ファッションデザイナーは何を伝えるか?(2)

Made in Me Project の小出真人さんは、高校時代、ファッションなんて大嫌いだったそうです。今も「ファッション大好き」人間ではない。しかし、イタリアのファッションデザインスタジオで働くプロです。コロコロとスタイルが変わるファッションに嫌悪感があったからこそ、長く生きるデザインを自分で生み出したいというテーマを追ってきたのです。ファッションデザイナーは何を考えるか?といえば、「真正面の答えにはならないかもしませんが、アート、経済、ファッションプロダクトの3つの要素とどのような関係をもつかではないでしょうか」と小出さんは話します。

「ファッションであれアートであれ、地続きの同一フィールドにあると思います。実際のプロセスはそれぞれに違いますが、アート、経済、プロダクトの3つとの距離感がぼくのファッションコンセプトの方向性を決めていきます。たとえば、アートは直感、新しい概念、哲学などをリードし前衛需要を生み出すと考えるのですが、ファッションが純粋アートと同じポジションになることはほとんどなく、擬似的であることが多いと言えます」と小出さんのコメントは続きます。 擬似的であればこそ、「擬似アート」と「純粋アート」の位置を明確に捉えないといけないでしょう。何が純粋で何が擬似であるか?を。そして、擬似の正当性も。

その次に、2つ目の経済について触れます。「今、最も売れているのは、服ではなくコンピューターだと思うんですよね。かつて一方的に流れを作っていたステータスというのがなくなってきて、個人をベースにした小さな渦みたいなのが沢山あります。そこでファッションの多様化があるし、逆に多彩なグループのなかでの共通化という方向もあります。一方、もちろん大きな物語もまだあって、中国市場のトレンドがファッションの世界を作っていて、ちょっと日本の80年代バブルに流行ったスタイルと似ているところがあります。この経済・社会の2つの大きな流れを、やっぱり意識せざるをえませんよね」

ここまで小出さんの話を伺う限り、そのフィールドに注意するかの強弱はありますが、ファッションデザイナーにしか見えない特別な現実があるわけではないことが分かります。ただ、アートへの視線が熱い。カーデザイナーもアートへの接近力が強い人は少なくないと思いますが、自分の仕事にダイレクトに入れ込む姿勢がある(許される)とは言えないークルマを「疑似アート」と自ら称することは頻度として少ないはずです。

3つ目にプロダクトです。「考慮すべき点として製品としての完成度、機能性、素材、最終形、服の歴史観などが列挙されますが、アート、経済、ファッションプロダクトの3つの要素のバランスを見極め、到着点、向かうべき方向を明確にすること。こういうことになりますね」 ファッションゆえの固有の事情が何であるかがポイントになってきます。

前回の「デザイナーは手を動かせる必要があるか?」については、こう説明します。「服の構造は理解している方がいいと考えていますが、優秀なデザイナーにとって最重要の項目ではないでしょう。構造に縛られない前提で、プロダクトとしての完成度を高めるためのひとつの要素として認識してます。もし心得がなくても、それを補える人材がいればいいものを作ることは可能だと思います。要するに、デザイナーの仕事自体が大きく変わっているのですね」と小出さん。デザインの意味やデザイナーの役割の変化は、他の分野のデザイナーと同じく、ファッションにおいても進行しています。

「仕立て屋の時代、形は顧客と一緒に決めていくものでした。大量生産の時代になると直接見えない顧客のための展開になります。メディアとの融合やグローバリゼーションで、顧客が遠いがゆえに考えなければいけないことが多くでてきて、全体の方向性を明確にするクリエーティブディレクターといった仕事が必要になってきました。アートや経済社会の動向への目配せが重要になったんですね。特に大きなメゾンなどでは、手を動かす十分な人材とは別に、コンセプトを考えるだけに集中するデザイナーを受け入れる体制ができたのです」

デザイナーはこうあるべきだではなく、こういう新しい役割を果たすべきデザイナーに求められる素養との近似値で「従来型デザイナー」への期待が膨張する、あるいは過小評価されるという状況が生じていると考えられます。分業のあり方が異なり、「現場主義への信仰」が篤い日本でより混乱を生みやすいのは、日経ビジネスオンラインの記事に見るごとくです。

「日本は、職人文化でモノを発想することとモノを作ることが一体になっているように感じます。だから服のデザイナーが絵をかけないとびっくりする。縫製やパターンも出来るのが当然と考える。ぼくは、各項目を総合的に考えることが重要だと思っています。だからといって、アイデアを出す段階で具体的に3つの項目を考えアイデアを出すかというとそうでもないのです。それぞれの考えが自分自身の血と肉になっている状態で、直感的にそれらをふまえたアイデアがでてきます。知識は結局、自分自身のものになっていなければ使えません」

自分で獲得したものをものにしていくとはどういう実感を伴うか、がどの分野であれ分かれば次への成長に自信がもてるようになります。スポーツや音楽などの分野でー10代-20代でもかなりの結果を出せるー活躍する人たちの話す内容に説得性があるのは、「獲得の実感」の集積度が高いからだと思います。話が脱線しましたが、ともあれ、アイデアの練り方のパターンを後に引かない程度の敗北感を伴いながらーもちろんちょっとした勝利感も!-作っていくのが良いのでしょう。

「より良いプロダクトを作るためのコミュニケーションが必要だと考えます。それは、作りたいものによって柔軟に変化する工程であっていいと考えます。デザイナーは最初にコンセプトそのものを説明、デザイン画とともにシルエット、素材の特性等を一点一点説明していく。長く一緒にものを作っていく中でその工程がどんどん省略していっても良いものが出来るようになってきます。だからこそ、最初のスタート時点では、より多くのことを話して伝えておくことが大切だと思います」

そう、備えあれば憂いなし、ということです。パタンナー側は次のように待機していてくれるのですから。

岩井梓さんの言葉です。「私たちは、デザイナーが描いたデザイン画のシルエットを忠実に型紙に落とし込み、立体に仕上げます。その際、重要なことは自分自身が引きたいシルエットではなく、デザイナーが求める意図を読み取り形にすることです。その上で、より良いシルエットに仕上がるよう、パターンの観点から素材の特性に配慮した無理のない形に落とし込んでいきます」

 

 

 

 

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Category イノベーティブ思考, ローカリゼーションマップ | Author 安西 洋之