日本のイタリア料理あるいは「ものづくり」

ぼくは日本でわりとイタリア料理を食べます。和食ばかりだと地中海の強い味を体の中から欲するということもありますが、日本における「イタリアの今」を知るのに参考になるからです。文化人類学のファビオ・ランベッリ『イタリア的ー「南」の魅力』(講談社)のなかで、日本のイタリア料理の特徴が紹介されています。いわく、ハムはプロシュート以外はドイツ系ソーセージ、パンはフランスパン、チーズはパルミジャ-ノの以外はフランス系・・・・そしてパスタは固いパスタ、これらが日本のイタリア料理であり、イタリア料理が完全に日本の西洋料理の体系に嵌っているといいます。

米国経由のスパゲッティやピザではなく、日本でイタリア料理が本格的に「お洒落なもの」として普及しはじめたのは、1970年代から80年代以降です。それまでマカロニとは、どちらかといえばマイナーなイメージがありました。つまり、それまでに日本で定着していたドイツ系ソーセージやフランス系チーズの枠組みに、イタリア料理のアイテムが適時はめ込まれていったことによって、「日本のイタリア料理」が出来上がってきたというわけです。これは米国や他欧州各国のようにイタリア人移民によるコミュニティが日本にはなく、イタリア料理体系を丸ごと伝達する受け皿がなかったからではないかとランベッリは語っています。

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このエピソードは何かに似ています。そうです、ヨーロッパでのキリスト教の発展において、それぞれの国での民俗的習慣を取り入れていった事例と相似です。キリスト教の代表的イベントであるクリスマスもそうした風習の一つであることは良く知られていますが、言ってみれば、キリスト教でさせ、そういう意味でのローカリゼーションが布教に際して重要なキーであったわけです。これはキリスト教だけでなく、あらゆる宗教にあてはまり、社会学者の八幡さんは、アニミズムが全ての地域の基本レイヤーにあり、インドネシアなどは、その上に仏教やイスラム教がある「三階建て」であると先日話していました。そこで昨日の記事で、魚を炙ることが寿司の海外普及を助けてきた話を書きましたが、日本のイタリア料理は寿司の全く反対の例であるといってよいでしょう。

キリスト教でさえ、イタリア料理でさえ・・・ということです。日本の工業製品をヨーロッパ市場で売るにあたり、この「日本のイタリア料理」は、とても参考になると思います。フランチーズに勝てる部分、ドイツのソーセージに勝てる部分、そうした一つ一つの勝負どころと、パスタという圧勝を果たせる領域の確保。そして地中海的であることのイメージ的優位性。市場分析と戦略が如何に重要で、それ次第でオセロ的な大逆転ー日本でのフランス料理に対するイタリア料理は、オセロ的大逆転としか表現しようがないでしょうーが可能である証左であるといえます。

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Category イタリア料理と文化 | Author 安西 洋之