東京で考えたこと(4)ー西洋紋章デザイナーの山下一根さん 3

山下さんは昨年10月、日本に派遣されました。マルタ騎士団が日本で何をすべきかを考えるのが彼の任務です。マルタ騎士団は他の国では病院などを経営しています。そして団員は弁護士などの職業をもっていることが多く、彼は紋章デザイナーというわけです。欧州クライアントのために、一年に数十枚の紋章デザインを描く一方、日本の化粧品メーカーのパッケージデザインをするなど普通のグラフィックデザイナーと同じ仕事もこなします。そして、カトリック中央協議会の広報担当でもあります。もちろん神父ですからミサもあげます。

「なかなか日本は難しいですね」 と語ります。彼がイタリアに滞在していたときは、ローマ教皇を何人も出しているイタリアの名門貴族がスポンサーでした。そのスポンサーはふんだんな資金をくれるわけではなく、信用と山下さんが最低限生きていくための糧を与えてくれたようです。およそ欧州の貴族の考え方として、スポンサーをするにしても、若いうちに一気呵成に成功させようということはなく、成熟した年齢でじわりと世の中に出てくることを良しとします。時間をかけて丁寧に育てていく、そういう文化があります。日本に戻った山下さんは、何でも回転の早い日本のリズムと上手くかみあわないのでしょう。

リズムが早いことは、ビジネス的観点からすると、それだけでは悪いことになりません。しかし別の問題があります。ぼく自身、今回の東京滞在で強く思ったことがあります。 あらゆる営み、それは政治的なレベルから全ての経済的行為のすべてですが、何かを考えるときに、「これを行うことによって、生活する普通の人たちの心のキャパシティをオーバーしないだろうか?」という問いかけを責任ある人たちが当たり前のように行っているだろうか・・・ということを思いました。

苦しい心を抱えた若い人たちが多く存在し、彼らと同様、親たちも心の余裕を失っています。厳し過ぎる経済活動のしわ寄せが家庭に押し寄せていると指摘する人もいます。 ぼくは、同じことを工業製品の開発や品質でみます。余裕のない仕事の仕方が、いろいろなところで足を引っ張っています。こういう状況を変えていかないと、世界における日本製品の存在感は低下する一方だろうとも思います。

話がわき道にそれましたが、実は山下さんと話していて、こういう話題に彼が実によく頷いてくれたのです。この人々の心のキャパをどうみるか、このあたりに山下さんの目線があるのかなという気がしました。

(上の写真は、山下さんが高校生のときに、バチカンにマルタン枢機卿を訪ねた際の様子です)

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Category さまざまなデザイン, 西洋紋章デザイナー山下一根さん | Author 安西 洋之