J=P・シュヴェヌマン/樋口陽一/三浦信孝『<共和国>はグローバル化を超えられるか』を読む

昨今、日本で「大きい政府」「小さい政府」という言い方が盛んにされますが、何をもって大小の指標としているかという問題はさておき、世界のトレンドが大か小かという議論になると、大いに首を傾げたくなります。フランスのような世界政治の重要な役割を担ってきた国が、一貫して国の権威を低めてこなかったことを脇において、そういう問題を語ることはあまり意味のないことでしょう。2008年の経済恐慌以来、国の役割が再度スポットライトを浴びているなかで、この国とは何を意味し、それは一般に生活する人たちにどう関係しているのかを見直すべきなのですが、およその場合、人とは「消費者」であり、民主主義の担い手としての「市民」ではない。そこに触れる(あるいは触れようとする)話題がどうも不足しているなと思っていたところで、本書を手にしました。

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2008年12月19日、東京の日仏会館で実施された「第五共和制五十年と<共和国>のゆくえ」という討論会を中心にまとめた新書ですが、かなり内容的に重い緊張感あふれる本です。何度もフランスの閣僚をつとめてきたシュヴェヌマンと比較憲法学の樋口陽一が、事前に練られたテーマについて話し、司会をフランス学の三浦信孝がつとめるという構成です。ポストモダン以降、「近代知」はシーラカンス的扱いであると自嘲しながら、しかし、その近代知が「再帰的近代」や「再帰的普遍主義」ーつまり反省を経たうえで再び獲得した価値ーに迫る時、その言葉はドシリとくるのです。

1980年代以降、日本でのナショナリズムは、実は「小さな政府」論と奇妙な共同戦線を形成してきた。日の丸・君が代の教育現場での強制を支持する政治勢力が、同時に、一連の規制緩和・撤廃を遂行し、「官から民へ」の標語のもとで国家の撤収という方向を進めてきた。それに加え外交路線での選択という場面での「日米同盟」依存を含めて、ナショナリズムは、国民主義でも国家主義でもなく、しかもその民族主義はもっぱらアジアとの関係だけで突出して主張されている。

と樋口は書くのですが、シュヴェヌマンも悪い意味でのナショナリズムの高まりをみつめ、「他方、コミュノタリズム(閉鎖的共同体主義)の反応も現れています。人間が市民としてではなく、自分の民族的宗教的ルーツによって自己を定義し、殻のなかに閉じこもる傾向です。原理主義はイスラム教の場合もありますが、ユダヤ教、キリスト教の場合もあります」との現象が世界中に生じていると指摘します。そして経済恐慌と並行してある民主主義の危機を次のように語ります。

このような民主主義の危機が起きたのは、アングロサクソンの経済が言う「ホモ・エコノミクス」が「市民」を凌駕したからです。ホモ・エコノミクスとは、自称合理的な、市場で自己を定義する経済主体のことです。過去二、三十年間の変化は、経済至上主義、過剰消費、「リベラルな超個人主義」の発展に対応します。つまりわれわれは市民であることを忘れ、消費者になったのです。まさに個人という概念、さらには個人という概念を、それだけが存在する権利であるかのようにみなし、一般意思、集団的な意志を定義する前に、個人の権利だけを重視したために、すべての権力、民主主義的な権力に対してまで懐疑心をもつようになったのです。

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シュヴェヌマンは常に左派であり、サルコジの方向にも異を唱えていますが、そのサルコジからも尊重される知識人は、実はマーストリヒト条約批准にも反対する共和国派です。反EUです。しかし、この人の来日エピソードからうかがえる人柄には感心します。日本への招待が決まった時の秘書とのやりとりを三浦がこう記しています。

秘書が夫人も同行したいので、シュヴェヌマン用に予約したフライトスケジュールを教えて欲しい、と言ってきた。夫人用の航空券は先方で手配する、というのである。このレベルの講師を招待するときはビジネスクラスが常識だろう。ところがエコノミーかビジネスかと秘書が聞いてきたのである。これはシュヴェヌマンがエコノミーでも旅行することを含意する。

結局、夫人は来日しなかったようですが、VIPが夫人の旅費を招待側に負担要求することが多いなかで、自分で負担しようとしたし、講師謝礼についても一切事前に問い合わせがなかったと言います。なるほど・・・・。以下に本人のブログも掲載されていますから、興味のある方は、こちらに↓。すごく精力的に発信しています。

http://www.chevenement.fr/

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Category 本を読む | Author 安西 洋之