林景一『アイルランドを知れば日本が分かる』を読む
Date:09/11/2
韓国の世論調査では「好きな国」に北朝鮮が上位に入るといいます。同胞の国であるのは当然ですが、「米国に対して言いたいことを言っている国」が北朝鮮で、韓国人の強い共感を呼ぶ一因になっているようです。国の好悪は常に相対的な位置にあり、三国関係でみないと、よく分かりません。昔から、米国ー中国ー日本もその三角関係のなかにあり、米国が中国に力を入れるときは日本の位置が低くなり、日本が米国より重んじられているときは、米国にとっての中国は冷遇されている時代です。

アイルランドは何百年もの間、英国の植民地であったのですが、苦労に苦労を重ねる期間が長く続いたがゆえの反英運動は、英国に反旗を翻した米国独立運動を支える重要な役割を果たしました。自国の立場を有利にする大きな動きのなかで、自分の立場を巧妙にとっていくプロセスが本書では上手く語られていますが、ぼくがこの本で一番興味をひかれたのは、日韓関係と英(イギリス)愛(アイルランド)関係の対比です。1930年代の矢内原忠雄の指摘を引用しながら、以下の類似点を挙げます。
1)植民地化の歴史が両国関係に大きな影を落とし、長きにわたって憎しみと蔑みの関係が続いたこと
2)歴史的には被支配者の方が、先進的であった
3)被支配者側は、政治軍事的に支配側の戦略利益を扼(やく)する立場にあったこと
4)経済的に相互依存関係が強いこと
5)植民地解放後、南北に分断されたこと
6)天皇の訪韓とエリザベス女王のアイルランド訪問がともに懸案として残っていること
本書では経済関係などの数字を並べていますが、とても象徴的な現象は以下だと思います。アイルランドへの渡航者は年間770万人(2007年)で、人口400万人の倍近く、英国からの渡航者数は400万人(2006年)と50%近い数にのぼります。逆にアイルランドから海外への渡航者数は680万人(2006年)と人口の150%で、そのうちイギリスを訪問したのは290万人です。アイルランドの3人に2人は英国に出かけていることになります。
一方、韓国を訪れる日本人は223万人(2007年)で、韓国から日本は260万人です。英国の6000万人、韓国の4847万人、日本の1億2700万人という人口で、これらの数字を勘案すると、英愛間の人的交流が日韓関係と比べて圧倒的に存在感があることが分かります。苦悩の時期が延々と長かったがゆえに、憎悪からの脱出への出口にたどり着いてきたアイルランドですが、日韓併合は30年ほどであったために、逆にくすぶりが消えにくいということも考えられます。

EU加盟国パートナーとして共同目標を目指す材料がある、一人当たりのGDPで英国を抜くという経済優位性の確保、北アイルランド問題の解決が英国とアイルランド両国の共通目標があった、これらの状況が日韓関係と違う点です。ただそれだけでなく、英国にいるアイリッシュ系600万人の存在(人口の10%)に例をみるように、人を介したというか、人そのものの移動が生む文化的社会的共通感覚が、歴史に内在する多くの矛盾を乗り越える大きな要因になっていることは疑いようがありません。
すなわち、日韓が英愛と同じような相互関係をもっている感覚をもつには、少なくても今の人的交流の10倍以上に達成しないとリアリティをもってこない。逆にいえば、このくらいのレベルの人数が往来する仕掛けを作ったとき、二国間関係は必然的に大きく変わるだろうという見込みがたてられることになります。今、日本政府は現在年間800万人程度の日本への渡航者を1000万人以上に増やそうと努力していますが、このキャンペーンのもつ意義がどんなものか、英愛の数字が物語ってくれます。







林景一氏を検索していて、たまたま本記事を拝見しました。私はロンドン在住でロンドンとアイルランドに支店をもっている関係で、両者の利害調整の難しさを時々感じていましたので、ご意見興味を覚えました。ただ日韓と決定的に異なり、またそれが英愛間の人の移動を含め近くしている決定的な理由は、英語という共通言語だと思います。(おそらく気づかれていると思いますが、記述がなかったので)
アイルランドは経済が苦境に陥ったなか、英国にまた金稼ぎに行くのはいやだなぁという感じがありませんか?せっかく地位をあげたのに、またかよという。かなり複雑な心境だと想像しています。
コメント有難うございました。