内山昭一『昆虫食入門』を読む

のっけから恐縮ですが、ぼくは蛇が大嫌いです。あのニョロニョロ動く様子に背筋がゾッ・・・。学生時代に香港に遊びに行ったとき、友人にヴェトナム料理屋で「ここの蛇はすごく美味いから、絶対おすすめ!」と言われて、恐る恐る食べてみると、友人の言葉のとおりで大感激しました。しかし、その後も生きた蛇を見るのは相変わらず苦手です。

ぼくの奥さんは生きたウナギを買ってきて自分でさばいて蒲焼を作り、「魚に見つめられると包丁がおろせない」なんてヤワイことをいう主婦を小馬鹿にしている節(?)がありますが、ハチが部屋に入ってくると大騒ぎして逃げ回っています。どうも小さい時にハチに刺されて、えらい目にあった恐怖心が蘇ってくるようです。

不思議なものです。人の嫌悪感とは一筋縄で理解できません。

南北アメリカ大陸をクルマで2年間かけて縦断したり、やはりクルマで一年かけてアフリカを旅した友人がいます。ある晩、車内で寝ていると異様な音が聞こえて目を覚ますとライオンの群れに囲まれていたとか、靴をはこうと思ったらサソリがなかにいたとか・・・そういう経験をした人です。その彼と東京の中華料理屋でエビを食べている時、何気なく「昆虫、食べたことあるんでしょうね」と聞くと、「そりゃあ、食べたよ。アフリカなんかでタンパク質をとるには最高だからね」との答え。「人ってね、身体が欲しいと思う時には、目の前にある必要なものを抵抗なく口にできるもんなんだよ」

人の味覚、好みは幼児期に決まるといわれる。食べ物の場合も同じで、八回から十回も摂取を経験すると、私たちはその食物も好きになっていくことが確かめられている。さらに幼少期にどれだけ多くの種類の食物をとったかも重要である。

エビと昆虫は味や歯ごたえは似た食材ながら、昆虫には「脳で拒否」するケースが多く、昆虫食の試食会に親子一緒に参加してもらうと尻ごみをするのは圧倒的に親の方だといいます。子供たちは「美味しいじゃない」とパクパク口にする。サバイバル状況にない大人には頭がついていけない証拠です。

昆虫食に違和感を持たせないようにするには、自分で昆虫をとり、自分で調理させるのが一番いいと言います。とすると、豚の顔がそのまま吊る下がっている豚肉には抵抗を感じることや、鶏を殺すところを実際に目にすると食べる気になれない・・・というのは、どういうことなんでしょう。

国立極地研究所の「南極設営シンポジウム」で筆者が講演の依頼をうけたときの要旨が、昆虫食を考える際に参考になります。まず主宰者から以下のアドバイスを提供されます。

【利点】

・自給自足可能な食材の確保→輸送量の低減

・廃棄物処理→極地研の最重要テーマ

・栄養学的優位性→新鮮な食品の供給

・癒し(多少意見が分かれるところ)

【問題点】

・南極条約による生物持ち込み禁止規定

・乾燥に耐えうるか(室内は暖かいので寒さの懸念はない)

宇宙開発分野で既に昆虫食は検討対象に入っているので、これを冒頭で紹介し、上記の点を説明すると良いだろう、と。筆者は以下のポイントを利点として挙げました。

1)卵で運搬でき、孵化から成虫まで小設備で飼育ができること

2)野菜屑など廃棄物を飼料としてリサイクルがはかれること

3)昆虫一般に栄養学が高くバランスもすぐれていること

4)生鮮食品であること

南極に食用として厳密に管理された昆虫牧場をつくれば可能ではないかと提案した結果、観衆から好評だったようです。さすが好奇心旺盛な冒険家たちです。世界の食料危機を前に、いろいろな機関で昆虫の食への検討が進められていますが、本書には社会イノベーションの問題点と解決策が具体的に述べられており、これから日本の食を海外で普及させていきたいと考えている人達にとっても必読の書と言えます。

最後に。本書でもタイは昆虫がよく食べられている国として紹介されています(日本では長野県)が、昨年、タイの大財閥のトップに「昆虫を食べるという習慣があるようですね」とぼくが話したら、「そんなの、誰が食べるんだろう。変わった人達じゃないの」、とやや不愉快な表情をしながら彼の言葉が返ってきました。寿司が富裕層やインテリ層から人気がでたように、昆虫食もまずは上層から攻めるのがいいのかな、と思った瞬間です。

 

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Category イノベーティブ思考, 本を読む | Author 安西 洋之