ファッションデザイナー・村田晴信さんに聞く(1)

「セント・マーティンズやアントワープの卒業生は誰が着れるの?というアーティスティックな服をデザインする人が多いですが、ミラノのマランゴーニはもっとマーケット寄りです。各メーカーの戦略を読み取ることも重視されます。学生も服を自分で縫える人が多いですね」と村田晴信さんは話します。彼は東京のエスモードで3年間ファッションデザインを学び、神戸コレクションで特選。その結果、イタリア留学の切符を手にしてミラノにあるファッションデザインの学校、マランゴーニのマスターに1年通いました。この3月、2012年秋冬ミラノコレクションでデビューし、若手登竜門のイタリアファッション協会の「ネクストジェネレーション」で入賞した23歳の青年です。下は彼の作品です。

セント・マーティンズではコンセプト創造のプロセスが非常に重視されることを「セント・マーティンズ大学について語ろう」で紹介しましたが、村田さんがマランゴーニで要求されたのは、どこのメーカーがどういうラインを出しているか?出すか?に関する分析です。「マスターだからですか?その下の学年では?」と聞くと、「どうも、そうじゃないですねえ。」との返事が返ってきます。縫う方もマランゴーニの学生はそれなりにできるけど、エスモードほどでなく、セント・マーティンズよりは自分でやる人が多い、という印象だそうです。

「じゃあ、村田さんのコンセプトはどういう過程で生まれ、それをどういうカタチでとどめておきますか?」との質問には、「ぼくのコンセプトブックはエスモード時代に創ったもので、一冊です。いくつかのカテゴリーに分けることはせず、その後の発想をどんどん入れ込んでいきます。それもスケッチブックではなく、デジタル上にあります」とのコメント。セント・マーティンズで学んだイラストレーターは、コンセプトをいくつかに分類し、リアルなものはそのままリアルに保存していました。ずいぶんと方法が違います。それでは、村田さんのコンセプト作りの一端を紹介しましょう。

上は2008年に開催された吉岡徳仁の展覧会「second nature展」で村田さんがみた椅子です。「静謐な空間インスタレーションや結晶が自然に成長する過程をそのままデザインとして落とし込んだ結晶のイス。自然の偶然性を利用したデザインに惹かれ、何故それに惹かれるのか考えました」と語ります。

「その頃に読んでいた本ー深澤直人の本だったと思いますがーに、ある日本庭園師が招待した客人に『あの石の据え方が非常によろしい』と言われるや、庭師はすぐにその石を庭園から排除した、というエピソードが紹介されていました。人の知覚を超えたさりげない美意識、より自然の光景を作り出す事こそ美、という考え方に基づいています。ヨーロッパ、例えばベルサイユ宮殿の左右対称の庭と比較したとき、ずいぶんと違うなあと思います。この考え方が日本人としてのぼくの根底にある文化や美意識であり、そのため、吉岡徳仁の自然の偶発性に寄り添うデザインに惹かれたのだと思い至りました」

彼の話が続きます。「自然の静けさと同時に内包する力強さ、日本人としての文化と美意識というものを意識するようになったのはそのあたりからです。偶然性の服への応用を考えはじめ、そこで一つの実験をしました。水槽にミョウバンの飽和水溶液をつくり、それをスカートの上で成長させてみたのが下の写真です」 吉岡徳仁の作品が何でできているか分からなかったので、高校時代の化学の先生に意見を聞いてみたら、「たぶん、ミョウバンを使っているのではないか?」との意見だったのでミョウバンを試みたと言います。

その次に彼が行ったのは、これにガラスを粉砕して角をとったものを加えることでした。下のスカートです。偶発的に成長した結晶のモチーフを上と同じ型の別のスカートの上で再現させ、ファッションアイテムとして昇華させるとの試みです。

このように他の分野の作品に刺激をうけた自分を振り返りながら、自分のフィールドへの適用を試みていくことは、どの分野であっても必要なプロセスです。ただ、それをやりやすいかどうか、という違いはあります。プロトを作るのに時間やコストがかかる分野であると、どうしても「彼らは楽に試作ができていいよなあ」というやっかみでーやや自負もこめてー終わりがちです。そこに実は、エッセンスの喪失と適用範囲の設定のミスがあります。要するに、刺激を受けた対象を十分にかみ砕けていない。しかも、自分の分野についても因数分解ができていない・・・という事実があるでしょう。

この村田さんの試みをみると、ファッションがファッションである理由が見えてくるでしょう。どこまで読み込めるか?が大切なのです。次は、彼がミラノコレクションで発表した作品に話題を移します。

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Category イノベーティブ思考, ミラノサローネ2012, ローカリゼーションマップ | Author 安西 洋之