渡辺由佳里『どうせなら、楽しく生きよう』を読む

20数年前、日本を離れイタリアのトリノで仕事をはじめた頃、数分でもオフィスでボスと雑談するのが至福の時でした。なにせ彼の本を読み、彼の人となりに惚れ込み、驚くほどの冒険的人生を経て、ビジネスと生活の両方の「成功者」ですから、若造のぼくが学ぶべきことは沢山ありました。

まだイタリアに来ることが決まる前、彼と日比谷の帝国ホテルのレストランで朝食をとりながら言われた、「大きな企業で階段を一つ一つ登っていく人生を否定しないけれど、自分で山を作って登っていく方がもっとワクワクドキドキして面白いよ」というのが、サラリーマンのぼくに対する最初の洗礼でした。ぼくはもちろん、昂揚感を覚える人生を送りたかったので彼にコンタクトをとったわけですが、用意された山を上手く登ることと、山自身を発見するか、あるいは山をつくるか、これらの間には大きな距離があるのは想像するものの、その河を渡るのがどれだけのものなのか、これは全く予想がつきませんでした。

そしてイタリアに来ることが決まり、アドバイスを受けたのは、「これまでにぼくに見せてくれた集中力を発揮すれば、今後、どんなことでもやっていけるだろう。ただ一つ言っておきたいのは、これからは野武士になれ、ということだ」ということでした。それまでの、いわば企画書的発想を捨てないといけないと自覚したのは、その時でした。いわゆる手順をしっかりと事前に組んで、それに沿ってやるという考え方自身から離れないといけない、ということでした。カッコよくいえば、現場で鼻を効かせながら野戦場を走りまわる、というイメージです。

そうして晴れてイタリアに来ました。トスカーナの彼の農園からトリノに向かうアウトストラーダを走りながら聞かされたのは、「夢というのはね、実現したら日常になるんだよ」というセリフです。それまでイタリアに来て彼の元で修業することを夢見ていたぼくにとって、これには不意を突かれました。夢ある人生が最高のように言われながら、しかし夢とはいつも同じものではないし、夢そのものは人生を送る一つの燃料に過ぎないのか、夢を限定的に考えるようになりました。しかし、それはまだ彼の言葉をよく理解できなかったからかもしれません。

ある日、冒頭のようなオフィスでの数分の間、「ぼくは社会的な地位もあるし金もあると世間で見られているから、日本では高級料亭で懐石料理をご馳走されるわけだが、正直いえば、そんなのどうでもいい。一番幸せなのは、先が何もみえないプロジェクトを進めてきて、何かがみえてきて、そこで食べる一杯のラーメンの美味しさなんだよ」との話を聞いたとき、「成功」や「幸せ」が人と比べるものではなく、自らが辿ってきた道を振り返った時の自分の気持ちのありようなんだ、ということに気が付きました。

ぼくもこれまでの人生で沢山の人と出逢ってきました。しかしながら、あれほどに面白い人生を送り、あれほどに深い言葉をさりげなく言える人に会ったことがありません。そして、ぼく自身、あの時の師匠の年齢を超えたのですが、あれほどに人の様子をみて的確な言葉を吐けるものだろうか・・・というのは、今もたまに思います。というわけでぼく自身、比較してしまっているわけですが、人生の主人公と演出は自分以外にはありえないという自覚を如何に早い時期にもつか、というのは人生の一番のテーマです。

渡辺由佳里さんの『どうせなら、楽しく生きよう』は、心が弱った方からの相談を受けているうちに執筆を思い立ったようです。ご自分の半生を書きしるしていますが、特に父親との関係に長い間苦しめられ、まだご存命(と思われる)の父親から訣別していくプロセスを読むのは心が痛みます。しかし、自分の人生が開けるのは、そのポイントにこそあるのです。第三者の介入を許さない「どうせなら、楽しく生きる」人生の凄みが、ここにはあります。

これを読んで、ぼくの「主人公意識」の形成の一端を思い起こしたのが上述です。因みに、本書の最後を読むと分かるように、本書を原稿段階で読ませていただいた一人ですが、このプロセスを拝見して、ぼくも自分で電子書籍を作ってみたくなりました。

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Category 本を読む | Author 安西 洋之

Comment

  1. Ivan 

    This shows real exptseire. Thanks for the answer.

  2. Morochita 

    Haha, shouldn’t you be charging for that kind of kng?oedlew!

  3. Cheroke 

    I thought I’d have to read a book for a divsecory like this!