藤井敏彦『ヨーロッパのCSRと日本のCSR』を読む

ヨーロッパの財政危機を巡る日本国内でのコメントや意見を耳するたびに、相変わらずEU認識にずれがあるなあと思います。まるで経済的な動機でEUが成立したかのような前提で論議されていることが非常に多いのです。EUはエリートの産物であるがゆえに経済的ロジックに嵌るはずがなく、統合の考え方は地に落ちていくのが当然であろうとでも言いかねない勢いです。言うまでもなく統合の出発点にあるのは、何世紀にも渡っていったいどれだけの人たちが終わりのない復讐に命を落としたのか? 戦いで流してきた血を止めるしか生きる道はないとの覚悟がすべての根底にあります。ヨーロッパ統合のコンセプトが破綻しないための経済的な括りが共通通貨に表現されていると考えるのが妥当でしょう。

何か前向きなことが生じると一斉にヨーロッパの将来を語りはじめ、少しでも暗部が露呈するとすべてが終わりのようなシナリオに夢中になりすぎる。短い期間をとっても、2007年のリスボン条約締結以降の日本の書店のヨーロッパ関係の本棚を観察すれば、そのあたりの節操のなさがよく分かります。ヨーロッパが市場として規模が大きいかどうかではなくー北米より大きいが言語が細分化されて面倒との見方をする企業が多いー、「こういう考え方をしたらどうだろう」との提案をするヨーロッパの動向を定点観測しておく意味がよく理解されていない。すなわちは世界の思潮を見極める大きな要因をフォローせず、世界各地で起こる一現象に振り回される確率が増えるという悪循環に陥っています。世界を動かすメカニズムのキーの一つがヨーロッパにあるのに見過ごしているといえます。新興国の台頭で米国も含む西洋社会は凋落の傾向にあってでも、です。

一例がここにあります。「21世紀はモラルの時代になる」と一部の人たちの間で前世紀から語られてきました。明示的なルールではないレイヤーでの勝負とは言わない「紳士的な振る舞いでの「勝負」」が重要視されるだろう、と。実は、それが目に見えない机上の理想論ではなく、現実の世界に浸透しはじめているのがCSR (Corporate Social Responsibility =企業の社会的責任)ということになります。

CSR とは、社会面及び環境面の考慮を自主的に業務に統合することである。それは、法的要請や契約上の業務を上回るものである。CSRは法律上、契約上の要請以上のことを行うことである。CSRは法律や契約に置き換わるものでも、また、法律や契約を避けるためのものでもない。

これがヨーロッパの発想です。企業幹部が不祥事で頭を下げるたびに話題になる法律の遵守がCSRではなく、明示できない問題への対処がCSRのテーマになるのです。グローバルに展開するサプライチェーンによって、自国では維持する価値を他国では踏みにじるー本社のある国での人権は途上国にあるサプライヤーでも同じく尊重されないといけないーということが生じないようにするにはどうすればよいかを考えるのです。

ヨーロッパは持続可能な発展を環境保護と経済発展の両立とは考えない。環境保護と社会的一体性の維持とそして経済発展の3つが同時に成り立つことがヨーロッパの言う持続可能な発展である。

環境と経済だけが表に出やすい米国や日本との違いは、この社会問題を同等に扱うとの定義にヨーロッパの意思が表れています。EUのRoHS指令(電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する指令)はヨーロッパを含む世界中の産業界に喧噪を引き起こしましたがCSRの狙いを的確に読み取れば、議論のレベルをどこにもっていかないといけないかが明らかになります。本書には、「CSRマネジメント規格の議論の位置づけの日欧のちがい」という説明があります。

ヨーロッパ

社会問題への危機感→企業の責任についての議論→CSRという概念構築→経営に取り込む方策の模索→規格の必要性の有無についての議論

日本

ISOでの検討開始→CSRへの関心→過去のISOマネジメント規格に関する苦い経験→ISO規格とCSRへの警戒感

日本でのISOに関する苦い経験は環境管理システムを定めた14001や品質規格の9000を指していますが、上の経緯を見ただけでも、考え方の道筋のありかを見定めて態度を決めないと大気圏外に飛ばされてしまう可能性があることに気づくでしょう。財政問題しかりです。

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Category 『ヨーロッパの目 日本の目』, 本を読む | Author 安西 洋之