渡部千春『日本ブランドが世界を巡る』を読む

ある市場を狙うときに唯一の手法があるわけではないことと同じく、ローカリゼーションも一様であるはずがない。同じ市場に同じカテゴリーの商品で攻め入るに、その二つが同じ手法をとるわけがない。それなのに、こういう国にこういう商品を投入するときは、こういうパッケージでこういう表現をしないといけない・・・と思い勝ちである。しかし、実際はそうではない。それぞれに個々の事情があり、個々のポジションがあり、同じカテゴリーであっても対抗馬と正反対の手法をとるほうが成功に近いかもしれない。その意味で、ローカリゼーションの教科書は世界観の一部の事例を示すだけといえる。しかし、その断片の集積で見える世界を知ることは大切だ・・・というのが、本書を読んでの感想です。のっけから結論的ですが、これしかない。

スーパーで売っている日常生活で使うモノや食べるもの。この日本ブランドが世界の各国市場でどうパッケージされているのか?を追った本です。日清食品のチキンラーメンのシズル写真の場合・・・・

チキンラーメンでのハードルは「卵」の扱いだ。食品としての生卵に抵抗がないのは日本くらい、と言われる。日本のシズル写真の生々しい卵が、外国向け商品の場合、炒り卵やゆで卵、鶏肉に置き換えられている。また、スープの量、具と麺の割合などを見ると、それぞれの国なりの「チキンフレーバー麺」のイメージの違いが分かる。

出前一丁では・・・

「日本はつゆだくな感じが良いとされるが、香港の商品は麺を浮き上がらせ、量が多いイメージ。具材は炒めたものを載せる場合が多く、整然と具材が並ぶ日本風は冷たい感じがすると思われてきた。だが最近では、若い人は日本をそのまま受け入れる許容力があり・・・・」

という変化がみられます。カルビーの「かっぱえびせん」は、「米国ではえびの絵をグロテスクに感じる人がいるのでえびは描かれていない」「1970年代の発売当初は各地にあわせてローカライズをしてきたが、1990年代後半からブランド統一を図るため日本オリジナルに近いものが出ている」。しかし、米国は既にえびなしでイメージができてしまっているので、そのままのパッケージを継続している、というわけです。これらの例をみても、市場の文化が発信国のそれに近づいてくる場合、市場があまりに強固になり過ぎたためにあえて変化のリスクをとらない場合、二つの方向があります

東京の飲食店がわざわざアジアの猥雑なムードを出すことに努めるのは、アジアへの親近感より、あまりに暗部を消去しすぎた都市開発の反動ではないかと思いますが、香港の若い人たちが出前一丁にあえて渾然とした具材イメージを求める日がくるかもしれません。つまり、時間軸と相対的位置が入らない指標が意味することはあまりないのです。和風を強調するほうが外国製競合品が多い時には有利になることがありますがーヱスビーのチューブ入りわさびー、サントリーの伊右衛門の米国市場戦略については次のような解説があります。

日本の伊右衛門は竹筒形のPETボトルが評判を呼び、2004年の発売当初、あまりのヒットに生産が追いつかなくなったという逸話をもつ。しかしこの竹筒形というデザイン言語は日本でしか通用しない。特に米国では特殊な消費者心理が働くと(サントリーデザイン部アートディレクター)水口氏は説明する。

「竹のような形から凛としたイメージを喚起させる手法は米国では通用しない。恐らく本物感は感じるが、凛としたイメージというところまでは伝わらない。米国にはさまざまな海外文化を取り入れる吸収力があるが、自分たちの生活に合うように取り入れるため、十分なカスタマイズが必要。また、日本茶の本格的な雰囲気を押し付けてしまえば、顧客は逃げてしまう。例えば、いかにも和風な筆文字は陳腐だと見なされ、尊敬されない。漢字が多すぎればアジア圏向けで、自分たち向けに作られたものとは感じてもらえない」

日本茶という新しいジャンルゆえに紅茶のイメージを援用するなどし、相手文化で拒否反応が生じないことに注力するコメントです。このタイプの「警告」は、ぼくもヨーロッパ市場をベースに何度も書きました。これがローカリゼーションの最右翼にあり、香港における出前一丁の受容が最左翼としてあるのでしょう。どちらも真実であることを認識することが重要で、どちらか一方に楽観視したり悲観しすぎない文化的素養が必要です。「もう、日本のファンが沢山育っているんだから、昔と違うんだから」というなら、韓国や中国のメーカーがその近いところまで到達しつつあることに危機感を覚えないといけないし、「日本はやっぱりだめなんだ。二番手も危ういね」というなら、徹底して相手の懐に入る術をもっともっと駆使しないといけない・・・ということだろうと思います。

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Category セミナー・講演など, ローカリゼーションマップ, 本を読む | Author 安西 洋之

Comment

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by TetsutaroNakabayashi and chiharu watabe, 安西洋之. 安西洋之 said: 先週末、#lmap の勉強会に参加してくれた @chiharuwatabe さんの「日本ブランドが世界を巡る」を読んで [...]

  2. 渡部千春 

    著者の渡部千春です。素晴らしい感想をいただき本当にありがとうございます。
    日本国内でも、こうすれば売れる、という絶対的な答えがないように、海外でも「この国だったらこうすれば売れる」という答えがあるわけではないと思います。
    安西さんのおっしゃる通りで、商品それぞれの事情や内容やメーカーの意図など、様々な背景があって、ものができています。
    また一慨に「売れている」という言い方も、均一的に言えない国もたくさんあります。貧富の差が激しい国で、富裕層にだけ売れていることもありますし、アジア系移民が多い国では、そのコミュニティ内で売れている数もバカになりません。キャラクターやマンガ文化のように、国籍は違っても、確実にある程度の数がある層に売れている場合もあります。
    また、爆発的に売れる、より、売っている、ことのほうが重要な気がします。車のように大々的にPRを打たない小さい商材の場合は特に、認識されるまでに時間が掛かりますから、少量でもずっと売っていくことが信頼感や安心感にも繋がるように思います。むろんそのための、短期間に絞ったテスト的な販売もあると思います。本当に様々ですね。
    元になっている『日経デザイン』の連載では、1回1つの商品およびブランドに絞って、この場合はこういう方法、ということを出しています。書籍としてまとめた際に、ある程度の傾向は見えますが、それでもやはり、事例集、です。
    メーカーの方やデザイナーの方には参考にしていただければ幸いですが、この本ではこう書いてあるけど、実際どうなの?と現場に足を運んでいただきたいと思います。
    本誌ではまだ連載継続中ですが、毎回色んな方法があり、驚くことが多いです。やっていて楽しい連載ですので、読者の方にも私が感じている「楽しさ」を共有していただければ幸いです。

  3. 安西洋之 

    渡部さん

    ぼくは前提条件のない話ほど空しく混乱を招くものはないと思っています。日本のアニメや漫画が海外で受けるというのは、どういう市場でどのレイヤーでどの程度の規模で経済が動くことを指しているのか?を明確にしてはじめて語り合えるものです。

    よって、渡部さんが書かれた本は、ディテールとして読まれ、トータル理解の一助として読まれるという二面性をもつことが必要で、コメントされた内容はまったくその通りだと思います。

    ローカリゼーションマップ研究会の立場も同じです。今後ともよろしくお願いします。

    ご丁寧なコメントありがとうございました。