはちゃんと読めるように縦に貼られていますが、その下のスペースに2枚のパネルを縦に貼れないので、それらを横にして貼っています。書かれている英語を読むには、床にはりつき顔を横にしないといけません。

これを嘲笑するために紹介しているのではありません。こういうパネル展示の経験が殆どない農業機関の人も参加しているところに注目すると、ミラノ万博を読み取るヒントが得られるのではないかと考えたのです。万博というと、国際コンペで勝った建築空間の各国間の競い合いという印象がありますが、これに真っ向からNOをつきつけ、新しい道を切り開いているのがオランダ館です。大げさな建築物は一切なしで、メインスペースにはテーブルとチェアの周囲をストリートフードのバンが並び、そこで食事や音楽を楽しむ趣向になっています。

このパビリオンのデザイナーは「いろいろな展示のデザインをやってきたが、正直いうと、映像を流しているのは簡単なんだよ。まったくのリアルの世界で本当に経験を提供するほうがよっぽど難しいだいたい、暗い空間をつくり、大きな3D的な映像と音響で見る人を圧倒させようという発想はもう時代遅れだしね」と語っています。オランダ政府は3年前、一度はミラノ万博の不参加を決めたのですが、昨年の夏ごろから、食の産業集積地や世代を超えたチームが「食と農業のオランダが参加しないというのはあり得ない」との動きが出始め、政府として参加を決めたのは昨年の秋も深まった頃です。それからレイアウトや資金集めがスタートしたので、そもそも大規模な建造物を作る余裕がなかったのですが、結果的にそれが良い結果を生みました。

オランダの開放性を表現するのに、ストリートフードの世界を再現するのがベストであるとのアイデアを固め、なんとコンペなしに政府から承認を得たのです。ぼくは保守的な官僚組織を相手にクリエイターたちがどうアイデアを通過させたのかを聞いたところ、時間や資金が不足していたところが結果オーライになったこうしたプロセスを話してくれたのです。「時間も金もないからやらない」ではなく、その窮地で知恵を絞ったがゆえに面白いことができた。もちろん、「どこの国もがこういうカジュアルな演出をすべきとも思っていない」とデザイナーは説明を加えます。しかし、このチャレンジにとても満足そうです。

中東のバーレーン館も、とても静かな空間を作っています。ミニマリズム的な世界にあって小さな散歩道に小さな庭があるような感じです。そして、その庭にはレモンやオレンジの木などが植えられ、その香りはとても心地よい。文化遺産の展示が奥にあります。そのセクションの、どの説明にも白い石版(に似たプラスチック)に白い文字で書かれており、決して説明的な理解を強要しません。「我が国にとって農業は大きな産業ではない。とても文化的な結びつきが強いのです」と話すディレクターは、文化や観光が担当の省庁にいる人です。だからこそ、文化は押しつけがましくするものではなく、静かに語りかけるものであることがよく分かっています。文化には輸出はなく輸入しかない、という定理を古代からハブとして栄え、石油時代の次に金融センターを作り上げた国らしい”教養”です。「他のパビリオンがうるさい落ち着かない世界を演出しているなかで、この静けさが印象に残るはず」と戦略的デザインの背景を語ってくれます(一番奥には、万博会場で一番豪華と自負するトイレがある!)。

尚、最初に書いたように、先進国の肥満解消も万博の大きな課題ですから、会場のあちらこちらにトレーニング機器があります。プレスセンターのチェアをみれば、その意図が一目瞭然です。一筋縄ではいかないテーマに挑んでいることがよく分かるはずです。

 

 

 

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Category ミラノ万博(Expo2015)の読み方 | Author 安西 洋之