水谷修『ドラッグ世代』を読む

二日続きで水谷修さんの本ですが、彼の1998年の処女作も約10年ぶりに再読し、「なるほど、そうだったか」と思ったことがありましたので、このブログに書いておきます。

この数年、ネットの上でも世代間の非難の応酬が多く、「団塊の世代が社会を悪くした」「いや、その前からだ。ジジイは早く引っ込め」「年功序列で高給をとっている世代は既得権にすがろうとしている」というのが上の世代に対する批判なら、下の世代には「生きるすべを工夫しない」「やる気がなくて人任せだ」などのネガティブな意見が続きます。ぼくは、この応酬にどうも品がなくー今の世代間論争では、「品」をいうと既得権保護と解釈されるようですがーどうして、こうなったのだろうと、その背景を考えていました。罵り合うにいたる歴史があるのではないか、と。本書のエピローグにこういう文章があります。

これまで大人たちは、若者が努力して大人に近づこうとすることを当たり前のこととしてきた。これは、大人に権威があり、子供が大人になることを夢として持つことができた時代の話である。今は、通用しない。若者たちは、多くの大人がただ自分たちより年をとっているつまらない存在であると感じている。私たち大人が若者に近づいていかなくてはならない。そして、大人も捨てたものではないことを若者に伝えなければならない。

「大人も捨てたものではない」ということを、どれだけの大人が、同書の出版から11年を経て行っているだろうか。あの時により減少してるかもしれません。水谷さんは、「戦後の半世紀の日本の家庭の歴史は、(中略)親の権威の低下の歴史といってもいいだろう」と記しているのですが、大人というカタチを新たに自ら創ることをしなかったがゆえに、そのカタチが自動喪失されてきた半世紀であったとおさえています。よって、どこかで意識的にならないと流れは反転しないのですが、大人がそれに気づくことはなかったのです。水谷さんが自分の高校時代を思い起こして、こう書きます。

今も私の心の中には、あの当時の学校や教師や親の姿が、一つのアンチテーゼとして強く残っている。彼らにどんなに訴えかけても、聞く耳をもたず、「大人になって世の中のことが分かるようになったら、話を聞いてやろう」という、冷たい言葉だけが返ってきた。

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この経験が、彼をして子供側につかせたのだろうと自らを振り返っています。戦後、アメリカの民主主義教育が入り、約10年間は希望に燃えた若者たちでしたが、60年安保、70年安保と続く敗北で虚無化が加速されました。それでも70年代から80年代の暴走族にみられるように、反抗の姿が目にみえ、20代になれば「大人になる」といって落ち着いた生活を送るカタチがありました。80年代後半はバブルで高校生は労働力としての価値を見出され、バブル崩壊後は消費者として舞台にあげられます。この80年代後半以降の変化をこう記しています。

多くの高校生たちは、学生、すなわち「学ぶことを生きる」人であることをやめた。このような流れの中で、除除に高校生をはじめとして、若者たちは、社会や大人に対して無関心であるだけでなく、まったく社会や大人を相手にしなくなった。

そして、「援助交際」「オヤジ狩り」という現象が、バブル崩壊後から出てくるわけですが、「大人も捨てたものではない」と語ることと全く反対の姿を若い人達に大人の社会は見せてきたのです。それは一部だろうともいえますが、子供たちは、たった一人の大人の行為で「大人の世界って」と思うものです。昨日紹介したジュンも、多分、父親からすれば「ちょっとしたこと」によって転落の道がはじまったのです。大人が少ない例で「今の若い奴は・・・」という以上に、子供たちはもっと少ない例で「大人って信用できない・・・」と思います。

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90年に17歳の高校生だった子は、今、30代の半ばの大人です。極端な言い方をすれば、尊敬できる大人ー親かそれ以外ーを見ることなく育ってしまった大人です。世代間論争がどうして起きているのか、それは年功序列、新卒優先・・・といった労働条件の縛りのなかで生まれている一方、規定条件を作ってきた人達の無力さを身体でよく知っているからだとも言えそうです。

現在の若者の姿は、戦後半世紀の教育や社会の歴史の結果である。過去がなければ現在は存在しないし、現在は、常に過去を引きずり、過去によって大きな影響を受けている。

繰り返しますが、これは2009年の言葉ではなく、1998年のそれです。子供たちに「大人も捨てたものではない」と、今、身をもって示していかないと、どういう10年後20年後になるか。学校教育の問題点を指摘するだけでなく、街で道すがら出会う子供たちとのコミュニケーション自身が問われています。

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Category 本を読む | Author 安西 洋之