ミラノサローネ2013(5) 若手デザイナーはメーカーに気を遣わなくていい

アウトプットを見ることこそがクリエーターのインサイトをより深く知ることになり、世にいうインサイトリサーチは受け身か批判的な答えしかでてこないという見方がありますが、ぼくもこれには同意です。まったくその意味で多くの作品が出尽くすサローネはインサイトリサーチに絶好の機会です。学生から一流のプロまでがある時期に考えたことが膨大な数で提示されるわけです。

さて、ぼくはこれまで時代の先端的な考え方は、哲学、音楽、アート、テキスタイル、ファッション、雑貨、家具、家電、自動車の順番で伝播しやすいと言ってきました。費用が少なく小さなところから試作品を作るー哲学など頭で考えるだけだ!-ことができるところから、世に新しいアイデアや方向性を示しやすいのです。このとき、「先端」とは「ポスト何々(ポストモダン、ポストインダストリーなど」の思想であったりするわけです。どのクリエイターが優秀かの問題ではなく、表現手段が順番を決めます。しかし、ここに一つの新たな潮流が入ってきました。リバース・イノベーションです。新興国(BOP)にイノベーションが起きて、それが先進国に「逆流」することを、特にグローバル大企業のレベルでみています。

これが「ポスト何々」の到来の順序に錯乱を起こしています。ただ、今年のサローネをみて回っていて感じることが新たにありました。「新興国にある極度の貧困状況で普及する製品とは何かを問い詰めるのだ」と大企業が肩をいからして動くことと、先進国にある困窮状態を中小企業が直視することは、現実的な技術差やコスト差は絶対的にあるにせよ、その距離は思っている以上に急速に小さくなっているのではないか、ということです。上の作品は昨年のフェラーラの地震の瓦礫から取り出してきたマテリアルで犬に見立てた照明器具です。若いデザイナーの遊びだろう、と一蹴できないリアリティがあります。つまり「リバース・イノベーション」とはかなりのんきな物言いではないかと思い始めました。

「使用されなくなった工場内に、こういうワークステーションを創ったらいけるんじゃない?」とスイスのデザイナーが語るのを聞いた時、世界はどこかでスイッチを切り替えたのだ、と思いました。実際にコワーキングスペースで使えそうですーヴェルディ『オテロ』の楽譜がカーテンにプリントされているのが文化的プライドを表現していて必ずしもロー・コスト・デザインとは言えない。これらは全て、以前からじょじょに動いていたDIY的なトレンドが定着してきたことを意味しているのだと思います。エコロジーではなく社会的持続性という言葉に切り替わってから、このムーブメントは一層勢いづいたといって良いでしょう。そして2008年のリーマンショックが決定打でした。

Hans J.Wegner のWishbone Chair の製作現場を公開するのは、以上の文脈とは違い「顔の見える生産者」との流れもありますが、地に足をつけた行為が重んじられるとの観点では同一線上に立っていると言えます。昨年はサローネにおけるオープンソース元年でしたが、その路線のもとに一歩前進しているのが今年です。

これらを前提としたとき、もう一つ別のことを考えました。今こそ、先進国の学生や若手デザイナーの活躍する時期ではないか?と。大きなメーカーの商品開発の担当者には分からない見れない世界がより重要なマーケットになるつつある現在、まさしくそこを強みとする若手クリエーターはもっと思い切り先進国のローコストレイヤーに飛びこむべきではないか?と。若手が高級市場へ提案をすることは稀であり、多くは低価格から中価格帯です。が、ミドルレンジはメーカーに任しておいて、ローレンジに突進して良いのではないかと思います。かつても若手は斬新なアイデアを求められ、それはずっと変わりないのですが、若手が得意とするマーケットは急激に大きくなっているのです。生意気でもいいからメーカーの商品開発担当に「あんたたちには任せておけない!そんな、ごちゃごちゃと商品化のしやすさを言っている場合か?新興国のイノベーションを考えれば、こんなこと何でもない!」と啖呵をきってもいいのではないか。それをしてもおかしくない状況になっていると思います。そういうことを考えながらサテリテをみた時、2つの日本人デザイナーの作品に惹かれました。

 

上は樹脂の作品ですが、デザイナーの江里領馬(えり りょうま)さんは「ぼくはカーブが好きなんですよ」と話します。学校でプロダクトデザインを勉強してから1年グラフィックをやってみたんだけどどうも納得がいかなく、卒業製作のアイデアをカタチにして今回ミラノに持ってきました。壁の近くの床にみえる黒に列は作品の説明です。文章がとても感情豊かで作品もセクシーです。ぼくが「唇を模したBoccaを想起した」というと、彼も作業しながらそれを想ったそうです。「これが就活です!」というバイタリティーある青年です。もう一つはキャンバスの椅子Canvasです。

上のようにまったく二次元の椅子です。しかし、これに座れるのです。

座る瞬間に自分の頭の中が大きな変化を遂げることが自分自身で分かりました。YOY の作品です。これらがぼくの頭にちょうど嵌りました。こういう発想やエネルギーがきっとブレイクスルーを成し遂げるのではないかと期待をもたせてくれました。

 

 

 

 

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Category ミラノサローネ2013 | Author 安西 洋之