セント・パトリックスデーのアイルランドな日々

今の日本の閉塞感の原因がどこにあるかということをあまり突きつめても仕方がないだろうとは思っていますが、今週、なんとなく気になることがありました。木曜日、国際文化会館で英国のシンク・タンクDEMOSアソシエイトであるジョン・ホールデンが「国境を越える文化の価値ーひとりひとりが造る『文化外交』」というタイトルの講演会を行いました。「政治が文化を造るのではなく、文化が政治を造る」という表現はぼくの頭にもフィットします。エリートのハイカルチャーの時代ではない、文化に全体的な合意は難しいということはぼくも同感です。キャリア上仕方がないことでしょうが、コマーシャルカルチャーに対する切り口と深さが不足していて、これが文化を相変わらず経済活動から孤立させる遠因になっているのではないかという印象をもちました。

ここで気になったのは、「文化活動の評価はいかなるものか?」という会場からの質問です。どうも「評価」という言葉がどこへいってもキーになっています。しかし、ある対象を孤立化させての「評価」ということ自身が自らを袋小路に追いやっていることをあまり気づいていないのではないか?とふと思いました。そして、それと同じことを翌日も感じたのです。国際フォーラムでのアイルランドのグリーンテクノロジーに関するセミナー(冒頭の写真)でも、スマートグリッドの「評価」とプロモーションする場合の経済的モチベーションが会場からの質問にありました。あるテーマが前にあれば、個人的動機と評価がついてまわるのは当然のことですが、その質問に答えられないと先に進めないという余裕のなさがあります。そこで一方では、「文化の評価なんかできるわけがない。長期的に後で気づくもの」という突っぱねたコメントが出てくることになります。これは、全体の姿の見方に不十分があるからではないか・・・そんなことを二日連続で思いました。

国際フォーラムでのセミナーを終え、次のアイルランド大使公邸でのレセプションまで時間があったので、ダブリンからきたフレーザー・マッキム(昨年、彼と一緒に御嶽山に滝修行に出かけた話を書きました。冒頭の写真のパネラーの右端)と一緒に浅草に行きました。彼の奥さんが、以前、浅草の店で和風のケータイカバーをみて、買おうか買うまいかたいそう迷ったあげく買わなかった・・・・が、ダブリンに戻る機上の人になって「ああ、あれは買うべきだった!」とつぶやいたから、是非ともそこの店に行きたいと言うのでつきあいました。フレーザーの日本文化への傾倒を見ていて考えるのは、観光地あるいは観光向けとわりあい否定的にとらえられる側面は、もっと積極的に見るべきではないかということです。彼は「日本の文化はゴシックである」と語るほどに教養ある人間ですが、その彼が褒め称える「日本らしさ」は、日本人の目からすると「観光向け」と思えるものが多々あるのです。それを「趣味が分からない」と言うのではなく、多くの人は観光向けの所から入り込む事実を重要視するほうが大事ではないかと思ったのです。敷居の低さは誰にとっても求められる要件だろう、と。そういえばジョン・ホールデンもツーリズムが文化外交にとって注視すべき活動であることを強調していました。

アイルランド大使館公邸におけるレセプションは、相変わらずギネスビールが主役です。イタリアのパーティと比較するとやや地味な印象ーそれは人であったりファッションから判断するのですがー、パーティの終わり近くになってゲール語の歌を歌い始める青年がいました。青年というよりは年齢が上かもしれませんが、ケルトの与えるムードが青年のもつ清清しさをかもし出しているという意味で、「アイルランドの青年らしさ」を感じないわけにはいかないのです。その青年らしさは、その翌日である昨日、土曜日のパーティでも思いました。ウエェスティンホテルでの晩餐会「エメラルドボール」に参加している人たちの表情からもうかがえます。しかし、アイルランド人だけでなく、ここにいる日本人でも青年のような人はいて、水産会社をやっている橘泰正さんという方は、「現在、海外で生魚が多く食べられるようになったが、生魚はすべて氷を入れて冷やせばよいというものではなく、種類によって保存の仕方が違う。こういうことを海外の人に教えていきたい」と熱く語っていました。彼は800種類もの魚のデータをもっているとのことで、ぼくは魚の世界の話に思わず引き込まれてしまいました。

アイルランド人の青年らしさに話を戻すと、下の写真のフレーザーは少々違った表情をしていますが、スピリットは青年です。

このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをYahoo!ブックマークに追加このエントリをFC2ブックマークに追加このエントリをNifty Clipに追加このエントリをPOOKMARK. Airlinesに追加このエントリをBuzzurl(バザール)に追加このエントリをChoixに追加このエントリをnewsingに追加

Category 『ヨーロッパの目 日本の目』, イタリア料理と文化, セミナー・講演など | Author 安西 洋之