生産性の低さは「思考の深さ」の表現か?

最近、考えていることをメモしておきます。

先週、サンケイBizの連載コラムに掲載した「「デザインの位置」 勘違いする人が出てくる原因とは?」は、デザインを語る人が増えているなかで、どうもモヤモヤ感が伴っている現状について書きました。スタイリングのデザインと社会の仕組みを指すデザイン。可視化が重要と言いながら、可視化されたものにあまり敬意を払わない・・・・それは昨日、いみじくもミラノの工科大学のデザインの先生が学生を前に「君たちはデザイン界のスターになるのではなく、デザインの現場オペレーターになるのだ」と喝破した「職業としてのデザイナー」の位置が、デザインの社会的ポジションをよく表現しています。

昨日、ミラノの雑貨セレクトショップ Cargo & High-Tech の創業者の「今のデザインに魂があるのか?」というプレゼンを聞きました。フランスやアメリカのデザインに刺激をうけることが多かった一方、日本の焼き物からも「思考の深さ」を学んだとも話していました。そして、それは無印良品にも綿々と継がれていると評価が高かったのですが、ぼくはこの「思考の深さ」は本当なのか?ということを自問しました。仮にそうだとするならば、日本文化にある「定義やジャンル分けを拒否する」と「生産性の低さとネガティブにとらえられる長時間労働」が「思考の深さ」を導いているかもしれないと思いました。何時間考えたか?は思考の深さに直結します。

先週、トリエンナーレで行われた隈研吾とイタリアの Cino Zucchi の二人のプレゼンを聞いたのですが、隈研吾の脆弱性を強みとするとする主張ーコンクリートではなく竹やその他のローカルな材質を使うべきだーは、欧州人の聴衆にかなりインパクトがありました。多くの中国からの留学生も満足気な表情をしていました。一見、隈とZucchiは結果として似たような表現に到達しながら、そのプロセスに違いをみます。そのような点に注目しながらも、隈研吾の評価の高さは建築ーそれもシンボリックな公共建築ーであるがゆえであり、これが大量工業製品になると同じような論理は適用しづらくなりますー人々が非日常空間として愛でることと、日常生活のなかで日々使うものの評価軸の差は大きいー。

だからこそ無印良品は日本文化の良きエッセンスを体現しているとみられることに意味があります。無印良品は1980年にスタートしましたが、70年代までの高度成長にあった「経済第一主義」から「文化の時代への準備」という潮流で生まれました。1991年にはロンドンに海外第一号店を出して「我々は西洋の物まねから脱して日本文化の顔をした商品を売っていく」との姿勢が見えました。これは80年代から多くの日本企業にではじめた「品質、機能、価格だけではなく、付加価値をつけた顔のある製品」への希求の一つであったと考えるのが妥当です。

さて昨日のことに戻りますが、「今のデザインに魂があるのか?」のプレゼン後、上海でブランドビジネスをしている中国人と日本人のご夫妻と夕食をとりました。「中国の商売は瞬間的に大量に売り捌くことが良しとされ、ブランドの確立? 何それ?という感じなんですが、十年以上やってきた我々のことを評価してくれる中国人もじょじょに増えてきました」と伺いましたが、そういう場にあって「思考の深さ」や「長時間労働」がどのような意味をもつかを話し合いました。確実に言えることは、ものごとを深く考えるには絶対的に時間が必要であり、企業という組織のなかでメンバーが同じ結論に至るには膨大な緻密な作業を要する、ということです。ネガティブにとられることが多い「意見調整」の時間をもう一度積極的に評価をしてみるのも一つかもしれません。

lmapでは「緻密性の要求される分野では緻密性を捨てる必要はなく、課題は緻密性の要求されない分野で緻密性をどう捨てていくか?」ということを繰り返し語っています。過去、日本の企業に多かった合理性の欠如ー特に海外市場向けの商品企画やメッセージの出し方ーをずいぶんと指摘してきましたが、これからは今後の強みとなるパートの広げ方にも発言を増やしていこうと思っています。来月初旬はジャカルタでデザイナーを相手にした講演があるので、このポイントにも言及できればしてみたいと考えています。

 

 

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Category イノベーティブ思考, ローカリゼーションマップ | Author 安西 洋之