僕自身の歴史を話します(9)ートリノの生活

文化センターに首を突っ込みはじめた次の年、つまり91年のいつ頃かスーパーカーのプロジェクトにも足を踏み入れることになりました。ジュージャロのデザインした車です。ダブルキャノピーのこの車を1億円という価格に設定したのはバブル経済の賜物でした。F1パイロットの中島悟が乗った宣伝などで記憶にある人も多いと思いますが、とにかくヨチヨチ歩きのぼくも、この車の仕上がりをチェックすることになりました。

宮川氏から車をみてくれと言われたとき、ちょっと逃げ腰になりました。いくら欧州メーカーのスポーツカープロジェクトに関わったことがあっても、ぼくはビジネス畑です。それも、組織のなかの一パーツです。「それは品質検査あるいは実験・評価の人たちプロの仕事だろう」と瞬時に思いました。そんなぼくが見ても・・・と正直迷いました。自動車メーカーにいたからなお更そう反応したのでしょう。

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もちろん、この車を作っているカロッツェリアの品質管理の人間も見るし、ちゃんとテストドライバーも走ります。しかし、ユーザーの目で見ることも大事なんだ、と。ぼくは1億円の車なぞ買えるユーザーではないですが、「君の目と触覚で判断することも大切なんだ。自分自身の目で見る、それがいいんだ」と言われたのです。

1億円の価値がどこにあるかを考えながら、一台一台出来上がった車をみました。誰の目でもない、まさしくこのぼく自身の目で直接みる意義あるいは大切さを知ったのは、こういう経緯を契機としていたのではと今にして思います。それまでのぼくは「職務分担された自分」ではなかったか・・・と考えるのです。

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Category さまざまなデザイン, 僕自身の歴史を話します | Author 安西 洋之