イタリアの黒い服
Date:09/7/7
もう10年以上前になりますが、ダークスーツを買おうとしたときのことです。ミラノの馴染みの店主に「葬式にも出れるくらいの黒さがいいかな」と言ったら、「イタリアではもう20年前以上前から葬式に黒い服なんか着なくなったよ。普通の色でいいんだ。結婚式もそうで、婿さんだって普通のスーツが多い。だいたい、セレモニーのためだけに特別の洋服をもつなんて経済的じゃないじゃない」と言われ驚いたことがあります。それも店主は若い世代ではなく初老です。映画やTVのニュースでみる冠婚葬祭は、やはり黒い服が多勢だったので、それが普通なのだと思っていました。「黒い服は古い世代にはファシストの象徴と思われるし、そういうのを着ているのはファッション関係者だけ・・・何を好き好んで暗い色を着るんだ?」とも説明されながら生地を眺めていくと、確かに黒はほとんどありません。ダークグレーあるいはブルーです。黒服は聖職であったり、あるいは北ヨーロッパのものです。
もちろんカラーは時代によって変化し、イタリアでも黒いスーツを着る人が、特に女性では目につきます。かつて紫色は喪服を想起させるタブー色であったのが、この数年の流行でまったく一般的になりました。これはH&Mなど大手外資系のファッションが進出してきたためであると言われています。さて、こんな話を思い出したのは、昨日、奥さんが知人の葬式に参列したときの様子を話したからです。教会で行われた葬儀には150人くらいの参加者がいて、黒の洋服を着ていたのは、3-4人だけだったと言います。35度近くの暑い昼間のことですから、シャツを外に出した姿、ポロシャツ、赤いシャツ・・・・ネクタイをしたスーツ姿でさえ、殆どいなかったとのことです。

喪主でさえ黒服ではなく普通のシャツ姿。親族の多くはサングラスをずっとかけていて、涙を目の腫れを隠します。それが特徴といえば特徴かもしれません。そういえば、TVでみる葬儀も、有名人や政府や軍関係者のそれをのぞけば、一般人の葬儀はまったくの平服、それも日本で言うレベルの平服ではなく、日常生活の服そのままで参加する人が多いことに気づきます。日本の通夜や葬儀のように教会に記帳するノートがおいてあるわけでもないし、香典をそこで渡すという習慣もないので、日常生活の延長線で教会に足を向けることができます。集団的義務による葬儀参加という意味合いが少ない人たちも参加する、という表現が妥当かどうか分かりませんが、そういうことと喪服というドレスコードの崩壊は関係あるのでしょうか。
洋服の選択というのは、ドレスアップよりドレスダウンの判断のほうが難しいです。オフィスに行くときより、工場に行くときのほうが迷うし、平日に人に会うより、週末に人に会うほうが迷います。しかし、葬儀という場で多くの人がこれだけカジュアルであると、迷いようがなくなります。もちろん、亡くなった方とその親族への敬意という考え方がないわけではなく、だからこそ、数は少なくても黒い服を着た人が昨日もいたわけです。習慣や考え方の変化とそれにかかる時間について色々と考えさせられます。






