ホットチョコレートに唐辛子を入れる
Date:09/11/14
「管啓次郎『本は読めないものだから心配するな』を読む」に記したように、本を読むとは「痕跡」を残し、それを再生していくプロセスであると考えられます。そして、その再生プロセスでは「想起」という瞬間があります。ある何かに出会ったとき、過去に経験した類似のことがらを思い出し、その二つ「過去のあれ」と「今のこれ」が結合して有機性をもってきます。この二つをリンクさせる「類似性」とは、カタチであることもあるし、カラーであることもあるし、触感であることもあります。あるいは、ある事柄が生じた状況の類似性であることもあります。
ブランドの構築に歴史を使うことが多いのは、単に絶対的な時間量で勝負するだけではなく、長い時間に流れる共通項に意味を持たせるからでしょう。時に応じて違った装いをしても根底にある共通要素、それは類似性の連続という表現で言い当ててもよいかもしれません。「あの時代でも、この時代でも生き残ったのは、この要素にこういう強みがあるからだ」と言えるのが、ブランド力を強めます。だからこそ、その要素はあまりに具体的で視覚的にすぐ分かるものだけではなく、大きな枠組みのようなもの、最近のぼくの表現を使えば、哲学性や考え方自身をブランドコンセプトの基本にすることが重要だということになります。

ここでも何回か紹介している七味オイルートスカーナのエキストラ・ヴァージン・オイルと八幡屋礒五郎の七味唐辛子をミックスした商品ーは、お互いの製品のお互いの文化圏へのローカリゼーションであると語ってきましたが、類似性という意味でいえば、二つとも伝統的に健康のために良いという価値を維持してきました。地中海圏でヘルシーな食材ということだけでなく、それが他の健康目的に使われてきたのと同様、七味唐辛子も医療のために使われてきました。八幡屋礒五郎は長野の善光寺の前で280年以上商売してきた老舗ですが、善光寺にお参りに来た人たちが、病を治すために七味唐辛子を買っていったのです。
今日、自由が丘のチコレートのお店、「バルベーロ」のメルマガを読んでいてなるほどと思いました。実は先週、ここの店長である堀田さんに七味オイルを紹介したのですが、彼女はご自分の商材にひきつけて七味オイルについて書いてくれました。まずTV番組でイタリアにあるホットチョコレートの店をレポートしていた内容について書いています。
このお店のメニューはホットチョコレートだけなのですが、リキュールやスパイスなどを加えて無数の味のバリエーションが楽しめるそうです。中でも人気のあるのはペペロンチーノ(唐辛子)を加えたもので寒いときには体の底から温まるのだとか。そういえばチョコレートが現在のように固形の食べるタイプになったのは近代のことでメキシコからヨーロッパに渡った頃はチョコレートといえば飲むものだったそうです。
さらに紀元前のメキシコでは、カカオを砕いたものを水やお湯で伸ばし唐辛子を加えて薬として飲まれていたそうですので、唐辛子を入れる飲み方は奇抜な発想に感じますが、チョコレートの楽しみ方としてはオリジナルにかなり近いものなのかもしれません。
チョコレートはその昔、固形ではなく液体として飲むものだった。そして、そこに薬として唐辛子を入れていたようで、この飲み方が今も根付いているというわけです。そこで、堀田さんがしたことは・・・・
この(七味)オイルをはじめは料理に使おうと考えていたのですが、この番組を思い出してさっそく実験君!ということでホットチョコレートに数滴たらしてみました。飲んでみるとこれが美味しい!七味に含まれる陳皮、生姜、山椒など7種類のスパイスのブレンドが絶妙にチョコレートと合います。またオリーブオイルとホットチョコレートが乳化しトスカーナのオリーブオイルらしい切れのあるビターな芳香とチョコレートの香りとの調和が楽しめます。

これは類似性の利用だと思いました。想起する共通エレメントを連続的に使っています。チョコレートも唐辛子も、身体を暖めるという効用において共通の力をもっており、それを組みあわせることで更に威力を発揮するという考え方が紀元前からあったわけです。八幡屋礒五郎の七味唐辛子とキットカットのチョコというコラボ商品にみるように、イタリアでもチョコレートとペペロンチーノの組みあわせはありますが、このコンテクストにあった七味オイルの提案は今まで全く考えていなかったので、これは良いヒントをもらいました。「痕跡」の再生を如何に構成していくかー発見や発明はほとんどが結合術の結果であるーという管啓次郎さんの話を思い出しました。






