ミラノサローネ 2010(6)-日本らしさとは何か?

前回(5)の続きです。ぼくはもちろん「日本らしさ」を否定しているのではなく、自分の表現が自然と「日本らしい」と見られることに対して自覚的であるべきだと言っているのです。ここを勘違いしないでください。結果として「日本らしさ」がプラスに作用するか、マイナスに作用するか、それをできるだけ事前に見極める努力をしないといけません。そのために、「日本らしさ」とは何なのか?をよく考えておかないといけないでしょう。

石上純也さんの鉛筆で描かれたディテールも丁寧なスケッチが「日本らしい」と肯定的に評される一方、皮肉にも、その作業自身の生産効率性の低さが「日本らしい」と否定的に評されることもあるわけです。安藤忠雄の建築と知らずに、その空間をヨーロッパ人がみて、「日本らしいね」と批評することもあります。どこのどのエレメントがというより、空間の取り方の発想そのものに違和感があったり、「違った視点」として高評価をうけたりするのです。

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「ミラノサローネ2009」で取り上げたフーニオデザインの橋本潤さんの「薄い椅子」と「蜘蛛の巣の椅子」の対比も、「日本らしさ」の一つの事例です。「軽さ」に対するヨーロッパと日本の文脈の違いをも表現しています。レクサスは米国市場を的に企画されたから大ヒットし、だから、そのままではヨーロッパではヒットしない。’90年代、米国投入後の数年間、ここに意図的に「日本らしさ」があったとは思えませんがー結果的な「日本らしさ」があったとしてもー、2000年代になってグローバル戦略を見直したときに、L-Finessというデザインポリシーの設定に誤りがあったわけです。

更に、ここで強調しておきたいのは、L-Finess における三つの要素「予」「純」「妙」という取り上げ方からみるに、日本文化を極めて狭い範囲で捉えている印象を受けるということです。長谷川等伯が日本の伝統美であるといえば、「いや、伊藤若冲がいる」と主張した村上隆のような、日本文化の再定義を自ら行ったように見えない。そこにL-Finessの底の浅さが見えてしまったのです。

加藤周一『日本文化における時間と空間』のレビューで書きましたが、「日本文化構造」の把握には、日本の外でのある程度の時間と経験が必要です。ですから、即誰でも獲得できるわけではありません。しかし、トヨタは長年のグローバル市場での経験をもち、多数の外国人が従業員として働いているにも係わらず、L-Finess のようなミスをおかしました。しかしながら、ややレベルを変えて身近な易しいポイントからみてみましょう。そうすると、「日本らしさ」を日本で日常で自覚する材料もいろいろあります。

日本の建築雑誌の写真を眺めていて「ああ、日本だな」と思うのは、まず電柱と電線です。コンテンポラリーなデザインの建築物の二階の前を電線が走っている。インテリア雑誌のリビングルームの写真で、施主がソファーに座っています。足元をみると、スリッパであったり靴下だけです。特にリラックスした姿勢ではなく、ジャケットでかしこまっていたりする。その時の靴下って?という奇妙な感覚があります。ベッドルームの写真では、ベッドカバーの引張りが甘い。あるいはこれら、それぞれ一つ一つのディテールが、「日本らしさ」につながります。

中国人の経営する日本料理屋にいくと、インテリアもメニューも日本風なのに、テーブルに並ぶ箸のおき方で「中国らしさ」を感じたりします。中国や韓国の箸のおき方は、座った人の垂直に置きますが(西洋料理におけるナイフとフォークと同じ)、日本では水平におきます。あるいは日本の家庭でのMY茶碗や箸ーヨーロッパでマグカップならいざしずMYフォークやナイフはあまり見たことがないーこのほんのちょっとしたことに、どれだけ自覚的になれるか。それだけで「日本らしさ」を知るきっかけが得られます。ぼくが成田空港に着いてリムジンバスにのり、「日本に着いたな」と思うのは、幕張あたりの住宅群の各世帯からこうこうと光る白い蛍光灯です。ヨーロッパに戻ってきたなと思うのは、機上から眺めるオレンジ色の街灯の連なりを眺めるときです。

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すなわち、「らしさ」は虫の鳴き声をポエティックに聞くか?でも書いた内容に近く、受け手側が経験の痕跡の連鎖で形作るものでもあります。日本文化の歴史そのものがあり、そこをどう解釈するか?からはじまる「日本らしさ」に立ち向かいながら、もう一方で、異文化との差異でみえてくる「日本らしさ」をどう摘出していくかという視点をもたないといけないということです。その意味で、静的要素だけでなく、動的要素も大きいのではないかと思います。「らしさ」は常に一定ではなく、ある関係性で「らしさ」が変わってきます。赤坂のホテルの部屋で耳にするクルマの騒音が、パリのホテルの部屋で聞くそれとイメージが重なるとき、それらの音が「東京らしくなく」思えることがあります。

ヨーロッパの人達に作品をプレゼンしようと思う時、「日本らしさ」を一回、色々なアングルからチェックしてみてください。そこで浮かび上がってきた「無意識の日本らしさ」がマイナスとなるか、プラスとなるかは、ストーリー次第でもあります。いずれにせよ、事前段階での自覚が大きな違いを生みます。

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Category ミラノサローネ2010 | Author 安西 洋之