ファッションデザイナー・村田晴信さんに聞く(2)

ファッションデザイナー・村田晴信さんに聞く(1)」の続きです。

サンケイBIZの連載でも村田さんの紹介をし、ミニマリズムが「弱い」とみられると欧州の市場でビジネスとして成功しづらく、力強く見られる必要があると書きました。今回のテーマは、吉岡徳仁の作品やその他のアートや音楽にインスピレーションを得た村田さんが、「自然の偶然性に寄り添う」コンセプトをどのようにコレクションとして表現を昇華させていったかです。彼の説明を聞きましょう。

「静謐の言葉がもつ空気をどのように表現するかに焦点を当てました。それまでに経験してきた静謐を感じる要素を噛み砕き、そこからいくつかのグループにわけマインドマップを作成。そして、洋服としてコレクションに落とし込みました。静謐を具体的なイメージでいえば、水のなかに潜った時のピーンとした感覚、霧のなかの様なもやっとした半透明な冷たい柔らかさ、ガラスのエッジの様な鋭さ…といった具合です」

「次に、例えば形ならどうだろうと考えます。ごちゃごちゃと要素の多いものではなさそうだ。むしろなにもないミニマルなフォルムに静けさを感じる。どうやったら一番そのミニマルさに近づけるだろう?縫い目なくせばいい。だが、それはどうやったら実現できるだろう….このようにして行き着くところを探します。こうして生まれたのが、縫い目をなくし、布の折り目だけで形作られたシリーズです」

経験を言葉に置き換えて整理し、それをもう一度、より幅のある経験の世界に放ちイメージを広げています。それからカタチへの収束を図ります。すなわち、概念と視覚イメージを何度か往復していることになります。

カタチへの収束はシャツだけでなく、ジャケットにも向かいます。素材、色で異なった収束を試みるわけです。その結果、塊がいくつも出来上がっていきます。村田さんは、「マインドマップは、この段階でも使いました」と言います。次に、冒頭で触れたミニマリズムでありながら、力強く見せるとはどういうことか?を説明します。

村田さんは「単にデコレーションのないシンプルな服を作るのではなく、その背後にある意図を感じさせる事で厚みを持たせる。それが”強さ”に繋がるひとつの要素だと思います」と強調します。

言ってみれば、コンセプトの論理構造がいかにしっかりできているか?ということになります。複雑な曲線でも大胆な色使いでもなく、シンプルそうに見える一連の表現にあるロジックの一貫性と柔軟性が、強く見えるのです。セントマーティンズ大学のようなコンセプトメイキングの教育を受けなかった村田さんが、今回のコレクションで「力強い」とイタリア人に評価されたのは、違った麓から登山道を歩き同じ結果を得たとも考えられます。彼が重んじる日本の美学は他の点でも表現されています。下の写真です。

「もしイタリア人がこのドレスを着る、もしくはスタイリングする場合は10中8、9、首元にアクセサリーをつけます。間を埋めようとするのです。が、僕はここではあえてアクセサリーは付けませんでした。間を間として残す考え方です。ヨーロッパの人と違う点でしょうね」と村田さん。しかし、モデルの腰周りには前回紹介したミョウバンの結晶に似た華やかな表現が見てとれます。これがセクシーさとは?という感覚や考え方に対する文化の違いに通じます。

同じく、上の写真もそうです。「フランス人のデザイナーであっても、こういうスタイリングはやらないかもしれません。写真ではなかなかわかりませんが、この中のドレスの生地が水が流れ様で、それを自然に引き立てる為にノーアクセサリーです」というように、あえて飾らない意思を表明しています。これをトータルに表現したいと、村田さんは音楽を含めショーの構成をプランしたことが、動画(1分20秒から)で発表風景を見ると分かります。

ヨーロッパの市場をとらえるには、ブランドとは記憶の痕跡の集積であると認識をすべきで、コンセプトとは建築構造的である必要があると何度もここで書いています。日本文化は説明的でないと投げ出すのではなく、日本文化の説明的ではない趣旨を可視化するためのストラクチャーを作っていかないといけません。余白の美はバウハウスにもあるなら、それの差異を説明することで一歩前に出ることができます。

村田さんは、これからのデザイナーですが、とても思索型であることが分かります。吉岡徳仁の作品をみて、高校時代の化学の先生に相談したエピソードなど印象深いです。たまたま先生と近しかったのかもしれませんが、直観的に見える表現にきわめてロジカルな裏付けをとっている点にポテンシャリティを感じます。直観とロジックの両方を行き来しながら、最終的なアウトップットを真ん中で提示して勝負することです。

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Category イノベーティブ思考, ミラノサローネ2012, ローカリゼーションマップ | Author 安西 洋之