ミラノサローネ2013(6) プロダクト+コンテクスト構成力

「今年のサローネは日本企業の出展も少ないし何か盛り上がりに欠けるのではないか?」という感想を日本から来た何人もの方が話していました。リーマンショック直後の2009年から出展企業が施工コストを節約している傾向はあり、一方、「こんなところにスペースがあったの?」との意外感がフオーリサローネの楽しみであったところからすると、確かに残念な風景をまねていています。こういう感想はイタリア人でも、特に数年以上前のサローネを知らない若い世代はもっています。実際、ドイツ市場の落ち込みを聞くにつけ、イマイチ元気を出しづらい背景は想像がつきます。

また日本企業についていうなら目立つところでのスペースでのイベントは減りました。しかしレクサスが2005年に登場して4年間やっていた時期がインテリア業界以外の参加が多く、ややバブリーであったとも言えます。フオーリサローネが拡大する一方の勢いが一時休止したと判断したほうが良さそうです。その分、そこそこの予算をとってプロダクトをきちんと見せている見本市会場のほうがフオーリサローネより見る価値があるという本来の姿に戻ってきています。既にトルトーナ地区は若い人たちにとってただ酒を飲みに行く場になっています。

とにかくフオーリサローネでは、大きな空間を暗くして光で人を驚かすインスタレーションが実は何ものでもないのは、ヒュンダイのつまらない展示をみて、逆に認識したはずです。結局において見本市会場のブースと同じく、オランダのMOOOIの展示からインパクトのあり方はプロダクトとコンテクストの構想力によるところが大きいと更に確信したのではないかと思います。

レクサスが「環境とデザイン」をテーマにコンペを行い優秀作品を展示したのは、以前4回のデザインポリシーL-Finessの訴求よりはずっとまともな取り組みです。が、テーマそのものの切り口があまりに凡庸で、相変わらず建築家の的外れなインスタレーションであるのもいただけません。実はこういう「ぬるさ」がレクサスに限らないこの数年の日本企業の出展の特徴で、言ってみれば 1)事業部にはよく見えないデザインセクションの練習を名目にしていた 2)経営層がデザイナーの「アート志向」にストップかけられなかった(←「もともと」アーティストになりたかったデザイナーや建築家は多い) という傾向がありました。韓国企業においては、この罠にはまらないのがサムスンであり、勘違いしてミスを犯したのがヒュンダイであったと評することもできます。いずれにしてもフオーリサローネはゲリラ戦で戦う場所です。大企業なら何度でも小さく試行錯誤できるチャンスです。この良い例がかつてのTOTOだったのではないか、と思います。その意味で今回の東芝の展示サイズは適正でしょう。あるいはルノーも上手い見せ方をしていました。

3Dプリンターが今までのモノづくりのカタチを変えると喧伝されていますが、「デザインの著作権はどうなる?」と提起しているのがロッテルダムのデザイナーです。音楽や文章と同じことが、これからデザインの世界で起こってくるわけですが、デザイナーは自分でデザインした椅子と同じモノをつくった第三者に著作権侵害を訴えられるのか?このデザイナー自身はデザインの著作権は崩壊していくだろうと見ているようです。これから世論を二分にしながら議論が始まっていくのでしょうが、その議論がはじまらないと3Dプリンターが一般の世界で普及しないということでもあります。

デザインのフロンティアはどこにある?といったとき、サービスや食ではないかとの意見をよく聞きます。身近にある日常ネタがある、それぞれの地域にその地域にしかないものがある・・・・という文脈で考えた時、食がテーマになるのは必然です。実際、小さいながらも成功例が数多ある。食ではないと否定するほうが難しいくらいです。が、同時にシンプルな食の良さが失われて「なんで、これがこんな値段になるの?」という裏切られる経験も数知れずあります。デザインはダサいと言われたエリアに入り込むことでデザインの力を発揮しますが、場合によっては不当な(と思われる)値付けをすることにもなります。これが「デザインってね」とため息交じりにデザインが語られるネガティブな部分で、この価値再発見と不信感の間にある緊張が、デザインを面白い試みにします。上の画像はランブラーテで開催していた学生たちの作品です。因みにランブラーテ地区は、前述した3Dプリンターとデザイン著作権のあり方を問うような試みもみられましたが、今までにあったロックンロールな感じが消えて、やや面白みが欠けました。

以前からこのシリーズで何度も書いていますが、欧州の社会変化を追うには税金の使い方をみるべきだと思います。要するに国や自治体が企画するプログラムに長期的視点が窺えます。したがってパブリックな場で何が行われているかを知るのが大切で、その一例がFabbrica del Vapore です。内容は(5)で紹介しましたが、震災後に活動をはじめた石巻工房もここで展示を行ったので、追加して紹介しておきます。自分の手で生活様式を創っていく、という場のコンテクストに石巻工房は完全にマッチしています。この工房のコミュニケーションデザインをやっているSPREAD のLife Stripe も昨年に続いてギャラリーで展覧会を行ってました。

膨大な数の人々(あるいは動物)の1日24時間を21色のカラーで表現するとても面白いコンセプトです。その色の下には、その物語が書いてあります。この上の作品は震災の日のタクシーの運転手の24時間です。赤が労働している時間を表しています。ぼく自身もローカリゼーションマップのワークショップでカラーを使って人の記憶や認識差を確認することをやっているので興味深いです。ただし、これを仮にアート作品として展開していきたいのなら、今のようなプレゼンテーションは違うのではないか?と思いました。サローネというデザインの祭典にアートはまったく別の世界です。アートに相応しいタイミングでやるべきで、しかもギャラリー内にデザイナーとしての実績資料を置かないほうが良いでしょう。ぼくはこのような作品はチューリッヒやそこから北のギャラリーが似合うのではないかと素人ながら思ったのですが、やはり文脈の読み方とその戦略は重要だと思います。せっかく長い年数を経てやってきた仕事なので、ぜひとも「嵌る市場」に辿りつくまでに落し穴に墜ちないで欲しいなと強く思いました。今後、応援したいと思ったプロジェクトです。

 

 

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Category ミラノサローネ2013, ローカリゼーションマップ | Author 安西 洋之