ピエール・ポランがコミュニケーションを語る

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何回か連続してコミュニケーションについて触れていますが、そういえば昨年6月に亡くなったフランスのデザイナー、ピエール・ポランがコミュニケーションについて語っていたと思い出し、2004年3月に彼のモンペリエの自宅で話した記録を探してみました。「1970年代ころから人々に深刻な問題を投げかけたのは、コミュニケーションだと思う」と確かに語っています。そして「コミュニケーションが建築やデザインに対する興味を失なわせた。特に、マスを相手にしたデザインだ」と続きます。今となっては確かめようがありませんが、「消費のためのマスコミュニケーション」について話していたのかなと思いますが、これは「消費されるコミュニケーション」という基本的なテーマに触れていたのではとも思います。彼は1960年代にヒット作品を続出しますが、じょじょにマスマーケットから気持ちが離れていきます。シンプル、しかもパーフェクトなもの。こうした作品は、デスクでさえ小型自動車相当の価格になりますが、ある時期から、彼はそういうものしか積極的に作る気がなくなったようです。因みに、F031(プチ・デスク)は、1956年のデザインです。

コミュニケーションのためのコミュニケーションという形態に嫌気がさしたとも言えますが、彼はこうも語っています。

「今の若い学生たちが、現状に反発しながら新しいものを生み出すことに期待したいな。新しいものは私からは出てこないよ。それらしき能力はまだあるけどね、それだけだよ。私は過去でしかないんだ。エレガントで巧妙だとしてもね・・・」

圧倒的なコミュニケーションの渦に入り込まないと、その中で泳ぎきれず、泳ぎきらないと新しいアイデアは出てこない。だから自分は、それなりに人の目を楽しませるデザインをできるが、時代の革新を作りえないと告白しています。人は年齢を経るに従い、よりこなれた考え方をしていきますが、どうしてもとんがったものは若い年代にしかできにくい。年齢が上になるとできないというのではなく、確率としてそういう傾向にある。しかし、問題は年齢と経験の比例にあるのではなく、新しいものへの希求は自分たちの居場所を探り当てることであり、年齢を経て自分の場所がある人は新しい居場所を探る必要をあまり感じないことが多い、ということです。

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このポランが「2001年宇宙の旅」で使われた家具をデザインしたオリヴィエ・ムルグを「率直に言わせてもらえば、ムルグは才能があって私のデザインをコピーした最初の人物だ」と評しています。これは、なかなかな良い褒め方です。ぼくは、この表現を良く解釈すべきかと思います。いずれにせよ、人は他人の影響を何かしら受けるものであり、コピー自身をひとつのプロセスとして認めるべきで、肝心なのは「良く継ぐ」ことです。どう「バトンタッチ」するかでしょう。この場合、時間軸上のコミュニケーションともいえますーポラン自身、ネルソンやイームズの影響を否定していません。

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一方、ロジェ・タロンについても、ポランは語っています。「タロンは私とは正反対の仕事をしたね。私がエリート主義とすれば、彼は大衆主義。TGVのデザインはすばらしいな。本当のイノベーションだったよ。まあ、家具についてはゼロだけどね・・・」と、タロンの大企業とのコラボレーションのあり方に高い点数をつけ、自分はそのような仕事には向いていなかったと暗に示しています。冒頭に述べた、「消費のためのコミュニケーション」も「消費のコミュニケーション」も、ポランの生きた世界ではなかったのです。

ここでぼく自身のことを話せば、ぼくはポランの世界とタロンのそれの両方に生き、その両方がぼく自身にとって必要です。プランナーという職業的役割ではなく、非常に個人的な趣向的なこととしか言いようがないのです。ここはロジカルではなく、ありきたりに言えば、ぼくにはこの二つの世界がないと息が詰まってしまうのです。それが、ぼくの内にあるコミュニケーションです。

やや結論的なことを言えば、コミュニケーションとは静的状況の定義ではなく、動的な状況をあらわし、さらに言えば主観的な発信と主観的な受信であり、そこにニュートラルな性格を求めるのは、コミュニケーション本来の意味とは程遠いということです。説得的でないといけない時、それを回避する方法は説得以外にありません

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Category ピエール・ポランに会いに行く | Author 安西 洋之