ミラノサローネ 2010(8)-イタリア人の日本観

たまにRAI(イタリア国営放送)で各国の社会や文化を特集する番組を放映しますが、一昨日、2時間程度の日本特集を見ていて唸りました。まず、思ったこと。「これ、どこかの国の放送局との共同企画なのか?あまりに画一的過ぎない?」 しかし、案内役はイタリア人です。ナポリ大学東洋学部の先生も登場します。次に「ちょっと撮影が古くないか?」と思ったのですが、2009年の夏の取材のようです。歌舞伎座の建て替えまで後200何日でしたから。番組は関が原の戦いの再現ーでも、日本ではまったくの無名の役者ーし、徳川幕府がいかに現在の日本の基礎を築き、それが今にどう伝わっているかという流れです。似た内容は過去20年、何度も観たような気がする、そんな番組です。ぼくがイタリアに来た当初は、「なるほど、こういう風に日本を観ているのか」と思いましたが、「まだ、こんな見方なのか!」というのが今の驚きです。およそ、日本のTV番組でこのような企画をするなら、カリブ海か南太平洋の小さな島国ではないだろうかと思います。それで唸ったわけです。

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いまや日本でヨーロッパの国をこう特集することはめったになく、フィレンツェの絵画修復工房を訪ねたり、メディチ家の家宝の足跡を探るのであり、仮にスカンジナビアが対象であっても、環境政策や学校教育などテーマが絞られるでしょう。あるいは、旅や食のバラエティになります。なじみの少ないバルト三国としても、こういうとらえ方をするかな?と思います(ぼくは、日本のTV番組を詳しく追っていないので、「いや、そうじゃない」という指摘があれば、教えてください)。それが、剣道、刀、学校での整列、アニメ、お辞儀ー空港で飛行機が動き始める時に地上整備員が飛行機に頭を下げるーというあまりに凡庸な紹介が続き、先端技術のシンボルとして、高層ビルと新幹線!ケータイさえ登場しません。ガラパコス的悩みも前面に出ません。

しかし、別の観点からすれば、これは十分に考えさせられる内容です。第一に、80年代以降、あれだけ日本の情報があったにもかかわらず、そして、これだけ寿司がブームになっても、「日本文化入門編」からほとんど脱していないということです。最近は中国特集が多かったので、「日本は忘れられた頃だからいいんじゃないい?昔のネタを流用すればいいんだからさ・・・」というディレクターの声が聞こえてきそうです(**)。果たして、エコノミストやFTの日本特集を、ディレクターは読んでいるのでしょうか・・・・。しかし、ビジネスマンではない一般の国民を対象とするなら、こういうレベルを狙うのは当然かもしれません。視聴者は日本とビジネス上何らかのかかわりのある人が少なからずいる北イタリアだけでなく、南イタリアも含まれるわけですから。

第二の当たり前の解釈をすれば、ある異国の社会を理解するには、少なくても400年程度は遡ってみないといけないという基本をキープしていて、この枠組みを相変わらず崩していないともいえます。これは、ぼくがミラノサローネ2010(7)で書いたことです。

ヨーロッパ人はより少ない情報と知識で日本を見ていることを肝に銘じないといけません。しかも、それを構造化したいという習慣は捨てきれない。銀閣寺と秋葉原とロリータファッションとプリウスでどんなイメージができるでしょうか?

社会の理解はこうあるべきだというルールに忠実ともいえます。しかし、番組に京都はあってもローリータファッションもプリウスも出てこなかったのです。これが、全国版ゆえの制約ですが、全国版のレベルを知るには好都合であるというわけです。

第三の見方は、異国の社会・文化の理解レベルは、10-20年でそう劇的に変化するものでもないという考え方ができます。1980年代以前、ヨーロッパにおける日本研究のメインは中世文学などマイナーな位置にありました。それが1980年代後半、「ジャパン・アズ・NO1」の時代に日本の今と過去をリンクする研究がはじまりました。音楽学を専門とするイタリア人の友人が東京藝大で武満徹や高橋悠司など現代音楽を研究するために出かけたのも、’90年周辺です。「日本の先端的技術社会の背景を知りたい」というのが日本への関心の動機でした。この種の関心対象は2000年以降、中国がトレンドになるわけで、そのあたりからTVでも日本紹介は減少したような印象をうけていました。ですから、一昨日は「へーどうして日本なのかな?」と思ったほどです。しかし、考えてみるに、異国の理解とは、このレベルでよく分かっていれば上等ともいえるかもしれません。

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ミラノサローネの来場者の平均的日本イメージを推し量れば、ベースが上記のようにあり、それが正確に把握されていればラッキーであり、安藤忠雄、倉又史郎、吉岡徳仁・・・・と言った名前が散発的に思い浮かぶといったことが言えるでしょう。より詳しい人達が少なからずいるとしても、主要なイメージは、1980年代以降の日本工業製品ークルマやカメラーが作ってきた部分が相変わらず大きいです。そして、ヨーロッパにあるメーカーの製品にはよりヨーロッパラインへの優先が高く、ヨーロッパではあまり作られていない製品については、日本ラインへの受け入れを仕方なしに行っているという状況だと思います。このあたりについては、次回、書きます。

**番組は「イタリアにおける日本年」がらみの企画かもしれません。「もう少しフォーカスがあっても・・・」とぼくは思うのですが、繰り返しますが、これが全国平均には十分に高度かもしれないという事実はそれはそれで重要な情報を提供してくれます。

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Category ミラノサローネ2010 | Author 安西 洋之