ミラノサローネ2010(16) 橋本潤さんと安西葉子さん

昨晩、恵比寿のイタリアレストランでフーニオデザインの橋本潤さんドリルデザインの安西葉子(やすにし ようこ)さんと食事をしました。橋本さんと初めて出会ったのは、2008年のミラノサローネサテリテです。夕方、かなり急ぎ足でサテリテを回っているとき、ふっと目に飛び込むデザインがありました。そこでスタンドの奥に入って矢継ぎ早にコメントを述べ質問をしたのですが、その相手が橋本さんでした。作品は「うすいいす」です。そしてそこを去り、他のスタンドを巡っているとき、サテリテの入賞者がマイクで発表されるのを耳にした名前の一人が、橋本さんでした。その後、東京で何人か若手デザイナーに会いたいと思って彼に声をかけたら、彼は彼でぼくの「ミラノサローネ2008」を既に読んでいたのですが、「ミラノサローネ2008」を書いている人間が会場で矢継ぎ早に質問した人間であるとは、そのときまで気づいていなかったようです。

2009年の橋本さんのスタンドの様子は「ミラノサローネ2009」で紹介しましたが、会期中に橋本さんなどと夕食を共にしたとき指摘した「くものすのいす」の三次元表現という下記ポイントは、思いのほか、彼の頭のなかに残ったようです。昨晩もそのことを話していました。

今回の作品には、それなりの「必要な」重さを感じるだけでなく(実際、2kg以下ですが)、より三次元的なのだと思います。ヨーロッパ人がある質を感じる には、重量感だけでなく、この「三次元性」があると思います。一般的に、日本らしさとは往々にして、日本の水墨画にある「平面性」に象徴されることがあり ます。それが日本好きのヨーロッパ人に「繊細さ」として評価されるわけですが、ヨーロッパ市場の傾向としてメジャーな嗜好ではないのは、「(必要以上の) 軽さ」と同様です。三次元的ヴォリューム感がヨーロッパ市場では要求され、そのために日本人デザイナーは、3.5次元ー4次元あたりを意識的に狙わないといけないのでしょう。これらの二点、重量感と三次元性が、橋本さんの今回の作品が、昨年よりヨーロッパ人から良い反響を得たひとつの理由ではないかと考えました。

その晩、安西葉子さんもいたのですが、彼女が一緒にドリルデザインをやっている林裕輔さんとともに普通大学を卒業(安西さんは早稲田社会学、林さんは学習院経済)した後にデザインを勉強したキャリアが印象に残っていました。昨晩もこれからのデザイナーにとって必要な資質やすべき勉強の内容を話題にしたのです。当然、どこかの段階でデザインの技能的側面を学ぶ必要がありますが、橋本さんはデザイン学科以外の課程を経ておくべきではないかと盛んに説いていました。ぼくもその意見には賛成で、デザイン以外のコースを経た上で、表現手段としてデザインにフォーカスするという課程が理想ーなにせダブルの学習は金がかかる!-だと思います。まさしく、安西葉子さんは、その段取りを選択したのですから強いです。視覚化の方法を自分のうちにもつのは圧倒的優位性をもてます。

このお二人、今年のサローネサテリテに別々に出展します。ドリルデザインは昨年、フオーリサローネに出展したのですが、サテリテとは見てくれる人の人数が二桁くらい違うことを痛感したようです。このあたりのプラクティカルな判断は正しいと思います。サテリテは見本市の定型的な小間で自己表現にあたっての制約条件の強い場所です。ですからフオーリサローネで自由な空間を演出してみたい、もう少しアヴァンギャルドにやってみたいという誘惑に駆られやすい。しかし、そこに穴があります。いくらトルトーナ地域に膨大な人数が徘徊しても、彼らが君の作品を見逃す確率はものすごく高い。既にB&Bの店舗で作品が出るのなら別ですが、何らかの光った表現で君の作品の前で相手をハッとさせることが目的で、それもマジスの会長が目にしてくれることを狙うなら、サテリテです。時間をもてあますミラノ工科大学のデザインの学生と話し込むにはフオーリもいいですが、有力メーカーのトップがフオーリを駆け巡るのは大手のスポットがメインでしょう。あるいはトリエンナーレ。

これはぼく自身の経験でもありますが、トルトーナは人が多すぎ、すべてをチェックするのは難しく、ある程度場所を選択していきます。そして「ここに行こう」と思っても、あまりに混雑が激しいとパスということになります。コルソ・ガリバルディやブレラ周辺もいいですが、それでも見逃す度合いは大きい。いわんや中央駅の北側など、青山を中心にやっているイベントを離れ御徒町まで足を運ぶようなものです。ぼくはそういう閑散としたところでデザイナーと話し込むことを敢えてやりますが、多くの人の行動パターンではないでしょう。自分たちの作品の何をどうだれに見せたいか、これを冷静に考えて場所を択ぶべきで、サテリテのアドバンテージを客観的にみたお二人の判断には納得がいきます。

尚、安西葉子さんは出展作品をかなりのレベルまでまとめあげたようですが、橋本さんはやや準備遅れ気味と言っています。しかし、これからの一ヶ月の爆発に期待したいです。

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Category ミラノサローネ2010 | Author 安西 洋之