『GRANADA』 與語直子さんの写真展

ぼくはスペインには2度しか出かけたことがないし、グラナダに足を運んだこともありません。行きたくないわけではなく、これまで訪問の機会がなかっただけなのですが、「GRANADA」と名づけられた都内の写真展に出かけてみようと思ったのは、たまたまこの企画に携わったmosakiの田中元子さんにお誘いをうけたからでした。写真家のことも、いわんや写真展の趣旨などまったく確認せずに昨日の土曜日、神田のギャラリーを訪ねました。オープニングパーティでスペイン料理が出てくることにもひかれて・・・・。

ギャラリーに足を踏み入れ、「あっ、これはちょっと違う匂いがする」と感じました。想いの塊の重さと、それでいてどこか清清しさが漂う、ある種独特のムードが「違う」と思わせたのです。会場にあるアート批評家のエドワード・アリントンの書いた「失われた風景」という文章を読み、写真家・與語直子さんは、既にこの世にはいない人であることが分かりました。それも34歳で左折するトラックに巻き込まれた交通事故死。死後、見つかった40本のフィルムを写真家と同じ方法で友人が現像した、その題材がグラナダの風景だったのです。若くして去った人自身が発する才能とそれを巡る周囲の想いが、ぼくに単なる写真展ではないと感じさせたのでしょう。

アリントンの書いた「失われた風景」には、写真家の最初のシリーズ「Night Phtographs」に触れています。

ここでも光源は人工的なものだ。どちらも非凡な描写であり、緻密に計算された構図である。これらの写真の中に人の姿はない。なぜなら人々は家で眠っている時間なのだ。でも直子は違う。彼女はこの暗闇の中で、ほんの僅かに存在する光を、カメラの中で捕らえ続けた。

光の使い方と人のいない風景が語られ、グラナダでも「見事な明暗の表現」をしており、そこには最初の作品とは対照的に「強い光で消し飛ばれそうな風景をみる」とあります。そして、やはり人がいない・・・・昨日の展覧会にある写真でも、一枚の風景に歩く二人の姿が小さく見えるだけです。世界各地で人の顔をクローズアップで撮り続ける写真家がいる一方、こんなにも人を避けるように風景を撮る。それは必ずしも、そこに見える風景を賛美するためではないことを暗に主張している。いや、風景は批評するためにあるのではないことを切々と與語さんは語りかけてくれていると感じました。ここがグラナダである必要はまったくないかもしれない。しかし、そういう風にグラナダは存在している、と

オープニングパーティで一人の社会人類学を専攻した大学院生と雑談しました。今春から社会人ですが、彼がロンドンに滞在していたとき、與語さんがちょうどグラナダに取材旅行中、ご自宅に2ヶ月近く居候し、與語さんの旦那さんでアーティストの近藤正勝さんにたいそう世話になったと言います。このように、近藤さん+與語さん夫婦のお宅は多くの友人の集まる場所だった(今でも、そうだと想いますが)ようで、批評家のアリントンも、その場所が外と内への重要な「眼」であったことを指摘しています。そのスピリットが「ALLOTMENT」プロジェクトに引き継がれています。

このプロジェクトは毎年、若手アーティストのために20万円の制作旅行費を出すというものです。昨日の朝日新聞でも紹介されていますが、記事には、こう書かれています。

與語さんは生前、「アロットメント」と呼ばれる小さな農園を借り、キュウリなどを育てていた。週に1、2回、自転車で通うのが楽しみだったという。「表現 に迷ったとき、自分がまいた種がしっかり育っているかを確かめることが、彼女の心の支えになっていたのだと思う」と近藤さん。小さな畑ながら、若い芸術家 の土壌になることを願い、賞の名前「ALLOTMENT」とした。

ロンドンで開催された展覧会に際して旦那さんの近藤さんがインタビューで、この賞を旅行費用にあてて欲しい理由を説明しています(太字はぼくの強調点です)。

幸い直子は今回こうして展覧会を開けましたが、大学を卒業して美術作家としての活動を始めると、経済的なことをはじめ時間や制作場所の確保 など様々な問題に直面したり、作品そのものに閉塞感を感じたり、考え込んだまま1年、2年と過ぎてしまうことがよくあります。でもその時に、「旅行をして 作品を作るんだ」と決めてしまえば、体が動きます。環境を変えて思考を刺激し、新たな対象と出会うことで様々なことが動き出します。いま話したような理由 から、まだ甘えてられる学生は対象から除き、プロの作家にしぼりました。

一人の人間ができることは小さいとよく言われます。ぼくもそれを想います。でも、一人の人間がこんなにもたくさんのことをできるのだ、という例もまた多く見てきました。「たくさん」という言葉は感嘆であり、量ではなく質です。世の中の方向を変える、世の中の人々の生き方に影響を与える・・・・そういう意味合いです。このイベントを紹介してくれた田中さんもロンドン滞在中に與語さんと知り合い、ぼくが雑談を交わした大学院生は福岡からこのためだけに上京してきました。何かが動くというのは、こういうことです。「この人なら、敷居をまったく違うアングルと言葉で越えそうだ」とロンドンから飛んできた近藤さんと話しながら想いました。

今回、ぼくも日本に滞在してちょうど1ヶ月になりますが、見方を変えることで何かを動かすことができると思う人たちとたくさん会ったなという実感があります。重要なのは自分の語彙に囚われないこと。心と心が通じ合えうのはもちろん大事ですが、それと同時に、自分の語彙と相手の語彙の同じ部分と違う部分を見極め、新しい語彙でお互いが共有できるパートを相互認識すること、これが「何かを動かす」エッセンスではないか。そう、あらためて考えました。

尚、明日からほぼ1週間、幕張メッセです。食品の祭典FOODEXで七味オイル風味オリーブのビジネスのためにスタンドで多くの人たちと会う予定です。きっと食材の側面からも文化の見方を変革していけるだろうとの確信をもっています。目的達成のため、手段はあらゆる手段を使う。前に進むことが肝心です。

*写真はすべて與語直子さんの「GRANADA」です。

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Category その他 | Author 安西 洋之

Comment

  1. Jun Yokoyama 

    件の大学院生です。
    昨日はお話ありがとうございました。
    この春から、ユニクロで働きますが、その会社、現場の視点から、人間の文化的な活動がいかに変化していくか、そして社会、文化を変えることができるのかを考えながら、働きたいと思います。
    刺激的な時間をありがとうございました。

  2. 安西洋之 

    明日から仕事なんですね。

    固定観念にとらわれない、いい仕事をしてください。

    コメントありがとうございました。