水谷修+鈴木一人『魚道(さかなどう)』を読む

寿司屋のカウンターがやや苦手な時があります。板前に趣味を判断されているようで心地よくない。振り返ってみると、20代では寿司屋のカウンターは贅沢な場所でした。銀座の値段の出ていない高級寿司屋に女の子とデートで出かけ、食べた気がしなかった冷や汗モンの経験など数知れず・・・パリで美術を勉強して乗馬を趣味としていた彼女の前で虚勢を張ろうとした自分が情けない 苦笑。どちらかといえば熱海にクルマを走らせ男友達と寿司を食べる方がずっと気楽で楽しかったです。ただ、ぼくがまだ苦手と思うのは、たぶん、友人たちが寿司屋のカウンターのマナーを学ぶ30代以降、日本にいないからです。寿司は大好きなのに、板前との会話には何となく距離を感じるというか・・・バーのバーテンダーと話すにはまったく抵抗がないのと逆です。

寿司屋の板前は、客をよく見ています。注文の仕方や注文する順序だけでなく、船ちょこといわれるつけ皿に、むらさきを入れる量、握りの持ち方、箸の置き方までです。

やっぱり!ちょっと叶わないなあ、と思ってしまいます。それも板前だけでなくカウンターの隣の客にも見られている風なのが。寿司屋は客がメニューを自分でつくる分ー本書によれば「寿司は総合芸術だ」とありますー客に緊張を迫る余地が沢山あるというわけです。あえていうと、天ぷら屋のカウンターもうるさい親父の目が光っていることが多いですが寿司屋ほどではありません。まあ、ラーメン屋でも「俺の流儀で食わない客は出ていけ!」みたいなムードがあることもありますので、どのジャンルに限らないか。とにかく、こういうの大嫌いです!好きにさせてくれ!

というわけで「魚道」なんて言われると、自らを批判されるようで実に居心地が悪いです。しかし、この著者のお二人を直接知っているぼくとしては、単に緊張を強いるためにこの本を出したわけではないことがよく分かります。相模湾の魚を味わう葉山の「稲穂」の鈴木さんは清々しい方ですし、本書に何度と出てくる今はない四谷の「纏寿司」の親父さんも無駄に客にプレッシャーをかける人ではありませんでした。水谷さんも鈴木さんも、すてきなことを言ってくれます。

寿司屋は、季節を食べに行くところです。(中略) 寿司屋のネタケースを、きちんといつも見てください。季節折々に、その季節に旬を迎えた魚が並んでいます。それを食べながら、海の四季を知る。これが、鮨の醍醐味だと、私は考えています。

と水谷さんが書けば、鈴木さんはこう書きます。

海の四季を感じることは、漁師でもない限りなかなか難しいからでしょう。でも、実は、簡単に海の四季を感じる方法があります。それは、寿司屋で鮨をつまみながら、板前とそのときどきの海について話せばよいのです。板前は魚のプロ、当然折々の海についても、よく知っています。その話から、季節を知り、そしてその季節のおいしい魚を、海の中の様子を思い浮かべながら楽しめばよいのです。

そう、話せばいいんです。コミュニケーション。分からないことがあれば板前にメニューをお任せにして、それぞれ教えてもらえばいいわけです。鈴木さんは、こうも書きます。

私が、寿司屋の小僧だった半世紀前と今で、何が寿司屋で一番変わったかといったら、やはり、ネタケースに並ぶ魚の種類と数でしょう。あの当時は、本当に江戸前、東京湾で獲れた魚を出していました。ネタケースには、東京湾の四季、季節がありました。今は、寿司屋によっては、世界中の魚が、季節を超えて並びます。これは、いいことなのか、わるいことなのか、私にはわかりません。

そうだよなあ、海外の8割以上の非日本人による寿司に対して、日本の寿司が正統であると主張するに相応しい状況に日本の寿司はあるのか?と思います。このテーマの水谷さんの考え方には賛成です。

単に江戸前寿司が、本当の姿、それが本物と、日本のどこでも、冷凍物や輸入された魚でその形に近づけて、またネタも同じようにして、その土地の客に提供するのではなく、ある程度は、妥協はやむを得ないにしても、その土地土地の魚を素材として、その土地の海の味を、いのちを、客に楽しんでもらう。これが、鮨の本道なのではないでしょうか。

つまり、イタリアであれば地中海やアドリア海の魚を最大限生かすことに注力するのが「本物の鮨」の考え方であり、そういった地産地消的なポリシーの普及材料として鮨が語れることはもっとあるのではないか、との感想を本書を読みながらもちました。「地中海の四季を伝える」という名前の寿司屋がリグーリアの海外沿いにある・・・いいなあ。だいたい、寿司屋は鮨だけを食べるところじゃなくて、魚を中心とした料理屋であるという定義にもっと近づかないといけないですね。

 

 

 

 

 

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Category 本を読む | Author 安西 洋之