セント・マーティンズ大学について語ろう(1)

「同じモノを目の前に、プロダクト、グラフィック、ファッションのデザイナーが素描するとするでしょう。そうすると、かなりそれぞれのフィールドの違いが出てくるんですよね。プロダクトでは輪郭線がはっきりするけれど、ファッションではぼやける部分を残すんです。基本、動きのある人体を相手にしているんから、どうしてもはっきりしないラインは『はっきりしない』と表現するしかない習慣が強いわけですよ。もちろん、そういうことがプロダクトのデザイナーには許されないので、何でも(私からみると)無理に『はっきり』させる傾向があると思いますね」と目の前のファッションイラストレーターが語ります。ヨーロッパのファッション雑誌にイラストを描いている彼女は、ファッションの世界とプロダクトのそれを分ける、もう一つのヒントを提示してくれます。

「私たちは、できるできないかは別にして、アイデアをどんどん出していくトレーニングを受けてきましたが、プロダクトは構造や生産性を最初から考えながらアイデアを出すように道案内されてきていますよね。それは対象が違うから当然の帰結ですが・・・」と続けますが、この話しを聞きながら、ぼくはあるエピソードを思い出します。

子供が3-4歳のころ、子供の身体に合わせた服を母親と子供で一緒に紙で作るというワークショップがありました。イタリア人のママたちは、自分のイメージする立体を最初に考えると、それをベースに平面に置き換えることなしに、紙細工をはじめます。つまり、スムーズなカーブを折り目できれいに実現することに頭を悩まして作業が止まるのではなく、ややヘンテコなカーブであろうと、まずは自分のイメージに近いカタチにしあげるーとすると、折り目ではなく2枚の紙をホチキスで無粋につなぐようなことが多くなるー。それは張りぼて的ではありますが、自分のイメージを直線的に表現しようとする意思が強く見え、結果的に「ディテールはさておき、欲しいイメージが分かる」ことになります。これがディテールで手が止まりがちな、日本のママとちょっと違うところなんではないかと想像しました。

言うまでもなく、プロのファッションデザイナーやイラストレーターとど素人を比較するのは恐れ多いのですが、どうもファッションフィールドの人たちとプロダクトデザイナーの間にある差も相似の関係ではないかという印象をもちます。数々の厳しい制約条件のあるところでコンセプトアイデアを練っていくのが仕事で、ファッションの人たちも制約条件のなかで作業するわけですが、条件の質の違いが両者の発想の枠組みを規定しており、特にプロダクトデザインのイノベーションを考えたときファッション領域にネタがありそうです。そういうわけで、これからテキスタイルやファッションの話題も、このブログのエントリーに入れていこうと思います。

で、冒頭の女性が卒業したロンドンにあるセント・マーティンズ大学で何を学んだか?から紹介していきます。ジョン・ガリア―ノ、アレキサンダー・マックイーン、ステラ・マッカートニーのような卒業生の名前が綺羅星のごとく並び、ファッションビジネスを思いのままに操っている(ようにみえる)LVMHの主要ポストは、同大学の出身者によって占められています。彼女によれば、「新しいコンセプトは、セント・マーティンズ大学かベルギーのアントワープ大学の出身者から生まれていることが多く、フランスやイタリアのファッション教育は一時代古く見えてしまう」そうです。「RCAは?」と聞くと、「あそこのファッションは品が良いんだけど、ビジネスでセント・マーティンズほどの勢いはない」との言葉が返ってきます。

それでは、セント・マーティンズの教育を知らないわけにはいかなくなります。次回は、この大学について書きます。
+1: セントマーティンズの正式名称はCentral Saint Marins College of Artで現在はロンドン芸術大学University of the Arts Londonという大学機関の中の、ひとつのカレッジ。一般的にはCSMと略す。

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Category イノベーティブ思考, ミラノサローネ2012, ローカリゼーションマップ | Author 安西 洋之