『世界を変えるデザイン展』最終日

六本木ミッドタウンのデザインハブ。『世界を変えるデザイン展』最終日のカンフェランス。「日本の製造業は先進国市場で負けが続いているが、その大きな要因は全体のコンテクストへの理解欠如だと思う。今回、この会場やアクシスでの展覧会をみると、盛んに現地のコンテクストを読み込む重要性を語っている。一体、先進国でできなかったことが、貧困国で可能だとお考えなのか?」と、やや「意地悪な質問ですが・・・」と前口上をおいてパネラーのメーカーや経済産業省の方にぼくは質問しました。

カンフェランスが終わって2時間くらいしてTwitterを覗き#sekai_design の一連の投稿をみて以下、@sekai_designが書いた、リコー総合経営企画室の早川さんのコメントがかなりRTされているのに気づきました。

日本の企業はまだまだ負けていないと感じている。コピー機もまだ強い。だがもう年齢が上の層がやってはいけない。柔軟性が足りないというのと、何より長期的な視点で継続して取り組むことが重要。もう十年後にいなくなる社員がやるのではダメだ。

RTされた内容はどちらに重点があったのだろうとまず思いました。日本メーカーがまだ負けていないという部分か、世代交代の必要性を強調しているパートか?会場は若年層が主流だったので後半をメッセージとして伝えたかったのだろうとは想像しながら、「元気になれる言葉が欲しい」という願望が多いのかなとも思いましたーしかし、限界を告白している限り「一時的元気」でしかありません。もちろん、ぼくは日本の製造業の全体的な傾向を指摘して全ての企業が敗退しているとは言っていないのですが、ある例外で全体的傾向を否定する思考がなければいいなと次に思いました。杞憂であればいいと願っています。

コンテクスト理解は、象徴的事例を言うならば、海外の日本料理市場をとっている(日本人経営ではない)中国人経営の日本料理屋に勝つことです。拙著『ヨーロッパの目 日本の目ー文化のリアリティを読み解く』にも書いたことですが、世界の人が「日本料理ってこうだよね」と抱くメンタルモデルの大枠にマッチする日本料理を提供するビジネスセンスが必要です。日本料理とは日本人の舌を満足させるものであるという定義から脱する頭の切り替えがないといけません。こういう発想の転換ができないところで、貧困国へのデザインとは何か?を問うのはビジネス的に厳しいところがあります。なぜなら、コンテクストを理解するとは、状況の前提条件を理解することに他ならず、ごく一部の極小事例と全体的傾向にある事例の区別を明確に示すことができることを言うからです。

『世界を変えるデザイン展』は一ヶ月の開催で、デザインハブとアクシスで合計1万9千人の入場者があったようです。特徴はデザイン関係者の数より、社会意識・参加をメインにおく「ソーシャル系」の人たちが多かったとこのことで、だからかTwitterに「デザインとはカタチや色の話ではないと知った」というコメントもRTされています。この展覧会とカンフェランスで悩ましいと思ったのは、デザインの定義です。狭義のデザインと広義のデザインがあまりに混沌としておりーGKの田中さんは広義をプレゼンで語っていましたがー、文化人類学や社会学の文化の定義である「人間の内面的外面的行為の全て」(designs for life) で使われるデザインと意匠を示すデザインとの間にある大きな空白をどう埋めているのかが分かりにくく、デザインとい言葉を意識的に使ったことのない人たちには気持ちよい刺激ではありながら、結局、それはデザイン=モノという置き換えに留まったようにも思えました。

ただ、このモノを介する世界観理解に関しては、ぼくもローカリゼーションマップ研究会のテーマとしているように、肯定的におさえています。「加藤周一『日本文化における時間と空間』を読む」で建築や都市構造が如何に文化理解の手助けになるかを書いていますが、モノのあり方は、多くの人に文化ー抽象思考の表現ーを自ずと説明してくれます。ある意味、『世界を変えるデザイン展』は、そういった基本的理解がこの日本で忘れられていたことを認識させてくれたとも言えます。ですから、考えようによっては、ローカリゼーションマップ研究会の活動をしていくにあたっての風穴を開けてくれたところもあります。文化理解にプロダクトデザインは有効であるという、あまりに当たり前のことを大きな風になって伝えてくれたと。昨年11月、スイスのムスリムのミナレット建設禁止の国民投票が通過したことで、ヨーロッパにおける信教の自由の範囲が明らかになりましたが、この事例から知るべき動向が大切なように、モノや建築表現の文化読解能力の向上を図る教育は日本において力を注ぐべき分野の一つかもしれない・・・・そういうことを改めて思いました。

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Category セミナー・講演など, 本を読む | Author 安西 洋之

Comment

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by Ai Iishi, 安西洋之. 安西洋之 said: 『世界を変えるデザイン展』が結果的果たした一番大きな成果は、貧困問題への取り組みではなく、モノを通じて文化を理解 [...]

  2. tommycoccinella 

    前半部分、猛烈に同感です…。
    全部が全部ではないですが、
    「こんだけすごいことができるんだぞ、新しい機能満載したぞ。
    日本製ってすごいだろ!
    CoolJapan、バンザイ!」
    という感じが、外から見ているとしないわけでもないなと、
    ちょっと思っていたことを思い出しました。
    否定型の創造もあれば、
    全体の文脈にそいながらの創造もあるのですよね。などなど。

  3. 安西洋之 

    人はそれぞれ喜ぶところが違いますね。その全体像が把握できないまま、あるディテールを強調したところで、「あっ、そう」という返事が返ってくるだけ。その全体像がある地域で掴め、ある地域で掴めるというのは偶然を期待するようなものなんですね。