リンダ・グラットン『ワーク・シフト』を読む

ぼくがイタリアに来たのはカーデザインの巨匠であるジュージャロと一緒にイタルデザインを立ち上げた実業家の宮川秀之さんの元で修業するためであったことは、5年前に「ぼく自身の歴史を話します」で書きました。彼に教えてもらったことはたくさんあり、今もその言葉の数々が情景含めて耳に残っています。その一つに、こんなのがあります。

「ぼくはおカネがあり、社会的地位もあると言われる身だ。日本に行けば高級料亭の懐石料理をご馳走してもらう。でもね、本当をいえば、安いラーメンをおいしく食べる方が大事なんだよ。何もないところからどうなるか分からない不安だらけのプロジェクトをはじめ、やっと一息ついたところで食べるラーメンを美味しく思えるよう、どう自分をキープするか?なんだ」

ちょうど其のころ、イタリア都市史が専門の法政大学の陣内秀信さんと雑談していた時、「『イタリア都市再生の論理』のベースになる論文を準備している時、誰かに先を越されないか不安だったけど、そのドキドキがよかったんだね」と話すのを聞いて、「不安の解消の仕方」に宝が詰まっているのだと思いました。30代のはじめ、日本の会社をやめてイタリアで生活をはじめたころのことです。

また、宮川さんのこういう言葉も記憶に残っています。日本でバブルがはじけ3年ほどした時、「これから世界は大きく変わる。中世以来続いてきた売買関係とかの慣習が大きく変わっていくはずだ」と語りました。この言葉には数年前の「ぼくはイタリアに来て30年間、スペックはこうだ、金額はどうだ、サンプルはどうだ・・・ということをやってきた。でも、もう、そろろろ、この俺が言うんだから、そのまま契約しよう、と言われるビジネスにできないかと思うんだよ」というセリフとリンクしていたのではないかと後になって思ったのですが、ネット社会がスタートする前の言葉として含むところが多いです。


一方、今にして上記と関連があるなと思う友人の言葉があります。90年代後半、まだ夜回り先生と知られる前の水谷修さんが「明日は今日より良いという時代は終わったよ。昨日も今日も明日も同じ日が続く。明日が良いから希望が自動的にもてるというわけにはいかないんだよ。だからね、中世のような日々のなかでどう精神的なバリアを乗り越えるかが課題になるんだ」といった内容のことを話してくれました。

未来に向けた<シフト>について理解を深めれば、あなたはきわめて大きな選択を迫られるようになる。(中略) あなたがバランスの取れた生活を重んじ、やりがいのある生活を重んじ、専門技能を段階的に高めていくことを重んじるのであれば、それを可能にするための<シフト>を実践し、自分の働き方の未来に責任をもたなくてはならない。

そのためには、不安の感情に対する考え方を変える必要がある。自分が直面しているジレンマを否定するのではなく、強靭な精神をはぐくんで、ジレンマが生み出す不安の感情を受け入れなくてはならない。自分の選択に不安を感じるのは、健全なことだ。深く内省し、自分の感情にフタをしない人にとって、それはごく自然な心理状態なのだ。不安から逃れたり、不安を無視する必要はない。

と、グラッドンは書きます。しかも、「そのジレンマのなかにこそ、あなたが光り輝くチャンスが隠れている」とー悪い表現をすればー追い打ちをかけるわけです。380ページあまりの「未来の働き方」の本が実は「精神的な克服」をコアのテーマにおいている。不安との付き合い方は「強靭な精神をはぐくむ」ことにある。これは、一体どういうことでしょう。ぼくは「身体を鍛えるように、心は鍛えられない」とよく思いますが、それなら「不安な自分を面白がる」ことに突破口を見出すしかないことになります。

 

尚、本書には2025年の生き方が書いてあり、それを実践するための条件ークラスター重視や人肌のある環境ーが何度も出てきます。 ぼくは、これを読んでイタリア政府や自治体は、本書を使って2025年を生き抜く生活シーンはイタリアに揃っていると海外から優秀な人材と先進的企業を誘致すれば良いのにと思いました。

イタリア人が自国に自信をもつのも当然です。あと15年後の理想郷なわけですから 笑

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Category 本を読む | Author 安西 洋之