一瞬にして世界のメカニズムを知る

ミラノの運河沿いにある L’HUB の店内を眺め、数分とせず、「あっ、世界のすべてが、ここで分かるんだ!」と思いました。ここは一言でいえば、FabLabテキスタイル版です。生地の染色、プリント、縫製までを一貫して行える工房です。ちょっと縫製の心得のある人は型紙-もちろん自分のサイズーと生地だけここで買って、自宅でスカートを仕上げることも可能です。その心得がなければ、レッスン料を払い教えを乞うことができます。下のようなワークショップ風景をみれば、どこにでもある自分だけの服を楽しみたい主婦の手芸教室だと思うでしょう。それは間違いではありません。子供向けのコースもあると聞けば、「なるほど、子供にモノを作る面白さを教えるわけね」と納得しやすいです。

が、一歩奥に入り、古びたプリントの型が棚に重ねてあるのをみると「只者ではない!」とピンときます。これはズッキコレクションの一部で、18世紀から20世紀初頭に至るまで欧州各地で使われた5万個以上の手製プリントの型なのです。大量生産時代に入る前の型が実際に使える状態になっていて、自然染色の材料もそろっていますから、思いのままに生地で「遊ぶ」ことができます。しかも、そこかしこにある台から小物のモノ掛けに至るまで、すべてテキスタイルやファッション関連の生産施設で使用されたものという徹底ぶりです。そして、ここの主宰者がイタリアの大手テキスタイルメーカー・ズッキのオーナーファミリーの人間で、ビジネススクールのプレジデントであり、イノベーションが専門であると知ると、この工房の「野心」が想像できるようになります。

生地ストックには困りません。大量生産メーカーでは使いきれなくなった捨てる寸前の端切れ扱いの生地であっても、100着分くらいは余裕です。これを一人一人がユニークな服を作ることに使えば100人が喜べるわけです。200年前のプリントのデザインを実際に活用することで、200年前の繊維産業に従事する気持ちを推し量ることができるかもしれません。また、それによって1950年代の由緒あるホテルで使われていたテーブルクロスは蘇ります。色を工業製品に頼ることなく植物から得ようとすると、インドやエクアドルの人を頼ることになります。彼らの収入になり感謝されるかもしれません。が、その独特の色をそれなりの商業ベースにのせようとするとキャパが追い付かず一挙に破綻します。とするならば、そういう技術をもった世界各地の人たちがネットワークをもてばどうなるだろうか?という方向に頭がいきます。

冒頭で「世界のすべて」と表現したのは大げさですが、この工房にいると、200-300年の時の流れ、世界を巡るビジネスの勢い、その勢いのなかで右往左往せざるを得ない人々の事情と気持ちが手に取るように、いや、まさしく物理的に手に取って分かってくるのです。それはなにも低迷しがちなテキスタイルやファッション産業の再生のためだけでなく、これらの産業にいない人たちも、自ら手にしている生地を眺めながら、大きくは自分のフィールドの変革やクリエイティビティへのヒントをえやすい条件がここにあります。田舎でろくろをまわして陶器を作るのもいいですが、これほどには小さな創造性から大きな創造性へのマップが描きずらいのが普通ではないかと思います。

ボタンやジッパーだけでなく、服を作るに必要なこんな小さな道具の数々まで売っています。そして左には、受け取った名刺が突き刺さっています。これらをかけてあるのも繊維を作るに使用されるものです。これをみれば「サステナビリティ」や狭義から広義に至る「デザイン」という言葉の意味を実感するに違いありません。

このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをYahoo!ブックマークに追加このエントリをFC2ブックマークに追加このエントリをNifty Clipに追加このエントリをPOOKMARK. Airlinesに追加このエントリをBuzzurl(バザール)に追加このエントリをChoixに追加このエントリをnewsingに追加

Category イノベーティブ思考, ミラノサローネ2012, ローカリゼーションマップ | Author 安西 洋之