梅原真『ニッポンの風景をつくりなおせ』を読む
Date:10/8/22
製造業を「ものづくり」という言葉で括ったことが、良かったのか、悪かったのか。製造業が人件費競争によって全てが決まるようなことがあまりにざっくりと言われます。実際には装置産業のように人件費比率の低いジャンルでさえ、一緒くたにされます。中国に日本の製造業が移転はじめた頃、人件費競争の罠に嵌ったなと思いました。人件費がメインファクターである限り、工場は常に人件費の低いところに流れます。しかも、人件費の安さとは、為替の問題と表裏一体です。そのような曖昧といえば曖昧な要因で成立しているメカニズムに自らの運命を積極的に委ねる危険性に覚悟をもつ気なのか・・・大いに危惧がありました。案の定、産業によりますが、今、生産は西に移りつつあります。
製造業を「ものづくり」という言葉で括ったことが、良かったのか、悪かったのか。日本の丁寧な作りこみや繊細な表現、いわば改善に改善を積み重ね磨きかけるプロセスの評価を自らの分析の結果、表看板としようとしたがゆえに、変に自らの首を絞めることになっていないだろうか、という気がします。「ものづくり」なぞというやわい言葉を言わずに、製造業と味気なく言い放つ必要が実はあったのではないか、とも思います。「ものづくり」という言葉を口にするようになって、いよいよ逆に製造業は弱体化したのではないか、と。言葉だけの問題ではないが、そこに何らかの「精神性依存症」があるような感じがしてしまうのです。
「ものづくり」だけでは将来には見込みがなく、サービス業に力を入れないといけないと盛んにいわれます。大いに結構。製造業以外でも金稼ぎをすべきでしょう。ただ、「ものづくり」という限定された世界を与えられてしまった人々は、もののコンセプトやものを売るアイデアを考えるのは苦手だという意識を無駄に植え付けられてしまったところがあります。確かにまったくものを介さないサービスもありますが、多くのサービスはものと何らかの関係があって成立しています。だから、もっと社会全体に目が行かないといけない。サービス業と製造業がコンビで考えられないといけないというわけです。
梅原真は高知に住むグラフィックデザイナー。しかし、その仕事はビジネスプロデューサー的。特徴は、高知県の一次産業を強くすることに力を入れていることです。
一次産業がうまくいっていないなぁ、と思い始めてから世の中はおかしくなってきた。では、ボクに何が出切るのか?一次産業にDesign をかけあわせる
新しい価値が生まれる
新しい価値は経済となる
経済がうまくいけばその一次産業は生きのびる
そして風景が残る。1987年の夏。カツオ一本釣り漁師が訪ねてきた。このままでは船がつぶれるといった。一次産業にDesign をかけあわせたら、やがてその商品は年商20億円の産業となった。土佐に一つの風景が残った。「一次産業XDesign=風景」
この方程式でニッポンの風景を残そう。そう考えるようになりました。
本書の書き出しです。この本で紹介されている商品を見る限り、地場産業育成でよくみるようなデザインのしすぎがなく、基本的には「何を伝えるか?」のコミュニケーションの秀逸性に目がひかれます。カツオを「漁師が釣って、漁師が焼いた」というコピーで売る。一般の人は、漁師が器用なコピーなぞ考えないだろうと思っている。そこにすっぽり嵌る強いメッセージを出しています。これが20億円の商売に急成長しました。この漁師はある事件で土佐を追われますが、焼津で鰹タタキで50億円のビジネスを作ります。それにも梅原はデザインする。
こういうストーリーを読みながら、ぼくは世界観の狭い「ものづくり」が日本の生き方を隘路に招いているなぁと思います。製造業は第二次産業。梅原の方程式に似せれば、「二次産業X Culture = 世界における日本」ではないかなと思います。ここでいう Culture がコンテクストを作るのです。もちろん、日本の精神性に溺れた Culture ではありません。要注意!









[...] This post was mentioned on Twitter by 宇都宮茂(s.utsunomiya), 安西洋之, 宇都宮茂(s.utsunomiya), 安西洋之, Takashi_Onishi and others. Takashi_Onishi said: 確かに作ったものを使ってもらうにはサービスが必須です [...]
「製造業を「ものづくり」という言葉で括ったことが、良かったのか、悪かったのか。」これは、ワタシ自身もずっと感じてきているところです。ものづくり研究のある先生は、日本の工場の中で詳細なデータをとり続け、結論として、「日本企業は血のにじむような努力をしているのだから何も悪くない。」「日本企業が苦戦している理由は財務省が為替の切り上げを許しているからだ。」と報告されていました。中国企業との違いを「つくりこみの優位」と定義して、その優位がある分野をのばせ、と言いましたが、その結果無駄な固定費を切り落として、深い社会分業でコストを下げる、世界の潮流から取り残される10年となりました。中国の製品の価格が安いのは、単純に人件費が安いだけでは、ありません。深い社会分業が価格を引き下げ市場を広く拡大する、という流れで、自国の市場と膨大な発展途上国の市場を席巻しています。この流れに、まったく島国は取り残された感じです。最近ようやく日本企業もこの流れに乗り始めました。そして、この流れの中で、よいポジショニングを取る位置はまだ残ってますが、間に合うでしょうか。